震災直後、大企業は億単位の義援金を拠出し、ネット募金にも多額のおカネが集まった。だが復興には長い時間と費用がかかる。企業は今こそ復興支援とマーケティングを積極的に統合するコーズ・マーケティングに取り組もう。(第1回のアメックスの取り組み)に続いて、第2回は森永製菓、野村グループ、サントリー、ネットプライスの取り組みを紹介する。

ブログ記事でも評判上々の森永の取り組み

 5月5日 「今日、豊洲ららぽーとで、森永の『100円募金してチョコを手紙付きで被災地に送ろう』って企画をやってました。これなら子供たちも募金できると思いお小遣いから募金。被災地の子供たちがこのお菓子を食べて少しでも笑顔になれますように」

 5月9日 「末っ子が今日、幼稚園でキョロちゃんのチョコレートをいただいてきました。『チョコレートもらったよ。お目めがハートなんだよ!』と、とても喜んでいました。調べてみたら森永製菓とららぽーとの『エンゼル・スマイル・プロジェクト』といって、被災地の子供にチョコと応援メッセージを届けようというものでした」

被災地の子どもたちにチョコとメッセージを届けて好評を博した森永製菓

 先日のゴールデンウイーク、森永製菓は震災で被災した子どもたちへの支援活動「エンゼル・スマイル・プロジェクト キョロちゃんと届けよう!みんなのきもち」を三井ショッピングパークの6カ所のららぽーとで実施した。

ららぽーと6会場で12日間、100円募金イベントを開催

 1口100円を寄付した来館者にカードを渡して被災地の子どもたちへの応援メッセージを書いてもらい、このメッセージカードと森永のお菓子1個をセットにして、被災地に届ける。森永は1人100円の寄付金を、国際NGOのプラン・ジャパンを通じて震災支援に全額寄付し、さらに1個100円相当のお菓子を上乗せ拠出する「マッチングギフト」方式で、直筆応援メッセージとともに被災地に届けた。

 冒頭のブログ記事は、この企画に参加して送った側と受け取った側がつづったものだ。

 6会場で各2日間イベントを開催し、集まった募金は総額61万2147円、メッセージ数は5128通に上った。そしてイベント期間中の5月5日に仙台へ、6日は福島へと向かい、避難所となっている学校の体育館や、幼稚園などに出向いて子どもたちに直接手渡した。

募金総額61万2147円、メッセージ数5128通を被災地にお届け

 「これから福島県郡山に向かいます」「メチャクチャ喜んでくれました」など、その様子は同社のTwitterアカウント(@MorinagaChoco)からリアルタイムでツイート。すぐさまフォロワーから「素敵な活動ですね。子供たちの喜ぶ顔が浮かびます」「お菓子の力はすばらしい」といった取り組みを賞賛するリプライが返ってくるなど、評判は上々だ。

「1チョコ for 1スマイル」での実績が奏功

 すぐにこのような企画ができたのにはワケがある。

 森永は2008年から年2回、チョコレートの原料カカオの産地であるガーナなど、経済的に貧しい国で学校建設や教育指導をする社会貢献活動「1チョコ for 1スマイル」を展開している。今回のプロジェクトはその取り組みが土台にあった。

 1チョコ for 1スマイルは、チョコ1箱の売り上げにつき1円を寄付に回す同社の社会貢献活動を代表するプロジェクトで、今年の正月からバレンタインデーまで実施した第6回は2396万円を集めた。

 同社菓子マーケティング部のチョコレート部門担当で、1チョコ for 1スマイルを主導する櫻木孝典氏は言う。「期間中、小売・販売店の店頭でプロモーションを展開し、Webサイトでは毎日集まった寄付額を更新していることで、消費者とのつながり感、ブランドロイヤルティが強化されていることを実感している」。

 たまたま特売だったから、CMのタレントが好きだから、といった理由による購入者は、通常価格時やタレントの交代後は買ってくれない恐れがある。だが1チョコ for 1スマイルのような社会貢献に共鳴した購入者は、簡単にはブランドスイッチせず森永ファンとして定着しやすい。

