ドクターシーラボの業績と通販売上高に占めるEC比率の推移(2007年7月期は6カ月の変則決算)

 皮膚科医の診療で得たノウハウをベースに商品を開発するメディカルコスメ(ドクターズコスメ)の市場を開拓し、創業後6年で東証1部上場を果たした化粧品メーカー、ドクターシーラボ。設立は1999年と化粧品メーカーとしては後発だが、EC(電子商取引)サイト開設は2001年と、化粧品ECの中では立派な“老舗”だ。2011年7月期は、ECで4年半前(途中に6カ月の変則決算あり)の4倍となる80億円以上を稼ぐ見込みだ。同社の取り組みを見ていくと、メーカー直営ECサイトが成功するためのポイントが浮かんでくる。

ECの人材は全員が外部採用

 2007年1月期、ドクターシーラボは主力の通信販売事業が上場後初めて減少する事態に陥った。直後に打ち出したのが、ECの強化だ。当時22.9%だった通販売上高に占めるEC比率を40%まで高めることを目標値として掲げた。取り組んだのが人材採用だった。

 この年に転職してきたのが、現在、マーケティング部eコマースグループのグループ長を務める西井敏恭氏だ。前職からECに携わりそれに精通した彼が感じたのは、「やはりメーカーはBtoC(消費者向けビジネス)には精通していない」ということ。そこで、モバイルEC、Webディレクション、Webデザイン、モバイルコンテンツ開発、検索連動型広告などに詳しい人材を中途採用していった。現在、eコマースグループに所属する20人全員が、外部から採用した人材となっている。

 体制強化に従って、2007年以降のEC売上高、EC比率は着々と高まり、2011年7月期の中間決算の時点では通販売上高に占めるEC比率は38.4%に達した。通期では39.5%となる見込みだ。

 一貫して西井氏が意識してきたのが「Webを、一方的に売るだけの“自動販売機”にせず、お客さまの意見、行動を見て対応した」ことだ。

 そもそもメディカルコスメとは、皮膚科医が商品開発にかかわるだけではなく、診療の中で適切な化粧品を選んで提供する。つまり、顧客の意見を聞きながら商品を開発し販売することが原点だ。

 同社創業の当時、顧客の声を集めるには店頭や、電話のコールセンターが最適だった。しかし2007年には、ブログ、SNS、クチコミサイトの広がりでネットの双方向性が大きく高まり、顧客の声を集めやすくなった。また、消費者同士の情報交換も盛んになり、「昔は女優が使った化粧品と言えば売れたかもしれないが、今の消費者には信じてもらえない」(西井氏)。化粧品の購入を決める動機も大きく変わったというわけだ。

 同社は直営ECサイトの強化に当たり重視したのが、「情報を徹底的に出す」ことと「顧客の声を徹底的に活用する」ことだ。

ほぼ全商品の使い方動画を掲載

動画で効果的な使い方を解説することで販促効果、問い合わせ減少を狙う

 情報発信で特長的なのは、商品の効果的な使い方を説明する動画をほぼ全商品にわたって配信していることだ。顧客からはよく化粧品の使い方、使う量、順番が分からないという声が寄せられていた。西井氏は「それはメーカーにも顧客にも不幸で、使い方を間違えた結果、ドクターシーラボから離れてしまう」と語る。制作コストはかかるが購入促進が期待でき、問い合わせ件数を減少させる効果があるという。

 化粧品の全成分表示も業界でいち早く始めた。メーカー直営ECサイトなら、一般の小売店では出し切れない情報まで提供すべきだと西井氏は語る。

 顧客の声を生かすため、商品のクチコミ情報を積極的に活用する。各商品のページでは、その商品に関するクチコミを投稿、閲覧できるようにしている。最近2年間だけでも1万7000件以上のクチコミが寄せられた。クチコミ機能は、化粧品のクチコミサイト「アットコスメ」や、同社商品を販売する「Amazon.co.jp」にもあるが、西井氏はその内容が大きく異なると指摘する。

 「他のサイトだとコストパフォーマンスが良い、悪いといった評論家的な書き込みをされがちだが、ドクターシーラボのサイトはファンの熱い書き込みが多い」

 メーカー直営ECサイトを訪れる顧客は、そのメーカーのファンである確率が高い。購入に際してファンの背中を押すのは、同じファンの熱いコメントなのだ。

 そこで同社は2007年、商品に関する意見交換、モニター応募などができるコミュニティを開設した。現在は8万人以上が参加している。

 顧客の声が売り上げに効果をもたらすことは、コミュニティを始めた当初から実証された。2008年3月に発売したサプリメント「ローズチャージ」は、前年12月に「みんなでつくろう!シーラボ製品★プロジェクト」へ寄せられた意見から商品化を決定した。発売直後からサプリメント商品の売り上げトップとなり、2位以下を10倍以上離す売り上げ額を記録した。「CGM(コンシューマー・ジェネレーテッド・メディア)プロモーションだけでこの売り上げを記録した。これ以降、日陰の存在だったサプリメントを大きく伸ばすことができた」(西井氏)と振り返る。

 その後も、「Twitter」「Facebook」「YouTube」に公式アカウントを設けて情報発信を強化するほか、商品モニターから事前に集めた意見を販促サイトに盛り込むなど、顧客に飽きられないように手法を変えながら、商品開発やプロモーションに顧客の声を活用している。

店頭販売にもデジタル活用

 通販事業の拡大に貢献してきたデジタルマーケティングを、今後は直営店舗事業、ドラッグストアなどを通じて販売する卸売販売事業など全社に活用の場を広げていく。

2010年8月から3年間の中期経営計画において全チャネルでのWebマーケティング活用を目指す(ドクターシーラボのホームページより)

 まだ構想段階だが、活用イメージはこうだ。外部のバラエティショップでドクターシーラボのショップ限定商品を買った顧客に、ドクターシーラボからメールで情報配信をして、ショップへの再訪を促す。

 通常はショップが他の商品も含めて販促メールを送るところだが、ドクターシーラボのノウハウを生かして、商品を使い切る時期に再購入を促すといったメールを送れば、店舗へ誘導できる確率も高まりそうだ。顧客を“奪われる”と思いがちなショップには抵抗感がありそうだが、最終的に売り上げにつながることを実証できれば理解も得られるだろう。

 EC売上高の成長は順調に続いているが、その分「社内で設定される目標のハードルが高くて…」と西井氏はこぼす。さらに、デジタルマーケティングを活用する企業が増えることで競争環境は年々厳しくなってもいる。従来はアフィリエイト(成果報酬型)、バナー広告、検索連動型広告で済んでいたECの販促活動は、ソーシャルメディアへの対応を求められ、目標を達成するための予算の最適配分は困難な作業となっている。

 ECによる販促が高度化した分、今まで積んできた経験こそが大きな“資産”となる。今後、化粧品業界に限らずメーカーのEC参入、強化が続くとみられるが、ドクターシーラボの取り組みにはいくつものヒントが明示されている。

この記事をいいね!する