「おはようございます。本日よりTwitterのHonda公式アカウントがオープンしました。クルマやバイクなどHondaにまつわる様々な情報をお届けしていきます。皆さん、どうぞよろしくお願いいたします!」(2011年3月11日10時41分)

 自社のWebサイトの充実ぶりで定評のあるホンダが、いよいよFacebook、Twitterの公式アカウント、およびYouTube、Ustreamの公式チャンネルを開設し、ソーシャルメディア活用に大きく踏み出した。スタートしたのは、奇しくも“あの日”だった。

ホンダがFacebookを中心としたソーシャルメディア活用に踏み切ったのは3月11日のことだった

 早速Twitterには「待ってました」「早速フォロー」「期待してます」といったリプライが、Facebookには「ビート乗ってます」「ツーリングの写真です」など写真付きの愛車自慢の投稿が寄せられた。

初投稿の4時間後に大震災

 初投稿からわずか4時間後。状況は一変する。巨大地震と大津波が東日本を襲ったのだ。

 「クルマやバイクなどHondaにまつわる様々な情報」を届ける計画を一気に震災対応情報に切り替えながら、ホンダは着実にソーシャルメディア活用の道を歩み始めた。

 3月11日の20時、初投稿に寄せられたメッセージへのお礼をするつもりだった第2回目の投稿は、「三陸沖を震源とする地震による弊社の被害状況について」と題したニュースリリースタイトルとその短縮URLに変わった。そのリリースには、震災の影響による自社工場の操業停止のほか、従業員の安否情報などが記された。Facebookファン数はまだわずかだったにもかかわらず、この投稿に10通以上のお悔やみのコメントが寄せられた。

 「忘れようがないスタート日になりました」

 一連のソーシャルメディアを管轄する同社広報部コーポレートプロモーションブロック主幹の石井浩樹氏はそう振り返る。

 もっとも、同社のソーシャルメディア活用は初めてのことではない。2010年2~3月にハイブリッドカー「CR-Z」の認知向上を狙って展開したmixiアプリ「Ole! Ole! CR-Z」には80万人超が参加。昨年10月から2カ月間、日本一周の旅に出た新型フィットを見つけ出す企画では、現在地のヒント発信ツールとしてTwitterアカウント「@fitvoice」を活用した。

 だが、これらはいずれも期間限定のプロモーション。マーケティングWebチャネル分類を表す「トリプルメディア」論においてソーシャルメディアは、ユーザーの評判や信用を得る、コントロール不可能な「アーンドメディア」に属する。

 しかし、上記のプロモーションは、「オウンド(自社)メディア」へ期間中に何人誘導できるかを成果指標とする「ペイド(広告)メディア」的色彩の強い活用だった。その意味で今年3月からの取り組みは、本来のソーシャルメディアの趣旨、目的に沿った初めてのものとなっている。

通行実績情報を即提供、ツイートに驚きと称賛

 開始早々に大震災に見舞われたものの、同社はソーシャルメディアへの投稿を自粛することなく、むしろ新たに得た発信手段をフルに活用した。

「インターナビ」の通行実績情報をGoogleマップ上で公開:「Google Crisis Response」自動車・通行実績情報マップ

 震災翌日の3月12日、同社はカーナビ向け交通情報サービス「インターナビ」のデータをグーグルに提供し、「Googleアース」(3月14日以降は「Googleマップ」)に公開。前日に通行実績のある道路を地図上に表示するもので、被災地域内の住民や、被災地へ支援・救援に向かう車両にとって大いに参考になる情報と言っていい。

 これをFacebookに投稿したところ、93人の「いいね!」と、「凄い」「渋滞情報以外にも活用方法が広がってスバラシイ!」といった称賛の声が寄せられた。

 またTwitterの投稿に対しては、地図にリンクするbit.lyの短縮URLのクリック数が、12~13日の2日間で約2万7000件に上った。その時点のフォロワー数は400人程度だったため、いかに多くの人にRT(リツイート)され、アクセス増につながったかが分かる。ソーシャルメディアの運用を始めていなければなし得なかった成果だ。

 また、ソーシャルメディア上の声を傾聴して、具体的な対応も取っている。震災から数日後、東京電力の福島第1原子力発電所内の放射線量が高すぎて、作業員が入るのが困難になったとき、ネット上では「被災地でASIMOは活動できないのか」「原発でASIMOが作業できればいいのに」と、ホンダが開発した世界初二足歩行ロボット「ASIMO」への待望論がにわかに高まりを見せた。「お客様相談センター宛にも、3月末までに同様の意見や問い合わせが164件に上った」と広報部コーポレートプロモーションブロックチーフの佐野友紀氏はいう。

ソーシャルメディア上の声を傾聴、そして回答

 広報とお客様センター、ASIMOの事業室が連絡を取り合って、何らかのメッセージを発すべきとの意見で一致し、FacebookとTwitterで「残念ながら現状では、ご要望をいただいた様なことができる技術には至っていない」旨を投稿した。するとTwitterでは100人以上にリツイートされた。これはお客様相談センターのQ&Aサイトにも掲載している。

利用者の声の傾聴事例となったASIMO派遣要望への回答

自社サイトのFAQにも掲載

 それにしても、なぜ新年度が始まる4月1日オープンではなく、3月11日だったのか。

 実のところ同社は、ソーシャルメディア活用の1つのスタイルとして、新車発表会のリアルタイム中継を想定していた。イベントの模様をUstreamで映像配信し、Twitterではテキスト実況、録画映像をYouTubeに蓄積して、これら映像やテキストをFacebook上でアーカイブ化するという図式だ。

 3月17日に予定していた新型コンパクトカー「フィット シャトル」の新車発表会で、ライブ中継とFacebookをハブとする情報発信に取り組むことになっていたのだ。「イベントと同日オープンではフォロワー、ファン数ともゼロなので、前の週にはスタートさせようということで、なんとか間に合わせた日が3月11日だったのです」と石井氏。

 当初の目論見とは大きく変質したスタートとなったホンダのソーシャルメディア活用。しかし時宜を得た震災関連情報の提供などで、その認知度が高まったのもまた事実だ。

 平時モードを念頭に、「Hondaのファンに共感が広がるような良好なコミュニケーションを(ソーシャルメディアで)築きたい。そうすればフォロワー数、ファン数もついてくると思う」(佐野氏)。当面の目標は、ソーシャルメディア活用で先達の日産自動車となる。「2~3年は先行されてますから簡単ではないですが、今後2~3年かけて追いつき追い越したい」と石井氏はいう。

 延期になったフィットシャトルの新車発表会は、6月16日に決まった。震災対応で早々に威力を発揮したホンダソーシャルメディア広報が、本領を発揮するのはこれからだ。