日本コカ・コーラは5月30日にコーポレート(企業)サイトを刷新し、これにあわせてスマートフォンやタブレット端末でも利用しやすいようにデザインを一部変更した。これからスマートフォンが本格普及するのをにらんだ第一歩との位置付け。来年中をめどにスマートフォンへの全面対応を進めるが、マーケティングの“王者”とも言われる同社ですら、確信を持って進めているわけではない。

「コーポレートサイトのリニューアルを遅らせてでも、スマートフォン対応は必須の課題だった」
日本コカ・コーラのインターラクティブ・マーケティング江端浩人バイスプレジデントは、同社サイトのスマートフォン対応へ強い意欲を見せる。同社にとってスマートフォン対応は、ソーシャルメディア活用に次ぐデジタルマーケティングの大きな課題となっていた。
5月末の企業サイトの刷新にあわせて、トップページと第2階層ページの一部をスマートフォンでの表示に最適化させた。「震災後は特に、企業がどれだけ情報を開示できるかが消費者の製品選びに影響を及ぼすようになっている」と、江端氏は企業サイトの重要性が高まっていることを示唆する。
電力不足に対する企業の取り組み姿勢について、とりわけビジネスパーソンや就活生からの関心が強い。“電気を食う”イメージのある自動販売機を扱う日本コカ・コーラにとって、ビジネスパーソンなどから普及が始まっているスマートフォンへの対応は喫緊の課題だった。
バナー画像で第2階層への誘導強化
スマートフォン対応の最大のポイントはトップページのデザインだ。

パソコン用サイトとスマートフォン用サイトのトップページは同様の基本構成、表示内容となっている。スマートフォン対応を強く意識して、パソコン用トップページのデザインも決められたようだ。
デザイン面の特徴は、第2階層以下へ誘導するためのバナー画像を多用して、ユーザーの注目を集めていることだ。しかし、全ての画像を同列に並べては1つひとつが目立ちにくくなるし、表示面積を取りすぎる。そこで、1つの枠の中に複数の画像を納めて、左右にスクロールして表示を切り替えるようにした。
例えば「日本コカ・コーラについて」という企業情報コーナーへの誘導枠は、「広報ブログ」「自動販売機の節電への取り組み」「世界をプラスに回そう」「環境に優しいパッケージ」といった4つのバナー画像が最初に並び、右にスクロールさせると「よくあるご質問」など別の4つのバナー画像が表示される(6月7日時点)。
スマートフォン用サイトではバナー画像を縮小して、並べる数は2つに減らしているが基本構成は同じ。タッチパネル画面を指でなぞり、画像を左右にスクロールして切り替える。表示面積が節約されて縦スクロールが減り、スマートフォンでも操作しやすい構成となっている。
ただし、枠内に表示される画像を手動で切り替えないと全てのバナー画像が見られないため、「利用者があまり見ない第2階層ページ」が存在してしまう恐れもある。
5月末の刷新で、スマートフォンに対応させたのはサイトの一部にとどまる。これには対応の決断が急だったという背景もある。
「昨年はFacebookへの対応を急いでおり、リソースの問題でスマートフォン対応はその後にしようと考えていた」と江端氏は明かす。しかし昨年12月、ソーシャルメディア界の有識者を招いたイベントを開催して、その参加者のスマートフォン利用率の高さや、対応への要望の強さを目の当たりにして、スマートフォン対応を急ぐべきと確信した。そのとき既に、企業サイトの刷新プロジェクトは動き始めており、そこにスマートフォン対応を加えたのは自然な流れだった。
パソコン、ケータイにスマートフォン用サイトが加われば、サイトの数の分だけ運用の手間が増える懸念がある。そこで、パソコン用サイトとスマートフォン用サイトでは画像などの素材を共用して運用負荷がさほど高まらないように工夫している。
スマホ向けデザインの最適解を試行錯誤
難航したのはデザインの決定だ。大手企業のサイトですら、スマートフォン対応は道半ばという段階だけに、デザインの定番といえるようなものはまだ存在しない。「多数の案の中から指スクロールでの操作性や、深い階層にある情報を画像で見せることを重視して決めた」(インターラクティブマーケティングの渡辺幸恵アシスタントマネジャー)と言う。
それ故、パソコン、スマートフォン双方とも現在のデザインがベストだという確信は同社にない。ユーザーの声、全体のページビューや滞在時間、第2階層以下への誘導数、コカ・コーラ パークとの行き来の数、コカ・コーラサイト全体での滞在状況といった様々な指標を見ながら改善を繰り返す考えだ。

アドビシステムズの「Flash」技術を利用するか否かも悩ましい問題だ。iPhoneがこの技術に対応していないため、今年新しく作るコンテンツでは、原則Flashは使わない方針を固めた。ただ既存のコンテンツには、Flashを利用しているページも残っている。これへの対応も含め、「今後、サイト全体の情報設計を見直しつつ、各コーナーのリニューアルのタイミングで対応していく」(江端氏)ことで、ブランドサイトも含めて来年中にスマートフォン対応を完了させたい考えだ。