「デジタルマーケティング&マネジメント サミット 2011」報告

【午前の部】マーケティングこそ企業経営の根幹―日本コカ・コーラ、米グーグル、米フォースクエアなどが登壇

【午後の部トラックA】ソーシャルメディアにどう向き合うか―ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティングなどによる講演とパネルディスカッション

【午後の部トラックB】これからのマーケティング投資戦略―ソフトバンクモバイルなどによる講演とパネルディスカッション

ソフトバンクモバイル執行役員マーケティング・コミュニケーション本部本部長の栗坂達郎氏

 「17190、これは何の数字だと思いますか」

 ソフトバンクモバイル執行役員マーケティング・コミュニケーション本部本部長の栗坂達郎氏は、会場に詰めかけた聴講者に向かってこう問いかけた--。

 これは、日経デジタルマーケティングが、日経ビジネス、日経ビジネスオンラインと共同で7月15日、東京都目黒区で開催した「デジタルマーケティング&マネジメント サミット 2011」午後の部、トラックBの特別講演での一幕である。ちなみにこの催しは、日経デジタルマーケティングの読者無料セミナーの第2回でもある。

 1万7190本は1年間に流されるテレビCMの総数で、「好感度の反応があったのは、そのうち7522本で約1万本はほぼ反応がない(CMインデックス調査)」(栗坂氏)と言う。では、注目を集めてテレビCMの効果を上げるにはどうしたらよいのか。栗坂氏は「クリエーティブとサイエンスの両輪に力を注ぐ」と題した講演で、同社の取り組みを紹介した。

 クリエイティブの基本戦略は、SMAPなどの「(1)大胆なタレント起用」、白戸家CMにおける「(2)予想外な展開」、白戸家で昨年展開した“お父さん”の選挙立候補シリーズなどの「(3)ドラマタイズ展開」、浜崎あゆみさんなどを起用する「(4)多彩なゲスト展開」、でかストラップCMなど店頭販促との「(5)プロモーション連動」の主に5つ。こうした取り組みで話題性を高めて効果を上げている。

 SMAPのメンバーが屋内を踊りながら歩き、大勢のエキストラとともに草原の中へと飛び出す60秒CMでは、「100mあるスタジオで歩くシーンを撮り、大量のエキストラも使ったことで制作費はかなりかかり、(孫正義)社長からは役員会で3回も吊し上げられた」ことを、講演で栗原氏は“暴露”した。しかしオンエア初日で認知度50%を獲得するなど、「メディア費とクリエーティブ費の総和に対して得た好感度、契約者数を考えれば十分元が取れている」と、ROI(投下資本利益率)に対する考え方を示した。

CM放映前、中、後の調査を徹底

 ソフトバンクモバイルはこうしたクリエーティブだけでなく、サイエンス、数値的な分析にも力を入れている。

 放映前、放映中、放映後の各段階でCM好感度、商品認知経路、キーメッセージの理解度などを調査する。CMの放映中に「学割 3年間無料」といったキーメッセージが9割以上の視聴者に伝わるケースもあれば、3~4割にしか理解されないケースもある。理解度が低ければ、放映半ばの段階でもナレーションやテロップを変え、案そのものを再構成するという。

 また、テレビCM、新聞広告など各媒体別に、「販売貢献度」と「1契約獲得当たりの単価」の2軸で4象限を作り、効果を分析していることも、講演で明らかにした。例えばテレビCMのように契約を獲得できる件数も多く獲得単価も安い場合は「維持」、PRのようにさほどコストはかからず貢献度が高いなら「増量」のように方針を決めているという。

 ソフトバンクモバイルの継続的なシェア拡大の秘訣には、広告宣伝活動における「クリエーティブ」と「サイエンス」の徹底があると認識させられる講演となった。

ROIは“モンスター”、上司、広告主を美しくだます

左から、リクルートMIT United インターネットマーケティング室シニアディレクターの友澤大輔氏、日産自動車経営企画本部ライセンスビジネス担当部長の野口恭平氏、goomo取締役の平山幸介氏

