東日本震災が起こった直後、リアルでもネットでも売れ筋となったのは、米や水といった生活必需品だった。国内最大のEC(電子商取引)モール「楽天市場」の3月総合売り上げランキングトップ10を見ても、この2つがほぼ独占している。

楽天市場の3月総合売り上げランキング

 ただ、ランキングをよく見ると2位と9位に食い込んでいる製品がある。美容品メーカーのアンファー(東京都中央区)が販売する育毛用品「薬用スカルプD」シリーズだ。

 このシリーズの例えばシャンプー、価格は1本4800円と少々お高い。なのに、しぶとくランクインし続けることができたのはなぜなのか。販売チャネルや顧客属性に合わせて100種類以上のメールを用意して、最適な時期に最適な商品を勧めるきめ細やかなCRM(顧客関係管理)戦略がそこにある。

卸が無視、そこでネット通販へ

 アンファーはかつて、輸入代行した医療器具などを病院に納入する典型的なBtoB企業だった。その取引をする中で、薄毛治療などをする専門病院から、治療の効果を高めるためのシャンプー開発の協力要請を受けた。商品化に成功したのは1999年のことだった。

 せっかくの開発だったが、販売先は以前と同様、専門病院にとどまっていた。臺智紀執行役員によれば「効果を高めようとコストの高い成分も使ったので、商品も高額になった」。だから、一般向けに販売しても買ってもらえないとの判断だった。

 しかし、意外な反応が利用者から寄せられるようになる。病院での治療が終わった後、このシャンプーを継続的に使いたくとも通院しなければ手に入らない。そのため、元患者の人たちを中心に「病院以外でも手に入るようにしてほしい」という要望が次第に強まっていったのだ。ニーズに応えるため2005年に一般市場向けの製品として販売した。それが「スカルプD」だ。

 もっとも、「会社名も製品名も全く知名度がない。おまけに高額のため、どこの卸も相手にしてくれなかった」と臺氏。目を付けたのがネット通販だった。

 「店舗で取り扱ってもらえないなら、自分たちでWebサイトを立ち上げて販売するしかない」

 2005年、同社は自社ECサイトを立ち上げることになる。

 ニッチな商材だけに、客数が限られる店舗販売よりも、薄毛に悩む全国の見込み客を相手に商売できるネットとの相性は良い。そう考えた戦略は恐らく正しかった。1カ月の売り上げが3万円という月もあったが、それが2010年3月期には61億円もの売上高になっている。

 このうち、7割超がネット経由という同社のビジネスを支えているのは、約30万人の会員組織だ。その半数強が定期的に商品を購入する、いわゆるアクティブ会員だという。リピート率を高めるため、同社が重視してきたのはメールマーケティングだ。6つのステップに分類したメールを、2カ月間かけて送っていく。シャンプー1本を使い切るのに、およそ2カ月かかるためだ。

用意してあるメール文面は、実に100種類以上

 このメールマーケティングを、楽天市場店のほか、「Yahoo!ショッピング」店、自社サイトそれぞれの顧客に対して実施している。顧客に送る6つのメールとは、次のようなものだ。

・購入直後の「御礼メール」
・発送の伝票番号などを記載した「商品発送メール」
・送った製品に誤りがないかを確認する「製品到着確認メール」
・製品の使い心地について尋ねる「使い心地確認メール」
・そろそろ製品が無くならないかを聞く「追加購入案内メール」
・買い忘れを防止する「製品案内メール」

購入後の会員に6つのステップでメールを送付

 これだけたくさんのメールを送っても、顧客から迷惑がられることは少ないという。恐らくそれは、顧客一人ひとりに対して呼びかけるようなメール作りを心がけているからだろう。臺氏は言う。

 「中途半端にやったら迷惑になる。でも、1人のお客さんに対してしっかり向き合えば、それは親切に変わる」

 そんな考えの下、100種類以上のバリュエーションのあるメールを用意して、それを精緻に出し分ける。

 ベースとなる文面は同じだが、リピート購入の回数や性別に合わせて微妙に書き方を変えていく。送料無料キャンペーンで顧客になった人に対しては、追加の購入案内メールを送る際にも、再び送料無料キャンペーンを強く打ち出して訴求を図る。

 「送料無料やポイント倍増キャンペーンなどをきっかけに顧客となった人は、また同じキーワードに反応する可能性が高い」(臺氏)からだ。

 メールを受け取った会員は、ワンクリックで会員ごとのマイページに行くことができ、ずらり並んだ購入履歴からワンクリックで購入完了。シャンプーとワックスといったセット購入でも、同じくワンクリックで簡単に買うことができる。

 1~2週間に1度のメールに対し、迷惑でなく親切だと思ってくれる顧客を少しずつ増やしていった成果。それが、震災直後でもトップ10にランクインということなのだろう。