 今秋には、1チョコ for 1スマイルを被災地支援向けに展開する予定だ。寄付金の集まり具合や被災地へのお届けをネットを使ってリアルタイム報告することで、また新たなファンを獲得することになるだろう。

 「1箱につき1円寄付」といった、モノに付随した支援は消費者に理解されやすい。では、目に見えない商品・サービスを扱う企業はどのようにして復興支援プログラムを組めばよいか。

金融商品でも「復興支援」

 野村グループが震災後1カ月ほどでスピード企画した金融商品「東日本復興支援債券ファンド1105」が1つの答えになりそうだ。518億2177万円を集め、2011年の新規投信の設定額で3位にランクインする、一躍大型ファンドとなった。

 これは復興への寄与が見込まれる企業や政府機関、地方自治体の債券に投資するファンド。組み入れた銘柄の上位には、東北電力(全体に占める比率は2.6%で同率2位)、福島県(同1.4%で同率10位)、茨城県(同1.3%で同率13位)と、被災地関連が目立つ。

500億円を超えた「東日本復興支援債券ファンド1105」の銘柄

 より具体的な支援として、野村側に入る年0.415%の信託報酬のうち約半分に当たる0.2%分を寄付に回す。設定額が500億円を超えたため、年間1億円超が寄付に回る。信託期間は5年。残高がそのまま維持されれば、5年で5億円超を寄付できる計算となる。

 このファンドを企画した野村証券商品企画部の小島秀明氏が言う。

 「震災翌週の3月14日には長期的な支援の在り方について社内で議論していた。例えば既存の東北地方のご当地ファンドを活用する方法も案としてはあったが、我々がいま最大限できることは何かを突き詰めて考えた末、『復興』を冠した商品を作ろうと決めた」

 野村グループのCSR活動を担当するコーポレート・シティズンシップ推進室の笹野ゆかりマネージャーは、「当社のCSRは『本業を通じた持続的な貢献』であることが基本」と説明する。今回のファンドも、復興に寄与する企業や自治体に投資という本業で資金を回しつつ、保有している限り寄付も継続する、CSRの基本的な考え方に則った設計と言える。

 特殊な目的を持った商品だけに商品設計は難しい。支援のために寄せられたおカネをハイリスク商品で運用するわけにはいかないため、債券ファンドに。そして「復興支援をうたいながら手数料が高い」という批判を避けるために、販売手数料はゼロ(ノーロード)、信託報酬は年率0.415%(税抜)と低めに抑え、さらにその約半分を寄付する設計とした。したがって、ファンド単体で見ると野村側にとってさほどウマみのある商品ではない。

新規顧客の開拓にも一役買った

 それでもいち早く復興支援ファンドを商品化したことで得たメリットは大きかった。「これまでほとんど取引のなかった個人・法人からの問い合わせや申し込みが相次いでいる」(小島氏)。

 ネットからの反応もいい。この債券ファンドの、ネット経由での唯一の取り扱い窓口になっているオンライン証券「野村ジョイ」(旧ジョインベスト証券)で、サービス開始以来最高の申し込み件数になり、口座開設増につながった模様だ。

地方銀行や信用金庫は復興応援定期預金を商品化

 「復興支援」を冠したファンドの商品化で、野村は従来の顧客とは異なる層を引き付けることに成功した。良質の金融商品の存在は、新規口座開設を促す強力な広告塔になる。

 証券以外でも地方銀行や信用金庫において、預金残高の一定率を義援金として寄付する復興応援定期預金の商品化が相次いでいる。「原発に頼らない社会」を掲げて、節電支援のプレミアム金利やローンを設定しているのが信金大手の城南信用金庫だ。同信金の「復興支援ボランティア預金」の残高は発売から1カ月で2億円を超えたという。支援の方法はさまざまあるが、やはり復興を冠した商品のインパクトは大きいと言えそうだ。

