「みなさん大丈夫ですか?!余震に注意してください。まだ揺れてるかんじがする…只今店舗の被害を確認中です」

 いわゆる“軟式アカウント”の代表格としてTwitter界で知られる、スポーツ用品専門店経営のゼビオ(@XEBIO_Co_Ltd)。フォロワー1万人以上から愛されている“中の人”「ぜびこ」さんは、3月11日に発生した東日本巨大地震の直後から、被災地に役立つ情報を中心に200件以上をツイート(Twitterへの投稿)している(3月13日午後8時時点)。

 冒頭のツイートは3月11日の午後2時52分。地震発生は同46分ごろで2分近くは揺れていたことを考えると、まさに直後のツイートである。その4分後、56分にはNHK広報局(@NHK_PR)がツイートした大津波警報をRT(リツイート)。「こんな大きい地震、生まれてはじめて」と恐怖に震える中、「落ち着いて行動を」「水を確保してください」「室内でも靴を履いて」とフォロワーを気遣った。

 この時点でまだ家族の安否も分からぬまま、フォロワーの中にいる店舗スタッフに向けて、「DMでも結構ですので情報下さい!お客様、スタッフにケガがないか、店舗状況はどうなっているか教えてください」とツイートを続けた。

 本社に電話してもかかりにくく連絡が取れない各店舗従業員や、店舗で客として被災した人々から、@XEBIO_Co_Ltd 宛に続々と情報が寄せられた。

 また、ゼビオ仙台泉中央店がスポーツ飲料やゼリー、菓子類などを提供していることも発信。Twitterが被災状況の確認手段、被災者向けサービスの発信手段として中心的役割を担うことになった。奮闘するぜびこさん宛に多くの激励メッセージが寄せられた。

 本誌のTwitterを利用したインタビューに対して「ぜびこ」さんは、「弊社は本社を福島県郡山市においており、実際の被災地であり、被害にあった店舗も多数あります。ずっと地域の皆さんに支えられてまいりました。ですから、少しでもみなさんのお力になれればいいなと思ったためです。ワタシ自身も福島の出身であり、思い入れがあります」とTwitterでの地震関連の情報発信を始めたきっかけを語る。

 「企業だからと言うわけではなく、1人の人間として、同じく国に住む人たちのことを心から思い、力になりたいのです」

 情報発信に当たっては、他の企業アカウントと連携して正確な情報を集めることに注力。3月13日も深夜2時過ぎまで情報を伝え続けた。

日産、車中泊対策など自動車関連中心に

 「横浜、まだ余震でゆれております。運転中、強い揺れを感じたら、ハザードを点灯し、徐々に減速しながら安全な場所に停止してください」(11日15時29分)

 「【車中泊をされる方】(1)車両は交通の障害にならず津波の心配の無い安全な場所で(2)いわゆる「エコノミークラス症候群」防止のため、水分を充分摂り数時間おきに足を動かす運動を(3)就寝中誤ってアクセルを踏んで過熱や急発進のおそれがあるため、なるべくエンジンは止めてください」(11日22時26分)

 こちらは約1万5000人のフォロワーがいる日産自動車(@NISSAN)のツイートである。自動車メーカーとして、まさに必要であろう情報を適切に提供していると言えよう。工場なども含めた被害状況リリースをWeb公開直後にURLをツイートし、問い合わせが寄せられていた本社ビルの従業員や訪問者の安否についても無事である旨をツイートした。

 日産でTwitterなどを担当するグローバルコミュニケーション・CSR本部の小川正太郎氏は、「外出先で被災するなどしてテレビやラジオを視聴・聴取できず、携帯電話も通話とメールができないがネットだけは通じるという状態で、Twitterが情報の拠り所という方も多く、正確な情報を伝達する必要性を感じました」と、地震関連情報の提供を始めたきっかけを語る。

 Twitter上ではデマのような情報も含まれたため正確性には細心の注意をはらった。まず、日産社内の災害対策本部や官房長官の記者会見の情報を元に長距離徒歩帰宅への注意喚起、そして新潟中越地震(2004年)時に多発した車中泊の健康被害に関する留意点を過去の報道を元に投稿していった。

