1個で3個分超長ロングロール!!――。こんなキャッチコピーのトイレットペーパーが飛ぶように売れている。

 愛媛県四国中央市に本社を持つ森実商事が、自社のEC(電子商取引)サイト、「カミカウ.com」を中心に販売している商品だ。

 このロングロールの3月の売り上げは、前月比で7倍にもなった。森実商事でインターネットマーケティングを1人で担当する東京オフィス紙製品グループの安井隆二氏は言う。

 「あまりの反響に一時期、一度に購入できる個数を1人1個に制限したほど」

3月のトイレットペーパーの売り上げが7倍に

 東日本大震災が起きたことでトイレットペーパーは品薄となり、東京都内でも未だに枯渇している。そのため、ネットでトイレットペーパーを探す人が、震災以降、大幅に増えていることは容易に予想がつく。

 ただ、決して全国的な知名度が高いとは言えない森実商事の商品が、ここまで爆発的に売れたのには訳がある。この1年以上、ロングロールに関するブログの記事がネット上で増えるようにブロガーと対話を続けた、という地道な下積み時代があったのである。

ブロガーを味方につける

 森実商事は典型的なBtoB型企業である。顧客企業のロゴが入ったティッシュペーパーといったノベルティグッズ制作などを事業の柱としている。オリジナル商品も扱ってはいるが、こちらも企業が主な販売先だった。そのため、以前はロングロールも24個入りが最小のセット。ネット販売もやってはいたが、一般消費者からの購入申し込みはほとんどなかったという。

 ロングロールは、同じ長さのトイレットペーパーを使うにも、通常の商品より少ない個数のストックで済むため、「置き場所を取らない」「最後はゴミとなる芯の廃棄量が少ない」といった特徴を持つ。「省エネ」「エコ」などがマーケティングのキーワードの1つとなっている今の時代にはぴったりの商材だった。その特徴に目を付けた安井氏は、同社でインターネットマーケティングを任されると同時に、消費者向けにも積極的に販売したいと考えた。

 課題となったのは価格の高さだった。同社のロングロールはパルプ100%の柔らかい肌触りが売りである半面、価格も高い。「検索エンジンで『ロングロール』で検索すると、業務用の安価な他社製品が多くヒットしていた。ウチが検索連動型広告の出稿をして露出を高めたとしても、他社製品と単純に価格比較をされたのでは勝ち目がない」(安井氏)。

 思いついたのが、ブロガーを味方につけて、ロングロールの良さをクチコミで広めてもらう作戦だった。

 アライドアーキテクツ(東京都渋谷区)が提供する、ブロガー向けモニターサービス「モニプラ」を活用した。ブロガー向けにロングロールをプレゼントするモニター企画を実施して、その感想をブログに書いてもらうことを狙った。

 この作戦は、安井氏が想像していた以上の好評を得ることとなる。例えば5人のモニターを募集したところ900人を超える応募があった。さらに、「我が家は(通常)1日1ロール前後消費しますが、(ロングロールなら)1ロールで3日もちましたよ」「取り替える手間も、収納するスペースも『3分の1!!』もう普通のトイレットペーパーは買えませんッ!」といった内容のブログ記事が相次いで投稿された。「中にはモニターとなった後、ウチの顧客となってリピーターになってくれた人もいる」(安井氏)。

 この反響を得たことで、安井氏はすぐに12個入りのパッケージを開発した。同社従来品の半分のサイズだ。好感触を得た安井氏は募集するモニター数を50人、100人と増やしていく。計11回のロングロールのモニター企画によって、ロングロールに関するブログ記事がネット上に積み上がっていった。

距離を縮めた商品共同開発の会議

 安井氏の頭の中はブロガーのことでいっぱいになっていった。震災が起こった瞬間、森実商事の東京・青山オフィスでは、春シーズンに向けた限定商品を開発するため、ブロガーを招いた座談会を開いていた。会議の真っ最中、地震に襲われた。

 「なんとかしてブロガーさんを家に帰さないといけない。それで、頭がいっぱいになった」と安井氏は振り返る。ブロガーの中には、家が遠くオフィスに泊まらざるをえなくなった人もいたという。

 「その後、いつでも(オフィスに)寄ってくださいと送り出したところ、時々ブロガーさんがオフィスに遊びに来てくれるようになりました」

 そう言って、安井氏は笑った。

商品共同開発の座談会のメンバーをブロガーから募集

 同社は、ブロガーとの距離を縮めるために、商品の共同開発にも取り組んでいる。前出のモニプラで、商品開発の意見交換をするための座談会メンバーを、ブロガーから募るというものだ。毎回8人程度の定員に対して30~50人の応募が舞い込むという。

 座談会で交わされる会話は、「このシーズンにはこういうパッケージがいい」といった具体的な内容となっている。座談会から実際にクリスマス、バレンタインなどのシーズンに販売した限定デザインのティッシュペーパーなどが生まれた。ブロガーにとって自分の意見が商品化につながれば、その企業への愛着が強まることは想像に難くない。

 地道にブロガーとの信頼関係を築き、多くの記事を書いてもらっていたことで、「ロングロールと検索した時に、当社製品について書かれたブログが多くヒットする」(安井氏)状況を作ることができた。震災後は、こうしたブログから流入してきて、購入する人が増えてきている。それが前月比で7倍という売れ行きにつながったというわけだ。

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