大きな震災が起こった際、Twitterや自社のWebサイトなどを通じて、被災地に役立つ情報や、社会貢献活動への取り組みを発信した企業は多い。自社の活動状況をいち早く伝える上で、デジタルの活用は欠かせない。
味の素もこうした取り組みをした1社だ。ただ同社は、それだけにとどまらず東日本大震災からわずか4日後に、「節電レシピ」のコーナーを、自社サイト上に開設して節電を呼びかけた。

舞台となったのは、かねて味の素が提供してきたレシピサイト「レシピ大百 科」だ。そこに3月15日、ガスや電気を使わずに作ることができるレシピを集めた「節電レシピ」のコーナーを開設した。通常の社内手続きとは異なる手順で企画実施の許可を得たことで、早期開設を実現した。きっかけとなったのは、1人の社員による呼びかけだった。
レシピ大百科を担当してきた蛭田聡子氏。福島県いわき市の出身だ。震災の被害が大きかった地域の1つである。
被災地への思いが原動力に
「被災地ではどんな生活をしているのか、考えるだけですごく不安だった。東京にいても、何か故郷の役に立てることがあるはず。そう考えた結果が節電レシピでした」と蛭田氏は言う。
その思いが原動力となり蛭田氏を突き動かした。震災翌日には、レシピ大百科の責任者である食品事業本部家庭用事業部戦略グループの津布久孝子料理情報担当部長にメールを送り、レシピ大百科上に節電レシピのコーナーを開設したいと提案した。
レシピ大百科では、毎月特定のテーマを立てた特集コーナーを用意している。これまでには、「風邪対策メニュー特集」や「秋の味覚特集」といったコーナーを開設してきた。
こうしたコーナーは通常、1カ月ほど前から企画を立てて、掲載するレシピ内容などを詰めていく。しかし、3月14日から計画停電を開始することが発表されていたため、蛭田氏は一刻も早い節電レシピの情報提供を目指したという。
すぐにレシピ大百科にある1万超のレシピの中から、電気とガスを使わずに作ることができるレシピを選び出し、主食、主菜からデザートまで34のレシピをかき集めた。「ツナ缶ユッケ」「温玉キムチがゆ」「ブランケーキ」などがそれ。3月14日にはWebサイトのページ作成などを依頼している制作会社に、レシピ大百科のトップページに掲載して告知するためのバナー広告の作成などを依頼した。
それと同時に、津布久氏が総務部のリスク管理部門に対して説明に当たるなど、社内調整に奔走した。「総務部に直接原稿を持って行って、確認してもらったのは初めてのこと」と津布久氏。通常とはまったく異なるフローで、企画を進めていったわけだ。
Facebookで節電レシピのコーナーを告知
問題となったのは、この新設コーナーをどうやって消費者に伝えるかだった。もちろん節電レシピは、大停電という事態を避けるのに有益な情報となる。ただ、震災直後だけに自社の宣伝とも受け止められかねない情報発信は自粛するムードがあった。
蛭田氏が所属する部門でも、震災翌日には当面のメールマガジンの配信を自粛することを決めたばかりだった。そこで蛭田氏は、職場の同僚の協力を仰ぎながら、節電レシピを掲載し始めたことを、個人で登録している「Facebook」上などで告知した。

このFacebookでの投稿が料理研究家の庄司いずみさんのブログなどで取り上げられた。また、ヤフーがお薦めの動画やサイトなどを紹介する「Yahoo!映像トピックス」にも掲載されるなどして、開設から10日で10万を超えるアクセスにつながった。
節電レシピに共感を寄せる消費者は、同社が4月11日に開始した節電レシピの「Facebookページ」のファンにもなり、その数も着々と増えている。将来の上顧客となり得る人たちだ。結果的に味の素のブランディングやPRにつながったと言えそうだ。