急速に普及するスマートフォン。企業の多くがパソコン用サイト、従来型のケータイ(いわゆるフィーチャーフォン)用サイトに次ぐ、スマートフォン用サイトの開設をすべきか否かの決断を迫られている。

 その中、昨年にケータイ向け大型投資の終了を決断したのが人材紹介のリクルートエージェント(東京都千代田区)だ。人材市場からのニーズが高い転職希望者の確保を狙ってスマートフォン用サイトの実験を重ね、本格普及期に備えている。

 リクルートエージェントは昨秋、スマートフォン用サイトの効果向上を目指して1つの実験をした。転職支援サービスの紹介と、職歴などを入力するエントリーフォームの2つのページで、スマートフォンで見やすいように画面のデザインを最適化し、それをスマートフォン利用者が検索連動型広告から訪れた際に見せるようにしたのだ。

スマホ対応=ユーザビリティ向上

スマートフォン用のエントリーフォーム

 スマートフォンはパソコン用サイトを閲覧できるのが利点の1つと言われてきた。だが実際に利用した人はお分かりだろうが、小さな画面では上下左右のスクロールや画面拡大といった煩雑な操作を強いられる。リクルートエージェントはスマートフォン利用者にそれまでパソコン用サイトを見せていたが、スマートフォンで利用しやすくすれば、転職支援サービスの申し込み者が増えると見込んだのだ。

 その結果、スマートフォン用エントリーフォーム利用者の登録完了率は、スマートフォン利用者がパソコン用フォームを使った場合と比べて1.5倍に高まった。入力項目の間を広く取るなど、タッチパネル画面を指でなぞることを前提に操作性を高めたのが“勝因”だ。

 この結果に、リクルートエージェントの広告宣伝部広告宣伝グループの小暮亮祐グループマネージャーは、「スマートフォン対応の定義とはユーザービリティ(の改善)だ」と再認識したと語る。

シンプルすぎると物足りない

 期待を裏切る結果もあった。スマートフォン用の転職支援サービス紹介ページからエントリーフォームへ遷移する率が、パソコン用紹介ページを利用した場合と比べて3割も低くなったのだ。見やすさやユーザビリティは、スマートフォン用ページの方が断然高まったにもかかわらず、こんな結果となった。

 この“敗因”につき小暮氏は、「シンプルに分かりやすくのコンセプトを突き詰めすぎた」と分析する。

 スマートフォン用の紹介ページでは、何度もスクロールせずに情報を把握できるように、パソコン用と比べて情報量を約半分に減らしたのだ。「転職に関連するキーワードで検索して訪れる人に見せるページなので、多少説明を簡略化しても申し込み画面に進むと思った」(小暮氏)が、そうはいかなかった。

 転職とは人生の一大転機である。だから、「簡素化しすぎてユーザーが不安になった可能性がある」(小暮氏)。

改善後のスマートフォン用サービス紹介ページ。利用企業のロゴなどを加えた

 そこで今年4月中旬から5月中旬にかけては、情報量を増やしたスマートフォン用の紹介ページを新たに作った。すると、前回の1.4倍の遷移率となり、スマートフォン利用者がパソコン用ページを使った場合の遷移率とほぼ同等に高めることができた。小暮氏は「まだ改善の余地はある」と、さらに遷移率を向上させたい考えだ。

 ディーツー コミュニケーションズが4月27日に発表した「スマートフォン普及動向調査」によれば、携帯電話の利用者数に占める現在のスマートフォン比率は7.6%と1割にも満たない。それでもリクルートエージェントにとって、「ビジネスパーソンには(スマートフォンが)一般的になりつつあるので積極的に攻めたいデバイス」(小暮氏)となっている。さらに、スマートフォンは企業からの需要が高い技術者層も多く使っており、獲得できる求職希望者の絶対数はまだ少ないがその質は高い、と同社は見ている。

 自社サイトのスマートフォン対応の本格化に向け、リクルートエージェントは複数の指標を注視している。1つが利用者数の伸び。現在、延べ900万人弱とされるスマートフォン利用者が、「1000万人となったときが1つの目安になる」と小暮氏。もう1つが、スマートフォン利用者による検索連動型広告の表示回数だ。これら指標をにらみつつ、トップページや主要ページからスマートフォン対応を進める考えで、ブランディングを目的としたアプリも構想中である。

ケータイ用サイト、回収期間3年以上の投資は中止

 一方で、従来型のケータイ用サイトの投資は一部中止した。「投資回収期間が3年以上かかるものは、昨年からやめている」(小暮氏)と明かす。MM総研が昨年12月18日に発表した「スマートフォンの市場規模の推移・予測」では、2015年度末には携帯電話契約数に占めるスマートフォン比率がケータイを逆転するとしており、こうしたトレンドを見越して、投資の一部中止を決めた。

 元々、リクルートエージェントのターゲット層となるビジネスパーソンの情報収集はパソコンが中心で、ケータイはメールなどコミュニケーション用途が中心となる。ケータイで検索をするのは学生や主婦層が多い。リクルートエージェントのケータイサイトは公式サイト化したものの、機能は最低限で投資額は多くはなかった。現在は、広告、SEO(検索エンジン最適化)など、短期間で回収できる投資にとどめている。

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