特集「シニアこそデジタルが効く」
【第1回】60代前半のネット利用率は2001年の20代以上、感度高いデジタルシニア
【第2回】アニメ動画でサプリメントを売るライオン、説得力、納得感がカギ
【第3回】シニアのつながり志向を生かすクラブツーリズム、SNSは会員25万人

 「それは研究者の偶然の発見から生まれた…。2005年秋、研究所のメンバーは新たなオーラルケアの開発を目指し、様々な実験を行っていた」─。

 こんなナレーションで始まるノンフィクション再現アニメーション動画を配信して、中高年層の新規顧客開拓に成功しているのがライオンだ。

 動画で紹介している商品は「ナイスリムエッセンス ラクトフェリン」。ライオンの通販専用商品で、ネットでは同社EC(電子商取引)サイト「LION ウェルネスダイレクト」で販売している。

 ラクトフェリンは、牛乳や母乳に含まれるたんぱく質の一種。日本肥満学会で内臓脂肪を低減する効果があることを発表しているエビデンス(医学的根拠)が明確な健康成分である。胃液で溶けやすいため、特殊技術でコーティングすることで腸まで届きやすくしたサプリメントだ。

 歯周病の進行を抑制する働きに注目して研究を進めていた最中に偶然、脂質への影響を研究員が発見した。その開発物語をドラマ仕立てにして、研究員本人も一部実写で登場する約6分間のアニメ動画を制作。ニュースサイトのバナー広告やメルマガ広告などから遷移するランディングページ上で再生できるようにした。

 中高年世代向けの商品にアニメ動画の配信はやや意外な印象がある。同社通販事業部の小原克宣伝統括リーダーは、「50歳以上でも『鉄腕アトム』などを見て育っているから実はアニメは受け入れられやすい。そしてNHK『プロジェクトX』風の演出もこの世代には効く」と開発物語アニメを採用した理由を語る。

ラクトフェリン開発物語を6分間のアニメ動画にまとめた

 このアニメはネット限定のオリジナル動画だ。ラクトフェリンの広告宣伝はテレビ通販番組でも展開している。その内容はアニメ動画とは大きく異なり、テレビ通販にありがちな「愛用者の声」を中心に構成している。これはテレビ通販で効果が高い王道の手法だ。既に収録済みのテレビ通販動画を一部流用する方法もあり得たが、その手は使わず、ネットにはネットオリジナルのアニメを用意した。

 小原氏は、「テレビ通販番組の流用は出演者の著作権の問題が絡むのでそのまま流用は難しい。あと、テレビとネットで視聴態度が違うことも変えた理由の1つ。ユーザーが積極的に情報を取りにくるネットの場合、その期待に応える説得力のあるコンテンツを用意しておく必要がある」と言う。

 テレビ通販番組の視聴スタイルは大抵、視聴者が見ていた番組がいつの間にか終わってつけっぱなしのテレビに流れているシチュエーションが大半。テレビの前で待ち構えて食い入るように視聴する人は少数派だ。関心を引きつけるために、テレビ通販番組はどうしても「使用前vs使用後」のようなインパクト重視の映像が優先され、それがときに“嘘くささ”を漂わせる原因にもなっている。

 興味を持ってバナーやメルマガ広告をクリックしてきた中高年層には、インパクト重視のテレビ通販の流用映像より、開発経緯を描くことで商品の本質を理解できる動画を配置した方が説得力が増す。

 シニア向けのパソコン教室を全国に展開するマミオン(東京都新宿区)の森万見子社長は、「シニア世代はネットで商品を比較・検討する場合、それが自分にとってどうプラスなのかをストレートに答える説得力、納得感を求めている。また、商品を持つ・利用する自分の満足する姿が思い浮かぶように商品特性を伝えることも大事」と指摘する。

 その点、ライオンのラクトフェリンは、国立がんセンターと京都府立大学との共同研究で生まれた科学的に実証されたサプリであることをアピールポイントとしており、説得力は十分だ。

ライオンのECサイト「LION ウェルネスダイレクト」

 動画に誘導するメルマガ広告でも、まず冒頭、「40~50代から超人気の大ヒット商品誕生!」と打って中高年層を振り向かせ、「体重計に乗るのが怖い」といった悩みの解決策として動画を案内。「大学との共同研究」という権威や、「毎月1万人以上が試している」という実績を挙げることで、ネットでモノを買うことの不安感や敷居を払拭する工夫を凝らしている。

ライオンの通販部門の2010年度の売上高は30億円超

 こうした取り組みが奏功し、「ネット経由の注文が全体のほぼ半数」(小原氏)になっている。通販部門の売上高を2年で3倍増の30億円超(2010年度)に急成長させた。今年の夏には新商品を投入し、ネット広告にさらに磨きをかけることで、部門売り上げを前年比6割増の50億円を目指す。

特集「シニアこそデジタルが効く」
【第1回】60代前半のネット利用率は2001年の20代以上、感度高いデジタルシニア
【第2回】アニメ動画でサプリメントを売るライオン、説得力、納得感がカギ
【第3回】シニアのつながり志向を生かすクラブツーリズム、SNSは会員25万人
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