やや意外かもしれないが、ヤマトホールディングス(HD)や傘下のヤマト運輸のサイトはネット上での存在感が大きい。例えば、震災前後の2週間における推定接触者数の上昇率ランキングでヤマトHDはトップとなり、また日経BPコンサルティングが4月に発表した「Webブランド調査2011-II」ではサイトのブランド力ランキングで、ヤマト運輸が日本コカ・コーラやユニクロを抑えて一般企業サイト部門で4位に入る。

トラックからBtoBビジネスへの導線

 しかし、これまであまり精緻に語られることのなかったグループのサイト戦略。それを解きほぐしていくに当たって、まず起点となるのは、一番の広告塔としての「ドライバーの運転するトラック」(ヤマト運輸CSR推進部広報課の鈴木祐子係長)。そんなグループ共通の認識がある。

 被災地などでそれがテレビ画面に映し出されるたび、何となく関心を持って、あるいは自分の荷物がどこにあるかが知りたくて、検索をしてグループのサイトを訪れる利用者も多かったのではなかろうか。リアルで興味を持った人に、ネットで深い情報に触れてもらい、そしてヤマト運輸のファンになってもらうという戦略だ。

ヤマトHDの業績の実績と目標 ※2013年度の数値は1月28日の発表資料に基づく

 単にファンになってもらっただけでは、同社グループが2013年度の目標として掲げる数値とは像を結びにくい。2010年度に13億4800万個だった宅急便取扱数量を、16億8000万個まで伸ばし、国内宅配サービスのシェアを45%超へと5ポイント以上増やすという意欲的な目標である。BtoCビジネスという足場を固めることで、BtoBビジネスの成長につながるというグループの戦略がそこにある。

 まず、BtoCビジネスを強化するため、ヤマト運輸のトップページの下方全面に、自社のトラックが街並みに溶け込んでいる様子をイラストで表現した。これにより、リアルとネットをシームレスにつなぐ。

 これは、昨年4月にサイトの運営部門を営業セクションから広報へ移管して始まったサイト刷新プロジェクトの一環だ。今年2月24日の自社サイトの全面刷新は、実に5年ぶりのこととなった。

 さらにこのプロジェクトは現在、例えば「ヤマトでつながる」というコーナーの制作を進めているという。このコーナーには4つのページを用意する。その1つは、ドライバーへのインタビューを通じて、お客さんや担当する地域にまつわるエピソード、またはドライバー自身のことを紹介する内容だ。日本地図から各地域のドライバーを選んで閲覧できるような作りとなる予定である。

 そのほか、集荷から配送までの一連の流れを写真を交えて紹介するページや、ヤマト運輸に関する“トリビア”を紹介するページなど、サイトの訪問者にヤマト運輸についてより深く知ってもらうことを狙う。普段はなかなか知ることのない、ドライバーや配達の様子を見て親しみを持ってもらえれば、ヤマト運輸のファンが増えることも期待できる。

 ファン作りを目指したページ作りに取り組むとの歩調を合わせるように、法人向けサービスの情報提供を強化している。

 ヤマト運輸のサービスを好む個人の顧客が増えれば、個人相手のビジネスをする企業も、自然とヤマト運輸のサービスを選ぶ。そんなシナリオを描いているわけだ。例えばネット通販市場は、資生堂が参入を表明するなど、これまでEC(電子商取引)事業を展開してこなかったメーカーが直販事業に参入するケースは今後も増えるだろう。それを見越した個人のファン作りを進めているのもうなずける。

ネットスーパーの後方支援ビジネス積極化

 2月の刷新前は、例えば今後宝の山ともなり得るような「ネットスーパー支援サービスなどもサイトでは紹介していなかった」とCSR推進部広報課の秋山紗織氏。これとは別の法人向けサービスはサイト上に記載があっても、それを見つけにくい表記になっていたとの課題もあった。これでは、BtoBビジネスのパートナーとなる企業の担当者がサイトを訪れてくれても、ヤマト運輸が最善のサービスを提案できているとは言いにくい。

 刷新後のサイトでは、これまで掲載していなかったネットスーパー支援サービスや、情報が少なかった海外向けの出入荷サービスなどの情報を増やした。

サイト刷新で、課題やニーズでサービスを探すメニューを設置

 その上で、顧客企業が目的とするサービスを探しやすくするために、来訪者が目的や抱えている課題ごとにサービスを探し出せる「課題・ニーズから探す」という検索メニューを設けた。このメニューでは、「出荷や事務作業の軽減を図りたい」「商品の回収・返品を効率的に行いたい」といった8つの大きな分類から、来訪者を各分類へと誘導する。

 例えば、「通販の購入者に便利な配送サービスを提供したい」という分類の場合、決済サービスの「宅急便コレクト」、即日配達サービスの「Today Shopping Service」などの詳細情報ページへのリンクが張られている。各サービスごとの詳細な情報ページには、問い合わせフォームへのリンクやグループ会社の連絡先を掲載して、使い勝手を高める工夫をしている。

 馴染みのあるトラックという広告塔→リアルをネットに映し込むためのイラスト作り→個人顧客のファン増加→法人向けサービスでの商談成立へ。このサイクルをうまく回す潤滑油として不可欠なもの、それがサイトの充実であり、だからこそ同社グループの評価が高いという結果につながっているのではなかろうか。

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