 「♪見上げてごらん~夜の星を~」「♪上を向いて~歩こう~」… …

 説明するまでもないだろう。サントリーのあのテレビCMである。

 矢沢永吉や和田アキ子、萩原健一らサントリーのCM出演経験者を中心に総勢71人に上る著名人がリレー形式で歌い上げる名作CMは全30種類。放映が始まった4月6日から、サントリーのCMやメイキング映像などを自社サイトで配信する「サントリーチャンネル」でも全バージョンを公開している。

リスクを取った者が果実を得る

4月6日、71人リレーCM放映開始。同時公開した「サントリーチャンネル」の利用者数は10倍増

 CMに商品の宣伝は一切なく、最後に「SUNTORY」のロゴが入るだけ。しかし震災直後に、CMの大半がAC(公共広告機構)に切り替わる中での収録・制作は、相当チャレンジングな取り組みだったことは想像に難くない。そのリスクをあえて取ったことで、視聴者の共感と好感を呼び込むことに成功した。

 商品供給がまだ滞っていた状況下で制作に踏み切ったこのCMに、売り上げ増を目指すといった“見返り”をもくろむ余裕はなかった。したがってサントリーとしてはコーズ・マーケティングを仕掛けた意図はない。それでも消費者側は「良い取り組みだから支援したい」という反応を見せた。

 「サントリーチャンネル」の推定閲覧者数は、公開前後の2週間を比較すると3万6000人から38万1000人へ、10倍以上に急増。そしてCMの反響は、放映5日後に発表した「1缶1円、年40億円の寄付」という追加支援策にも波及し、「これからモルツ派になる」といったクチコミがネットに広がる結果をもたらした。

 時期的には、ヤマト運輸が発表した「宅急便1個につき10円、年130億円の寄付」の二番煎じになったが、反響はヤマトに勝るとも劣らない大きさだった。これは震災後の企業イメージ調査にも表われている。

CMが好評で震災後企業イメージ3位にランクインしたサントリー。出所:日経BPコンサルティング「企業名想起調査」(4月度)

 復旧・復興のための活動や広告などについて、どの企業が好印象を持たれたかを4月に日経BPコンサルティングが調べ、「企業名想起調査」としてまとめている。そこでは、サントリーはヤマトをかわして3位にランクイン。1位のソフトバンク、2位のユニクロは、ともに社長個人の巨額の義援金がインパクトを与えたとみられるため、今後の継続的な支援いかんでサントリーはまだまだ上積みを見込めそうだ。

コーズ×デジタルで支援の輪拡大

 このように見ていくと復興支援マーケティングでは、消費者が「よい取り組みだから支援したい、購入したい」と思うような施策を提示し、それがクチコミで拡散して協力の輪が広がることが成功の秘訣になりそうだ。

 そこでFacebookをうまく活用しているのがECモールのネットプライスである。気軽に参加しやすい支援プランを提示して賛同者を募り、自社のファンという“資産”に変えて支援マインドの高い消費者とのつながりを維持している。

 現在、病児保育のNPO法人フローレンスと組んで、空き住戸を使った小規模保育施設「おうち保育園」の開設資金130万円を募る「みんなで子育てギャザリング」を実施している。早期の復興のためにも、待機児童問題を解決して働く母親を増やそうというコンセプトだ。通常の募金のほか、Facebookの「いいね!」1人増加につき5円をネットプライスが寄付する仕組みが支持を得てファン数が急増。既に5000人を突破している。

 同社サイト統括本部長の数田陽子氏は、「お客様から支援アイデアも多数寄せられている。その1つ、被災地から仕入れた商品の販売はぜひ実現したい」と意気込みを語る。

 企業も消費者も被災地もハッピーになる復興支援マーケティングの仕組みに、デジタルを掛け合わせることで、支援の輪は大きく広がっていく。復興の道のりはまだ始まったばかり。仕組みづくりは今からでも遅くない。