富士重工業は2008年より、「SUBARU オフィシャルWebサイト」のサイト改善法を改めて大きな成果を上げている。従来の四半期に1度の改善ペースから、月、さらには週単位で小さな改善を繰り返すように変更。富士重の販売店への来訪者数と相関が高い「販売店検索」などのページへの到達を最終成果と定めて誘導を強化し、誘導率をサイト刷新前と比べて7倍に高めた。

同社は2011年3月期、海外販売が好調で自動車販売台数、売上高、当期純利益ともに過去最高を記録した。しかし、国内は市場の縮小に逆らえず、販売台数は前期比で7.7%減の15万8000台に終わった。売り上げの拡大より収益力の強化が課題となっている同社にとって、Webから店舗への誘導率を高めることは重要な戦略となりつつある。
富士重でWebサイトを担当するスバル国内営業本部マーケティング推進部宣伝課主事の鈴木曜氏は、各車種の宣伝担当者と毎週のように打ち合わせを重ねている。会議では、「CMと連動しSP(スペシャル)コンテンツでより特徴を派手に伝えたい」と、車種の宣伝担当者が主張すれば、「車の詳細を気にされて来訪されているので、スペシャルコンテンツ化する必要はない」とWebサイト担当者が反論するといったこともよくある風景だ。ときには、アクセス解析データを基にサイト改善を勧める鈴木氏と車種担当の主張がぶつかり、激しい議論になることもある。
販売に直結するEC(電子商取引)サイトと異なり、メーカーのサイトは最終的な目標をどう設定して、それを達成したか否かの判断基準を定めるのは難しい。ついついサイト全体のPV(ページビュー)やユーザー数に一喜一憂しがちだ。しかしそれでは、事業や経営への貢献は可視化できず、サイト改善に必要な予算は十分確保できない。
来店者数とWeb閲覧の関係性を数値化
こうした問題を解決するために鈴木氏は、サイト担当となった2007年から約2年かけて、サイトの利用状況と販売店への来訪者数の関係を探った。サイトの役割は「スバルブランドとの出会いの創出から販売店での商談の手前まで。商談という“電車”に乗せる“駅”のようなもの」と考えており、販売店への誘導を重視する。サイトのアクセス数は新製品の広告やPR活動、キャンペーンに影響を受ける。それよりサイトを訪れた人をしっかりと商談の手前まで持って行く確率を高めることを目指している。
分析の結果、鈴木氏は週末の来店者数と関係が深いのは、「カタログ請求」「試乗車検索」「販売店検索」「オンライン個別見積もり」であることを突き止めた。わりと当たり前の結果ではあるが、単なる仮説ではなく数字でその関係性を示すことで、上司や周囲にサイト運営の目的を理解してもらい、サイト改善のための予算を確保することが可能になる。
これら4つのページへのアクセスを、サイトの最終成果である「コンバージョン」と位置付け、車種別のページを見た人がコンバージョンのページを利用する率をコンバージョン率と定めた。そして、その率の向上に力を注いだ。
車種別のページでは、安全性を打ち出したい車種なのにそのコーナーへ行く率が低ければ、バナー画像を作り直したり、パソコン画面上で利用者の目線が最初に向く左側へ移動させたりする。配置の変更程度なら鈴木氏の判断で即座に実施することもある。「クルマと同じで小さい改良を重ねることで、モデル末期には全然違うページになっている」(鈴木氏)のが理想だ。
四半期ごとのPDCAより、毎週の仮説検証
そして、カタログ請求、販売店検索などコンバージョンに達する人はその直前にどのページを見ていたのかを調べるため、アクセス解析の結果から上位3ページをリストアップする。「このクルマは安全性が訴求点」などの仮説を基に車種を分類し、見積もりの前に安全を訴求したコーナーを見た確率が高ければ、仮説は正しく機能していたと検証できるわけだ。

鈴木氏が現職に着任した当初は苦労の連続だった。アクセス解析ツールの仕様から、解析結果が出るのは2~3日後。前例にならって四半期に1度のペースでサイトを改善したが、なかなか成果は表れない。当初トップページを訪れた人の40%は、アクセス直後にサイト外へ離脱(直帰)していた。改善を重ねても1年間は、直帰率が30~40%を上下し、それより大幅には下がらない。
そこで鈴木氏は「四半期でPDCA(計画、実行、評価、改善)を回すより、仮説と検証を高速で繰り返すことが有効だ」と考え、アクセス解析ツールを入れ替え、月1回、週1回と改善ペースを短くしていった。新製品のページができた直後約1カ月ほどは、毎週のペースで改善作業が続く。前週のアクセス状況を月曜にまとめて火曜日には車種担当に渡して、必要であれば会議で改善点を相談している。
来店率を増やすサイト改善は、収益力向上に直結する重要な取り組みだ。広告宣伝費の総額が減る中でも、サイト運営費への配分比率は増加している。2009年には大規模リニューアルを実施する予算を得た。このときはトップページからの直帰率を10ポイントも低減させることができた。2008年に40%だったトップページの直帰率は現在は7%以下まで下がり、車種別ページを見た人のコンバージョン率は2%から14%へ7倍向上した。

今後はスマートフォンへの対応が課題となる。富士重は6月14日にスマートフォン用サイトをオープンした。操作方法はパソコンでは「クリック」のところが、スマートフォンでは「タップ」となり、ユーザビリティは全く異なる。その利用状況をアクセス解析で正確に把握するには、サイト制作時にスマートフォン利用を見越した工夫をしなければならないこともある。今後スマートフォンによる企業サイトの利用が広がる可能性も低くない。アクセス解析データに基づいて利用者動向を検証し、事業への貢献度合いを把握することで、スマートフォン投資を決定していくことになる。