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「10~20代の若年層に訴求するため、ネットを使ったキャンペーンを企画しました」─。
企業のWebマーケティング・ネットPR事例を取材すると、その目的や狙いとして業種や企業規模の大小を問わず、この言葉が企画担当者から必ずといっていいほど飛び出す。
取り組みそのものは正しい。若年層のメディア接触は、既存マスメディアからネットへ着実に移行している。年月の経過とともに利用者の平均年齢が上昇傾向にある商品や、「若者の○○離れ」現象が起きているような商品では、ネット活用で一定の効果は得られる。
だが若年層開拓にネットを活用する戦略は、ともすると「中高年(シニア)層はネットに疎い」という考え方の裏返しになっている場合がある。もしそう考えているなら、今すぐ改めた方がいい。
下図を見てほしい。総務省「通信利用動向調査」のデータから、年齢層別のインターネット利用率を過去9年間さかのぼって推移をグラフ化したものだ。

団塊のネット利用7割に
2009年末の60代前半のネット利用率は71.6%で、これは2001年末の20代(68.5%)、30代(68.4%)を既に超えている。60代後半も58.0%に達しており、2001年末の40代(59.0%)とほぼ同水準だ。
2001年といえば9月に米同時多発テロが起き、10月には米アップルが「iPod」を発表したころ。当時、20~40代の若手・中堅ビジネスパーソンは普通にネットを使いこなしていた。そのくらいの感覚で60代前半にネット利用は既に浸透している。
一口に60歳といっても、今の60歳と10年前の60歳を同じイメージでとらえていたら、決定的に間違う。
60代前半の中心層である1947~49年生まれの団塊の世代は、40代後半で「Windows95」発売を迎え、以来、好むと好まざるとにかかわらず、パソコンを最低限使わなければ仕事にならない環境で10年以上を過ごしてきた。定年間際にWindows95発売に接し、「パソコンは苦手」でも許された今の70歳と、デジタル・ネットリテラシーが同じはずがないのだ。
例えば「ほぼ日」で知られる糸井重里さんは、団塊ど真ん中の1948年生まれで62歳。具体名を挙げると印象が明確になるだろう。以前の感覚で60歳オーバーを一括りに年寄り扱いすること自体、間違っていると言わざるを得ない。
先の総務省のデータでは、60代前半も後半も、2008年末から2009年末にかけてネットの利用率が急増している。より長く職場でパソコンに触れた世代が60代に加わることで、2010年末も利用率が急増する可能性は十分にある。「シニア層にはデジタルデバイドがある」という考え方は、そろそろ過去のものとして考えた方がいいのではないだろうか。
デジタルシニアは魅力的な消費者
電通は昨年9月、情報学が専門の東京大学大学院の橋元良明教授と共同で60代の「デジタル度」について定量調査を実施し、ネットを積極的に利用している層と未利用の層との差異を明らかにした。

メールを除いてネットを1日30分以上利用している人を「デジタル層」、メールも含めて一切ネットを利用しない人を「非デジタル層」と定義して60代各200人ずつ調査したところ、デジタル層、すなわち「デジタルシニア」は、「新製品・サービスの利用が人より早い」「話題の場所、店には行くようにしている」「いつも最新の情報に触れていたい」といった設問で非デジタル層をいずれも有意に上回った。デジタルシニアの好奇心旺盛な姿が浮かび上がってくる。
同様に、「外食支出が月1万円以上」「年間旅行支出が10万円以上」「株式投資」などの消費・投資、「社交的な集まりへの参加」「新しい情報の発信」「グループ行動時の活動提案」「商品・サービスの推奨」などの社交性、影響力の面でも、デジタルシニアは積極的で高い比率を占めた。
調査を担当した電通総研メディアイノベーション研究部の長尾嘉英研究主幹は、「デジタルシニアは、情報感度が高く、消費意欲も旺盛、周囲にクチコミで広める影響力も持っている。企業から見れば非常に魅力的な消費者」と指摘する。
2007年ごろ、団塊の世代が大量定年を迎えるに当たって“団塊特需”に期待が寄せられたが、芳しい成果が出たとは言い難い。だがそれは団塊が“ケチ”なのではなく、「シニアはネットやデジタルに疎い」という思考停止に陥って、適切な広告宣伝・販促を打ってこなかったことも、一因になっているのではないだろうか。
現に、シニア世代にネットで攻略を試みた企業は一定の成果を上げている。次回はその実例を見ていこう。
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