震災直後、大企業は億単位の義援金を拠出し、ネット募金にも多額のおカネが集まった。だが復興には長い時間と費用がかかる。企業は今こそ復興支援とマーケティングを積極的に統合するコーズ・マーケティングに取り組もう。第1回はコーズ・マーケティングの元祖、アメックスの取り組みを紹介する。

 4月23日、東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県南三陸町の避難所となっている歌津中学校に、1台の4WD車が現われた。

クレジットカード大手のアメリカン・エキスプレス・インターナショナルがカード会員に保有ポイントの寄付を呼びかけ、特定非営利活動法人(NPO)のJHP・学校をつくる会が、被災地でのボランティア活動に必要な車両を提供したものだ。ボランティア人員や支援物資の移送、被災者の思い出の品々の運搬など、復興に向けた活動の足として活躍している。

カード会員からのポイント寄付で、被災地で活動するボランティア車両を現地に提供。車両には、「From アメックス カードメンバーズ」と記した

 アメックス個人事業部門の西郷元美マーケティング部部長が言う。

 「震災後、多くのカード会員様から『何か貢献できないか』との問い合わせを多くいただいた。そこでこれまで実施したポイント還元チャリティプログラムを通じて交流があるNGO(非政府組織)などと、被災地に必要な物資を相談しながら、支援アイテムを提供するためのポイントプログラムを3月末から開始した」

1時間で1500件超える応募

 第1弾のソーラーランタンは、募集を告知するカード会員向けメール配信から1時間で1500件を超える応募があったという。また募集開始から5月11日までの約40日間で、震災関連チャリティアイテムの交換ポイント数は、通常月のチャリティ交換ポイント数の約5倍に上るなど、手応えは上々だ。

アメックスの被災地支援プロジェクト「SMILE JAPAN」

 続いてアメックスは5月12日、「毎月21日はSMILE JAPAN DAY」と題し、21日に買い物や食事、宿泊などカード加盟店でカードを利用した場合、ポイントを2倍付与(通常は利用額100円につき1ポイント)するほか、カード利用金額の1%を被災した子どもたちへの支援基金に寄付するプロジェクトを発表。年内いっぱい続ける予定だ。

 西郷氏がこのプランの狙いを語る。
 「4月末で震災による倒産が66件に上り、うち3割が消費自粛によるものというニュースが流れた。当社の加盟店も飲食店、商業施設、旅行関連が多く、消費低迷の影響を受けている。当社としては、消費によって、復興に貢献しながら、カードを利用する動機付けを作ることで、被災地にも加盟店にもおカネが回る好循環を作りたいと考えた」

 その上で、「カード会員は復興に貢献するアメックス会員であることを誇りに思ってもらえる。そしてカード利用が伸びれば私どものビジネスも大きくなる。(被災地、加盟店、カード会員、アメックスという)4者のWIN-WIN関係を築くことが、長期にわたる支援を継続するために欠かせない」と言う。

フィランソロピーとの違いは?

コーズ・マーケティングの発端となる取り組みは、1983年に米アメックスが実施した「自由の女神」修復プロジェクトだった

 こうした、企業の社会貢献とマーケティング活動を積極的に結び付けて支援する考え方や取り組みを「コーズ・リレーテッド・マーケティング」(コーズ・マーケティング)と呼ぶ。企業マーケティングに詳しい東京電機大学の世良耕一准教授によれば、「かつてバブル期にブームとなったフィランソロピーが下火になったのは、おカネが余ったら慈善事業に回そうという発想だったから」。

 純然たる寄付や慈善活動をするフィランソロピーとは一線を画すコーズ・マーケティングは、自社の売り上げや企業イメージのアップという“見返り”を織り込んだ取り組みと言える。だから、おカネが尽きたからやめる、という事態には陥りにくい。

 このコーズ・マーケティングに世界で初めて取り組んだのが、実は米アメックスだった。1983年に実施した「自由の女神」修復プロジェクトがその先駆事例として知られている。

 新規カード会員獲得につき1ドル、カード利用1回で1セントを寄付するプロジェクトは大きな反響を呼んだ。3カ月間で総額170万ドルを修復基金に寄付する成果を上げた。

社会貢献するほど儲かる好循環

 成果は多額の寄付だけにとどまらない。新規のカード申し込み件数は前年比45%増、カード利用件数も同28%増加するといった具合に、ビジネス上も成功を収めた。

 自由の女神に端を発した文化遺産を守る精神はその後も受け継がれている。歴史文化遺産を調査・保存する「ワールド・モニュメント財団」と協同で、歴史的建造物を修復するプロジェクト「ワールド・モニュメント・ウォッチ」を立ち上げ、1996年からの10年間で1000万ドルを支援。世界62カ国、126カ所の遺産を保護してきた。

消費者は社会貢献を掲げる商品に好意的。
出所:野村総合研究所「社会貢献に関連する商品・サービスに対する意識調査」2009年7月

 こちらも一方的な奉仕活動とは異なる。歴史遺産は重要な観光資源であり、その保護・改修に取り組めば、報道やトラベルガイドで取り上げられ、観光客の増加につながる。アメックスは世界有数の旅行代理店であり、トラベラーズ・チェックの発行元でもある。つまり社会貢献に熱心に取り組むほど、本業にも寄与する好循環を作り上げているのだ。

 日本人の美徳意識からコーズ・マーケティングについて「売り上げのためとの意図が見えたら返ってバッシングされるだけ」と慎重になるのも無理はない。だが消費者はむしろ社会貢献を掲げる商品・サービスに好意的だ。野村総合研究所の調査では、約7割の消費者が社会貢献に積極的な企業の商品・サービスを選ぶと回答している。

 良い取り組みは消費者の支持を得て、良いクチコミとなって波及していく。ならば今こそ企業は、復興支援を旗頭に、「企業よし・顧客よし・被災地よし」のトリプルWIN体制を構築するときだ。次回は、いち早く動き始めた企業の取り組みを紹介する。

この記事をいいね!する