プレッツェル専門店「アンティ・アンズ」の人気が衰えを見せていない。話題の商品が日本上陸を果たし、一時期は手に取ることすらできないのに、ブームが終われば閑古鳥。そんな商品が少なくない中、アンティ・アンズは息の長い商品になる可能性を秘めている。秘訣は、日本第1号店がオープンする前から、「Twitter」などのソーシャルメディアを使って地道な訴求活動をしたことだった。
昨年11月18日、東京・池袋駅の東口付近に突如現れた長蛇の列。全世界に1000店舗以上を展開する、プレッツェル専門店「アンティ・アンズ」の1号店開店のため来店した客の列である。店側の予想をはるかに超える来店数だったため生産が追いつかず、初日から最長で2時間待ちになるといった混乱を招くほどの盛況ぶりだった。
人気の裏側には、店舗の立地すら固まっていないころから、Twitterをはじめとするソーシャルメディアを使って、ユーザーとの対話を続けてきたプレッツェルジャパン(東京都港区)のマーケティング担当者の努力があった。
立地場所決まる前からTwitter
プレッツェルジャパンの井川沙紀PRマネージャーは、日本展開に当たり、ネットなどで日本におけるプレッツェルの認知度について調べていた。その時受けた印象は次のようなものだった。
「アンティ・アンズはもとより、『プレッツェル』についての認知度は日本ではとても低かった。中には知ってる人もいるけど、固くて塩辛いといったネガティブな意見が散見された」
プレッツェルには実のところ、パンのように柔らかく焼き上げたものと、小さくて固く塩で味付けされたスナック菓子のようなものの2種類がある。アンティ・アンズで提供するプレッツェルは前者のものだが、「日本では当社で提供するようなプレッツェルはほとんど知られていなかった」と、井川氏は言う。
「開店するまでに、なるべくアンティ・アンズのプレッツェルの特長をきちんと伝えなければ」。こんな危機感を抱いたことから、1号店の立地場所も決まっていないうちから、Twitterを使って商品の特徴を伝えていくことを決めた。

ただ、情報発信をしても見てもらえなければ魅力は伝わらない。そこで、まずはプレッツェルに興味のありそうな人を、少しずつフォローしていった。例えば、Twitterのプロフィルを見て、タイに住んだ経験がある人や、タイ旅行が好きな人をフォローしていった。「タイにはアンティ・アンズの店舗が約100あり、テレビCMも放送していた。タイに関心のある人ならアンティ・アンズを知っている可能性が高いと思ったから」と井川氏は説明する。
自動でフォロワーを増やすようなツールも数多く出回っているが、むやみにそれを使うと、「本当に興味がある人以外には、かえって迷惑になる」(井川氏)と考え、Twitterユーザーのプロフィルを見ながらフォローすべき相手を選んでいった。プレッツェルに少しでも興味を持ってもらうためにソーシャルメディアを活用しているのに、なりふり構わずフォロワーを増やそうとしていては、“スパム”扱いされて信用を失いかねない。そうなってしまっては本末転倒だ。
手間はかかるが、そうしてフォローしていった。この結果、アンティ・アンズを知っている人などが日本に店舗ができることを歓迎し、「日本でもたくさん店舗が出来ると良いな!」といった応援のメッセージを投稿してくれた。アンティ・アンズを知人などに告知してくれたこともあり、少しずつフォロワーは増えていった。
開店前に試作品のプレッツェルを作った際のTwitterへの投稿で井川氏は、「あのなんとも言えない”サクッ”"モチッ"は、今日(の試作品)も最高でした!」と食感を伝えた。固いという従来のプレッツェルに対する印象を払拭することを目指したのだ。同時に、店舗の場所やユニフォームが決まっていく様子も井川氏は逐一投稿していった。そのほか、TwitterとFacebookユーザーに限定する形で、約50人を招いた試食会などを実施してクチコミの波及を狙うなど、来るべき店舗オープンを盛り上げていった。
「最初はネット上にざわめきを起こすだけでも良かった。だけど、それだけではもったいない」。そう感じた井川氏は、Twitterで興味を喚起するだけではなく、ソーシャルメディアから来店につなげる施策にも取り組んだ。その1つが「アンティ・アンズPR大使」募集キャンペーンだ。
人気の維持にもソーシャルメディア
このキャンペーンは応募者に無料でプレッツェルを食べられるクーポンを20枚配布して、これを受け取った人が16人の知人を来店させてくれたら、その人に半年間無料でプレッツェルを食べられるカードを提供するというものだ。告知に当たっては、Twitterや自社サイトだけではなく、Facebookのセルフサービス広告である「Facebook Ads」を使って、店舗近隣にある立教大学に通う人をターゲットに設定して広告を配信した。
応募期間の7日間で30人超が応募し、アンティ・アンズPR大使を目指してクーポンの配布に協力してくれた。そのうち4人が、16人の来店という目標を達成した。未達に終わった応募者も、そのほとんどが10人以上を連れてきてくれたため、累計で約400人の来店につながったという。

こうした地道な取り組みを続けた結果が、開店当日の行列という成果につながったようだ。さらに青と黄色で彩られた外観の店舗に、たくさんの人だかりという異様な光景になったことで、「アンティ・アンズに関するTwitter上の投稿は何十倍にも膨れ上がった」(井川氏)。ネットのクチコミがリアルの行列となり、再びネットのクチコミを喚起しながら来店者が増えていくという好循環を生み出している。
今年に入って、2月には秋葉原店を開店し、3店舗目として3月に二子玉川店をオープンさせた。いずれも人気を博している。年内には首都圏の店舗数を約10店舗まで増やす計画となっており、今後5年間で国内に100店舗の展開を目指すという。
順風満帆に見える同社だが、課題もないわけではない。
アンティ・アンズの日本展開は、経営コンサルティング事業のリヴァンプ(東京都港区)が手掛けている。リヴァンプは、人気ドーナツ店「クリスピー・クリーム・ドーナツ」の日本展開を支援し、オープン当初は人で溢れかえらせた実績がある。数時間待ちも珍しくなかった。しかし現在では、都内店舗に関するクチコミとして、「並ばなくても購入できた」といった声も少なくない。
今は人気のアンティ・アンズも、ゆくゆくはこうした状況に直面する可能性は高いと井川氏はみる。そのためオープン当初だけでなく、ソーシャルメディアを継続的に活用して、顧客との対話を日々続けている。人気があるうちこそ、「かく」のはあぐらではなく、ソーシャルメディアへの投稿文面ということのようだ。