日経デジタルマーケティングは5月31日、東京・浜松町で「Facebook」をはじめとするソーシャルメディアのマーケティング活用をテーマにした、第1回本誌読者限定セミナー「Facebook Impact――ソーシャルメディアが変える企業マーケティング」を開催した。フェイスブック日本法人の責任者によるFacebookのサービス理念や、積極的にマーケティング活用する企業の事例講演、パネルディスカッションを通じて、Facebookなどを活用する上での利点や課題について議論を深め、会場では本誌読者の360人が聞き入った。

Facebook Impactのセミナー会場

 事例講演の最初に登壇した日産自動車グローバルメディアセンター ソーシャルメディアコミュニケーションの小川正太郎アシスタントマネージャーは、電気自動車「リーフ」の事例を中心に、同社のソーシャルメディア活用戦略を明かした。

日産自動車グローバルメディアセンター ソーシャルメディアコミュニケーションの小川正太郎アシスタントマネージャー

 リーフは量産型としては初の電気自動車となる。そこで、「電気自動車のいい面、使い勝手が違う面、それを納得して買ってもらいたい」(小川氏)ため、マス広告は出さずにソーシャルメディアを中核にマーケティングを展開して、理解を深めた上で購入してもらう戦略を取っている。

 その施策の一例が、発売前の昨年11月に2日間にわたって実施した公道の実証走行のネット中継だ。ライブ動画配信サービス「Ustream」と「Twitter」を併用してその模様を生中継して、視聴者からの質問を受け付けた。エアコンの効き具合などに関する質問が寄せられたという。視聴者数は1日目は2052人、2日目は1267人に達した。

GTFという独自のKPIを設定して効果を把握

 また、同社が施策のKPI(重要業績評価指標)の1つに置くGTF(Gross Tweet Flow)は約284万に達した。GTFとは、施策時の日産公式Twitterの投稿数×フォロワー数(タイムラインに表示された数)と、それらのリツイートがタイムラインに表示された回数を足したもの。フォロワー数増加などの効果で、2月の寒冷地実証走行の中継ではGTFは約692万に伸びている。

 Facebookにおいては、同社は昨年7月に電気自動車(EV)、今年1月にグローバル、5月にモータースポーツのFacebookページを開設した。「Twitterはライブ感、Facebookはストックを重視」(小川氏)の方針で使い分けていく。

 小川氏はソーシャルメディア活用のポイントとして、社内の情報を発掘する「ニュースマイニング」の重要性を一貫して主張。今後は、ソーシャルメディア担当の小川氏だけではなく、デザイナー、エンジニア、社長などがソーシャルメディアを通じて、ファン、フォロワーと直接コミュニケーションすることを目標として掲げた。

店舗送客に利用して、店舗からの信頼を獲得

 続いて「無印良品」を展開する良品計画の奥谷孝司WEB事業部長が登壇。ソーシャルメディアから店舗に誘導する施策を実施した成果などを明らかにした。同社の公式Facebookページのファン数は、8万6000人を超える(5月31日時点)。

 同社のECサイト「無印良品ネットストア」の昨年度売上高は約82億円で、2006年の段階で既に旗艦店の有楽町店を抜いてナンバーワン店舗。 2004年から5年間はWeb広告や店頭でネット会員を順調に増やし、販促メール配信で売り上げも伸ばしてきたが、近年はその拡大路線に陰りが見えてきたことが、ソーシャルメディア活用のきっかけとなったという。

良品計画の奥谷孝司WEB事業部長

 奥谷氏は、昨年10月1日のFacebookページ開設以降に手掛けた様々な施策事例を紹介した。

 Facebookのグローバル性を生かしたのが、簡易アンケートアプリ「Survey Monkey」を利用したアンケート企画。昨年のクリスマス商戦期、「クリスマスプレゼントを何人にあげるか」「いくらぐらいのものをあげるか」といった設問ページを日本語と英語で制作し、約40日間で1000件を超える回答を得た。アプリの年間利用料金は3万円弱。経営陣にFacebook効果を説明する際、このグローバルリサーチの費用対効果の高さは、大きなアピール材料になっているという。

 FacebookおよびTwitterを実店舗への送客に生かしたのが、「有楽町店10周年ありがとうキャンペーン」だ。「無印良品といえば?」をお題に、FacebookまたはTwitterから投稿を募り、有楽町店で使える10%割引クーポンを発行。投稿コメントは、有楽町店に設置した巨大デジタルサイネージにリアルタイム表示した。奥谷氏は、「投稿件数は2150件、うちFacebookが57件。40%を超える884件のクーポン利用があり、クーポンを利用した売り上げは約1000万円に達した」と、ソーシャルメディアの送客効果の有効性を指摘した。

 奥谷氏はFacebook活用の効果として、「ポイントサイトやWeb広告よりもサイト来訪者が多い。ネットストアに対して『実店舗の客を奪う』と冷ややかに見ていた店舗スタッフにも、ソーシャルメディアの送客効果が理解されてきた」ことなどを挙げた。

 最後に登壇したユニクロのグローバルコミュニケーション部商品マーケティング&コミュニケーションチーム松沼礼リーダーはユニクロのグローバル戦略と、それを進める上でのFacebookの位置付けについて語った。