 午後の講演トラックBでは、その締めくくりとして、パネルディスカッション「企業経営に直結するマーケティングROIの可視化と最大化」を実施した。リクルート、日産自動車、東京放送ホールディングス子会社でクロスメディアプロモーション企画・制作会社のgoomoの担当者らが意見を交わした。

 各パネリストが自己紹介を終えた後、リクルートMIT United インターネットマーケティング室シニアディレクターの友澤大輔氏は、「日産自動車さん、goomoさんのような企画は当社ではなかなか受け入れられにくい。どう(ROIを説明して)説得するのか」と議論の口火を切った。

 リクルートは、「CPA(顧客獲得単価)お化けと言われている」(友澤氏)というように、マーケティング施策の計画においては、ROI(投下資本利益率)が最重視される。その一方で、CPAばかり重視すると縮小均衡に陥ってしまい、新しいチャレンジがなかなかできなくなってしまうのが課題になっている。

 日産自動車経営企画本部ライセンスビジネス担当部長の野口恭平氏は自己紹介の際に、「バーチャルとリアルを組み合わせた体験型コミュニケーション」として、2011年のカンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル(カンヌ国際広告祭)のメディア部門で金賞を受賞した「GT ACADEMY」というプロモーションを紹介していた。GTRの発売を機にカーレースのオンラインゲーム「グランツーリスモ」と共同で欧州で展開したものである。

 ゲームで優秀な成績を収めたプレーヤーがトレーニングを受けて、ドバイ24時間レースという実際のカーレースに参戦するというものだ。レースには2人が参戦し、1人は2位に入った。ゲームの参加者は2万5000人、多数のメディアで取り上げられて広告換算でも大きな成果が得られ、GTRのスポーティーなイメージの向上に貢献したという。野口氏は、この取り組みを「効果を高めるための立体的アイデア、ビッグアイデア」と評した。理詰めでROIを高めるプランを立てるより、飛び抜けたアイデアがROIを高めたといえよう。

 goomo取締役の平山幸介氏は、テレビとネットを連携させた企画事例を多数紹介した。その1つは、コナミデジタルエンタテインメントがゲームSNS「GREE」上で展開する位置情報を使ったゲーム「神ゲッツ!」だ。TBSテレビで金曜日の深夜に、タレントがゲームを楽しむ連動番組を放映し、同時間帯の視聴率1位になっている。ゲーム利用の促進につながっているという。

「投資に対して何台売るか」がすべて

 先のリクルートの友澤氏からの説得法に関する問いかけに対して、日産自動車の野口氏は、「細かいKPI(重要業績評価指標)を説明しても始まらないので、投資に対して何台売るか、そして大きな中間指標として試乗数などを(社内で)コミットする」と説明した。その裏側でマーケティングマネージャーは30~40のKPIを設定して、プロモーションが予定通りに進まない場合に、どの部分が問題なのかを把握している。その結果、最低限の軌道修正で済ませることができるという。

タウマーケティングコンサルタンツ代表取締役の田中義啓氏

 goomoの平山氏は「一緒に作り、“共犯者”になること」と語った。スポンサー企業が目指すゴールに忠実に沿って企画を立てると面白いものにはならないことが多い。メディアとオーディエンスをともに理解しながら、「それぞれ妥協する部分は妥協して作っていく」(平山氏)と制作の現状を明かした。

 最後には会場からも質問を受け付け、マーケティングROIを巡る議論は盛り上がった。モデレーターのタウマーケティングコンサルタンツ代表取締役の田中義啓氏は、「ROIは“モンスター”で、正解はない。全精力をかけて研究する人もいるが、我々は企業経営への応用が重要だ」とした上で、「マーケティングは経済を大きくしていくためのもの。効率ばかり追うとシュリンクしてしまう。広げるためには、(上司に納得性の高いROIを説明して)美しくだますことが重要だと思う」と締めくくった。

「デジタルマーケティング&マネジメント サミット 2011」報告

【午前の部】マーケティングこそ企業経営の根幹―日本コカ・コーラ、米グーグル、米フォースクエアなどが登壇

【午後の部トラックA】ソーシャルメディアにどう向き合うか―ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティングなどによる講演とパネルディスカッション

【午後の部トラックB】これからのマーケティング投資戦略―ソフトバンクモバイルなどによる講演とパネルディスカッション

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