ネット広告で最高の投資対効果を得られるのは検索連動型広告─。

 それがここ10年の常識だった。ただそれは間違っているかもしれない。

リクルートが取り組み本格化

 リクルートは今年度、ネット広告最適化の一手法である「アトリビューションマネジメント」への取り組みを本格化させる。アトリビューションはネット広告において、商品購入や資料請求といったコンバージョンの直前に見た広告だけでなく、購入を検討する流れの中で「最初に見た広告までさかのぼって、どの広告が効いたか」という個別の広告の「貢献度」を評価。そして、効いた広告には多く投資して、最適な予算配分を実現する考え方だ。

 リクルートはいくつかの事業でバナー広告などのディスプレイ広告と検索連動型広告の効果の関連性を分析して、出稿媒体(サイト)の選定、予算の配分、クリエーティブの調整を今年度に実施していく。例えば住宅情報サイト「SUUMO(スーモ)」なら、まず見込み顧客が最初に見るディスプレイ広告でSUUMOの認知度や関心度を高める。一定の検討期間の後に住宅物件の問い合わせをする段階のネット利用者を検索連動型広告でSUUMOサイトに誘導。そして、問い合わせに結びつけるといったコンバージョンパス(初回の広告接触から購入までの過程)を想定する。

 広告の連携についてリクルートのインターネットマーケティング室シニアディレクターの友澤大輔氏はこう語る。「ディスプレイ広告を見たネット利用者に後で検索してもらうキーワードをクリエーティブに含める。そのキーワードは(検索回数が少なく広告主間の入札競争が少ない)スモールワードにして、入札価格を安く抑える」。

 リクルートはCPA(顧客獲得単価)が安い検索連動型広告に積極的に取り組んできた。しかし、「検索をするような確実な需要がある層はもはや取り尽くしてしまい、新規の需要を掘り起こせず費用対効果が悪化していた」と友澤氏。

 新たな需要創造の効果を見込めるディスプレイ広告も使いたいところ。ただ、サイトへの訪問、申し込みといった直接的な行動を起こす確率は極めて低く、投資対効果が疑問視されていた。

 そこで同社は2008年、ネット広告の効果向上のために、広告出稿先のサイトに自社のサーバーからディスプレイ広告を配信する「第三者配信」という仕組みを導入した。広告を表示したネット利用者のパソコンに「クッキー」ファイルを保存して、その後の行動を追跡できるようにした。例えばリクルートのディスプレイ広告を見たけど、その時点ではクリックしなかった(ビュースルー)人が、1週間後に検索連動型広告を経由して同社サイトを訪れて資料請求をした、といったことが分かるようになった(下図)。

アトリビューションマネジメントを活用した広告効果測定

 リクルートはこうした効果を分析するために、「じゃらん」「ゼクシィ」などの1年分の膨大な広告、サイト利用データから、約100分の1を抽出して分析を進めてきた。その結果、以下の3点が明らかになったという。(1)ディスプレイ広告には後の検索を誘発するようなアシスト効果(間接効果)がある、(2)検索連動型広告にはビッグワードのブランディング効果がある(例えば「結婚」で検索した人が「ゼクシィ」の広告を見ると認知度向上につながる)、(3)認知度向上のための広告、購入や資料請求を促す広告、ディスプレイ広告、検索連動型広告、といった広告の間で、どの程度の予算配分ならどの程度の効果が得られるかの仮説を立てられる、の3点だ。リクルートは今後、この仮説に基づき出稿媒体の選定、クリエーティブの調整、予算配分をして効果を高めていく。

媒体の貢献度をスコア化

 また、アトリビューションへの取り組みを支援する事業者も現れている。

 ネット広告のシステム開発とコンサルティングを手掛けるアタラ(横浜市青葉区)は、アトリビューションの取り組みを10社ほどの顧客と具体的に進めている。そして今春、広告やサイトの成果貢献度を評価する独自指標「アトリビューション・スコア」と「アトリビューション・ランク」を発表した。

 スコアは、コンバージョンに対する広告の貢献度を示す指標だ。それに、広告費用も考慮した指標がランクである。単純な例として、パソコンのEC(電子商取引)サイトで、1人の顧客が商品を買うまでに、ポータルサイトの広告Aを見て、ブログサイトの広告Bを見て、そして検索連動型広告CからECサイトに訪問して商品を購入したとする。

 この3つの広告に対して1/3点ずつのスコアを割り振る。最終的にキャンペーン期間のスコアを合計して貢献度を測る。さらに今後は、扱う商品、業態によって、初回に接触した広告媒体にスコアを多く配分するなどの試行錯誤で、その有効性を確かめていく必要がある。

 同社の杉原剛CEO(最高経営責任者)は、顧客の中でも先進的な企業は、既にアトリビューションの専任者を置いて取り組んでいると語る。「広告主がディスプレイ広告は効くと思っていても、社内で予算を通すためには論理的な説明が必要となるため、アトリビューションはその材料にもなる」と、大手企業から採用が広まるとみる(後編「広告効果改善への決め手か、それとも売り手の思惑か」に続く)。

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