 同社は「MADE FOR ALL」というコーポレートメッセージを世界共通で掲げている。これには、国籍、性別、年代、職種に関係なく、あらゆる人にとって高品質で低価格の商品を提供するという意味が込められている。だから、グローバルの店舗展開を加速させている。

ユニクロ グローバルコミュニケーション部商品マーケティング&コミュニケーションチームの松沼礼リーダー

 「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」

 このミッションの下、2011年には、台北、バンコク、ソウルに旗艦店を次々と出店していく計画だ。2011年秋にはニューヨークにも大型店舗を開設する。そうして、2020年には5兆円の売上高を上げ世界一のSPA(アパレル製造小売業)を目指す。

 こうして世界へと進出していく中で、デジタルを活用したグローバルコミュニケーション戦略にも力を入れてきた。例えば、女性によるダンスと音楽をテーマにした時計ブログパーツ「UNIQLOCK」や日本の四季をテーマにしたブログパーツ「UNIQLO CALENDAR」など、「言語の壁に捕らわれない、見るだけで伝わる魅力」(松沼氏)のあるものを提供してきた。これをフェーズ1と位置づける。

世界のユーザーをつなぐプラットフォーム

 フェーズ2ではソーシャルメディアを活用して、「PtoP」(People to People)、人から人へと情報を伝播させる取り組みを始めたという。

 「(ファーストリテイリングの)柳井正社長が言うには、Facebookは6億人の市場に店舗を出すようなもの」

 世界中に人から人へと情報を伝播させるプラットフォームとしてFacebookはうってつけだった。ユニクロ=MADE FOR ALLというメッセージを世界中に伝えるために生まれたのが2月17日に開始したサイト「UNIQLOOKS」だ。これは、世界中の都市から、ユニクロの商品を身に付けたスナップ写真を投稿してもらう企画。実名制であるFacebookと連携することで、実在するユーザーを着用モデルにして、世界各国でユニクロが着られていることを示す。

 実際、UNIQLOOKSの来訪者の半分は海外からのアクセスだという。また、投稿される写真の6割以上が海外、とくに台湾や中国からの投稿が急増していることを明かした。

音楽ダウンロード企画が突如停止

 最後のパネルディスカッションではパネラーに講演者4人を迎えて、ソーシャルメディアマーケティングを展開する際の社内の説得法や、Facebookをマーケティングに利用する上での注意点について意見を交わした。

 Facebookが定めている「プロモーションガイドライン」に関しての話題では、特に議論が盛り上がった。司会者が「企業のFacebookページでキャンペーンが停止した例も聞かれるが、どういった運営方針なのか、基本的な考え方を教えてほしい」とフェイスブック日本法人の児玉太郎カントリーグロースマネジャーに聞いた。

左からフェイスブック日本法人の児玉太郎カントリーグロースマネジャー、日産自動車の小川氏、良品計画の奥谷氏、ユニクロの松沼氏

 フェイスブックの基本的な運営方針は、「実社会の延長として利用してもらうこと」(児玉氏)。Facebookページのファンになってもらうことを条件にクーポンなどを提供するといった、無理にクチコミを起こさせるようなことは実社会では少ない。それは実社会の拡張であるFacebookでも同様である、というのが児玉氏の主張だ。実社会と同じコミュニケーションのあり方を追求していると言える。

 児玉氏はFacebookの基本概念を説明した後に、キャンペーン停止経験のある良品計画の奥谷氏に話を振った。同社は4月に、Facebookにコメントを投稿することで、無印良品の音楽をダウンロードできるキャンペーンを実施した。「投稿することをダウンロードの条件」としたことが、ガイドライン違反に当たり、停止に至ってしまった苦い経験がある。

 同社はすぐに、投稿の有無を問わず音楽をダウンロード可能に修正した。奥谷氏は「前のめりにやっているので、失敗することもある。そうやって勉強しながら運営していく」と反省を踏まえながら、Facebookを今後も積極活用していく意向を示した。

 企業側からプレゼントキャンペーンを実施するといった情報を積極的に発信するのではなく、「ファン同士のコミュニケーションの“場”の提供」(松沼氏)というスタンスで利用してきたユニクロ。「今の会話を聞いて、ちょうどいい加減で利用者との距離を維持しないと、ユーザーが離れると感じた」(同氏)と今後、こうしたキャンペーンを展開する時に注意したいと意見を述べた。

 最後に司会者が、ソーシャルメディアは有益だがハンドリングできないところにリスクも感じる。そこに対してどう考えているかと問うと、日産自動車の小川氏は「有事の時の危機管理マニュアルがあるわけではないが、自分のところで完結するのではなく、お客様相談室などと連携してサポートし合える体制は重要」と答えた。

 ただ、「実社会でも不誠実な対応をすると、悪いことが起きる。常に誠実であることを心がけていく」(小川氏)ことが、炎上などの有事を防ぐ大原則であると説明した。(6月1日配信)

 なお、フェイスブック日本法人の児玉太郎カントリーグロースマネジャーの講演内容は、この読者限定サイトにて6月17日付で掲載。

この記事をいいね!する