 また、日産社内の外国人役員などにテレビのニュースをかいつまんで説明していたため、その一部を英語でTwitterへ投稿した。「自分も海外赴任中、有事に情報への渇望があった」という小川氏自身の体験に基づいたものだったと言う。

 週末に入ると、Twitter上の情報もあふれるほどになっているため、「あえてツイートは控えている」(小川氏)状況だ。週明けの月曜日以降は、状況を見ながらTwitterでの情報提供を検討する。

マスで得にくい情報をソーシャルで

 「情報急募&公式RT希望! 集めたいのは『震災情報』ではなく、『生のサバイバル情報』です!どこにはまだ水が売っている、ここの体育館にはまだ避難ができるなど。 県ごとに項目を分けて作りました!報道されないミクロな情報求む! http://bit.ly/heR44C #jishin」

 こうしたツイートをしているのは、東急ハンズのネット通販サイト「ハンズネット」(@HandsNet)だ。約1万人のフォロワーを抱える。約2万4000人のフォロワーがいる、質問・回答サイト運営を手がけるオウケイウェイヴのQ&Aサイト「OKWave」(@okwave)と共同でTwitterを通じて、被災地での給水、炊き出し、物資情報共有に関する情報を集めて、まとめサイトを作成している。

 ハンズネットのTwitterを担当する、通販事業部の緒方恵氏は、「震災直後から、情報の収集・拡散を行っているのですが、『現地の人がすぐに欲しいリアルな情報』はマスには出ていませんでした。また、一元化の必要性を痛感しました。そこで、(OKWaveのTwitterを担当する)武内君に、県ごとに板を分けた情報収集板を立てられないかと提案して始まったものです」と経緯を語る。

 オウケイウェイヴは、日常の疑問を解決する情報サイトをユーザーが簡単に作成、編集できるサービス「OKGuide」や、Twitterを通じたQ&Aサービス「おけったー」を運営しており、そうしたサービスを利用して実現した。Twitterを通じてかねてから2人に親交があり、既存の資産があったから実現できた取り組みといえるだろう。

 このほかにも、通信インフラを担うNTT(@NTTPR)は、通信状況や災害用伝言板の運用、公衆電話の無料開放、特設公衆電話の設置場所などをツイート。ソフトバンク(@SoftBank)も公衆無線LANサービス「ソフトバンクWi-Fiスポット」の無料開放など同社が次々と打ち出す施策を伝えていった。

 また、孫正義社長は自身のTwitterアカウント(@masason)から、全ソフトバンク利用者のメールを1週間無料開放すること、キャンペーンで配布していた「白戸軒ラーメン」1万5000食を被災地施設に非常食として無償配布することなどを公表して、存在感を示した。

自動投稿の設定があだになる

 一方、残念な企業ツイートもあった。

 あるDVDレンタル店のTwitterアカウントでは、「テレビは地震ばかりでつまらない」として、来店を呼びかける投稿をして非難が集中した。また、ある大型電気店では、以前から予約投稿していたとみられるセールの告知ツイートが、地震の翌日、12日の開店直後に流れて批判が寄せられた。

 Twitterの自動投稿bot(システム)は便利だが、このような場合はいささか不適切なツイートに化ける。ツイート担当者が不在でも投稿解除はできるように、体制を整えておいた方がよいだろう。

 ユーザーの批判に素早く対応したのが楽天だ。楽天は3月11日付のメルマガが、ユーザーによっては地震後に到着。その中には「みんな笑顔」などの表現があり、ユーザーから批判を受けた。その結果、12日、13日のメルマガ配信は停止するという措置を取った。日頃から「配信が多すぎる」との声が多いだけに、そのまま手を打たなければやはり批判の声が集中していたかもしれない。適切な措置だったといえる。

 震災に際し、企業がWebサイトやTwitterなどを通じて、自社の今後の営業体制や、どのような社会貢献をするのかなど情報発信していくことは社会的責任だ。Twitterはそれが手軽にでき、かつそれを読むフォロワーは自社のファンが大半なのだから、フォロワーを気遣いつつ、自社の姿勢を早急に示すことが求められる。

■修正履歴
記事掲載後、「ぜびこ」さんのコメントを追加いたしました。[2011/02/14 02:50]