子供向け教育事業などを手がける小学館集英社プロダクション(東京都千代田区)は今年1月から、iPhoneアプリを矢継ぎ早にリリースしている。同社は小学館の学習雑誌などを通じた効率の良い販促で顧客を獲得してきたが、その環境は大きく変わっている。昨年4月に設立したデジタルメディア戦略室で新たな販促手法を探り、一定の成果を上げつつある。

例えば、同社の無料iPhoneアプリ「保育アプリのいないいない→ばぁ!」のダウンロード件数は、まもなく6万件に達する勢いだ。1月11日に提供を開始して以来、その数は継続して伸び続けており、現在は5万6000件を超えている。
アプリは、同社事業の1つである小学館アカデミー保育園のブランディングを目的としたものだ。アプリ画面をタップするたびに動物キャラクターが消えたり現れたりする「いないいないばぁ」のアプリで、父母などオリジナルの写真を取り込んで楽しむこともできる。
0~1歳児が父母と、もしくはひとりで遊ぶことを想定している。ベビーグッズの企画販売を手がけるダッドウェイ(横浜市港北区)と共同開発した。
広告の効果は1日で終わってしまう
継続的な販促効果。これが小学館集英社プロダクションが無料iPhoneアプリを開発、提供する理由の1つだ。デジタルメディア戦略室の中村貴之課長はこう語る。
「単発の広告は(短ければ)1日、(長くても)数日でその効果が終わってしまう。アプリなら、継続して外部メディアに露出できる点がいい」
提供を開始した当初は、ニュースリリースの配信、同社の保育園や学習教室などの施設や会報誌での案内、スマートフォン専用アドネットワークを通じた広告出稿など、告知活動を集中的に実施した。リリースは一般メディアだけでなく専門メディアにも配信。アプリレビューの専門サイト「ミートアイ」や「オリコンアプリランキング」、そして「オールアバウト」などの情報サイト、育児情報サイトへの記事掲載に結びつけた。
そうした告知活動の結果、保育アプリのいないいない→ばぁ!は、アップルのアプリ配信サービス「App Store」の教育・無料アプリカテゴリーで最高6位を獲得し、その後も50位圏内に入り続けている。アプリ内容は親子で楽しめる普遍的で流行に左右されないものであり、同社の幼児教育のノウハウを生かしてApp Storeでのユーザー評価で平均4つ星という高い評価を獲得していることがその理由だろう。
iPhoneアプリのゲームを独自の仕様で開発すると、一般的には100万~300万円程度はかかる。初期投資は必要だが、利用者が広がる過程にあるiPhoneなら、App Storeを通じたダウンロードは増え続け、新しい層へブランドの知名度を高めることができる。
中村課長は開発費用を明かさないが、「月で割って考えれば大したことはない」と語る。iPhoneアプリのダウンロードを促進するための広告費用より、制作費用に多く配分してアプリ利用者の満足度の高めることが肝要だといえる。
アプリ間誘導でダウンロード増
小学館集英社プロダクションはその後も事業、対象年齢別にアプリを提供している。1月17日には、幼児教室「ドラキッズ」の販促を目的とした「数あそび ドラキッズ」の提供を開始して教育・無料カテゴリーで最高3位。ダウンロード件数は保育アプリを上回る5万8000件に達している。
5月18日には保育アプリの第2弾「保育アプリのしゃぼん玉あそび」の提供を始め、開始1カ月で既に3万2000件もダウンロードされた。これは、第1弾のアプリをバージョンアップして、第2弾の告知を掲載した効果もある。第1弾アプリは「ダウンロード件数の7~8割は削除せず利用されている」(中村課長)ため、こうした相乗効果も見込める。

では、アプリは保育サービスや学習教室の顧客獲得に結びつくのか。
ドラキッズなどのアプリでは、「お知らせ」コーナーから資料請求用サイト(パソコン用)と電話問い合わせを案内している。ただ、アプリを楽しんで即座に資料請求するという流れにはなりにくい。アプリを楽しむiPhoneでサービス内容を理解してもらうことが必要だ。「次のアプリでは商品説明を加えて、資料請求フォームはスマートフォン対応させないといけない」(中村課長)と課題が見えてきた。

一方で効果も出始めている。ドラキッズのサイトへのアクセスに占めるiPhone比率は20%を超え、iPad、iPod touchやAndroid端末を足すと40%近くになるというのだ。
昨年1~6月、サイト全体へのアクセス数に占めるiPhone比率は1%に満たなかったから大きな変化だ。ドラキッズは特異な例だがアプリを出した商品全般でもアクセス数に占めるiPhone比率は5~6%と、アプリを出していない商品の2~3%の2倍程度の比率となっている。
「各ブランドの販促担当は“堅い”層にリーチして顧客を獲得していく。私はデジタルメディアを使って顧客層を広げるのが役割。その意味では効果的だった」と中村課長は自負する。これは資料請求件数にも影響を及ぼしているようだ。
東日本大震災の影響で、本来は3月にピークが来る学習サービスの資料請求時期が遅れている。そのため正確な比較はできないが、4~5月のドラゼミ全体の資料請求件数は前年比128%、ドラキッズに至っては150%まで伸びた。iPhoneアプリによる認知拡大がその一部を支えているのだろう。
課金型アプリの開発も視野に
小学館集英社プロダクションがデジタルメディア戦略室を新設したのは昨年の4月のこと。Webサイトの構築と新しい販促手法を開拓するのがミッションだ。一昔前は学習雑誌のとじ込みはがきが中心だった顧客獲得ルートは、今はWebサイト、ケータイ経由が4割を占める。今回のノウハウを生かしてiPhoneアプリの開発、提供を続ける予定だ。
今後は、「有料課金できるアプリで販促費を回収する可能性も探る」(中村課長)予定だ。大人向け教育アプリ、同社で管理するキャラクターを生かした海外向けアプリなどを想定する。小学館、集英社グループの強力なコンテンツは、デジタルマーケティング展開の強力な武器となりそうだ。