全日本空輸のFacebookページ「ANA.Japan」のファン数(ページへの登録者数)が急増中だ。開設翌日の1月12日には1000人、1カ月強で1万人を超え(3月2日時点で1万517人)、投稿へのコメント数も多く活況を呈している。国内大手企業のFacebookページでは、昨年9月に始めたユニクロが3万人、10月開始の良品計画が2万人を超える規模でトップクラスとなる。全日空の急拡大の秘密はどこにあるのだろうか。

受験のお守りに200件以上のいいね!

 「滑らない砂の話って知っていますか?」

 全日空の営業推進部WEB販売部WEB企画チームの高柳直明リーダーに、同社Facebookページの人気の秘密を記者が尋ねたところ、こんな問いかけが返ってきた。

 これは、飛行機の機体整備でねじを外す際に、滑らないように工具に付ける砂のことだそうだ。全日空は1月31日、Facebookページ上で「明日2月1日より4日間、羽田空港にて各日先着1000名様に『ANA特製手作りお守り』をプレゼントいたします♪」と写真と共に告知した。滑らない砂を入れた、受験生向けのお守りだ。投稿への好感を示す「いいね!」ボタンは200回以上押され、「欲しい!」などのコメントが20件以上寄せられるという大きな反響を得た。

全日空のFacebookページに掲載したコンテンツの「いいね!」数ランキング

 この出来事は、全日空のFacebook活用を象徴するものだ。

 全日空のFacebookページ運営目的は、「ANAファン、ユーザーとコミュニケーションをしてエンゲージメント(きずな)を深める」(高柳氏)ことだ。

 滑らない砂のエピソードに代表されるように、全日空のFacebookページは、普段は知ってもらう機会が少ない全日空の活動を広く伝える役割を果たしている。航空券のネット販売が最大の目的である自社サイトでは、売り上げには直結しないこうした取り組みは大きく紹介しづらいか、そもそも掲載していない。それをFacebookページで取り上げて全日空の活動に共感してもらい、ファンづくりを目指しているという。

 そのため、「キャンペーン告知など販促系のコンテンツの投稿は週1回程度にとどめている」と高柳氏。コンテンツは毎週月曜日、社員の笑顔の写真の投稿から始まる。キャビンアテンダント(CA)のような会社の“顔”となる社員だけでなく、予約センター、空港の地上係員、機内サービス用品の保管・管理業務を担当するスタッフなど、舞台裏で支える社員たちも登場する。

 登場する社員にとっては、普段の取り組みが広く知られて様々な反響が直接寄せられることで、仕事のモチベーション向上にもつながっているという。

 その他、飛行機や風景の写真、テーマ別に旅先を紹介する「CA旅の耳より情報」、若手アーティストを支援するプロジェクト「ANA MEETS ARTS」の紹介などが主なコンテンツとなる。

 全日空のコアなファンに共感を呼ぶ投稿をして、そのファンの周囲に全日空のFacebookページの認知を広げ、ファン数がさらに拡大するサイクルができているという。

部署横断で社内ネタを発掘

 全日空がFacebookページの日本版の検討を始めたのは、Facebookが国内で盛り上がりを見せ始めた昨年秋のこと。まず「ファンづくり」という目的を定め、コミュニケーション、コンテンツの内容を決めていった。

 準備段階から、月1回は編集会議を開き、WEB販売部を中心にCS(カスタマーサービス)企画、広報、宣伝、国内旅行、商品戦略などの部門を交えて、掲載するコンテンツを決めている。滑らない砂もこの会議から生まれた。また、2009年1月に始めた英語のグローバル向けFacebookページの運営チームとは毎週電話会議を持ち、共用できるコンテンツなどを探って効果を最大化しようとしている。

 開設前に高柳氏が最も意識したのは、Facebookページ運営に顧客対応をするカスタマーデスクも参加してもらうことだ。情報発信、コメントへの返事は、WEB販売部でメルマガなどを担当するスタッフ3~4人が、他の業務と兼任しながら日替わりで対応している。しかし、個別に対応すべき不満の声が上がる可能性もある。そのため、カスタマーデスクにはFacebookへの投稿を日々モニターしてもらい、即座に対応できる体制を整えている。

全日空のFacebookページは1万人以上がファン登録

 ファン数が急拡大した背景には、共感を呼ぶコンテンツを企画できたことに加えて、“追い風”となる要因もあった。

 全日空が実施したFacebookページのファン獲得策は自社サイトでの告知程度。しかし、1月11日は、米フェイスブックの創業者をモデルとした映画「ソーシャル・ネットワーク」の封切り直前で、テレビも含めてFacebookの話題が一気に盛り上がった時期だった。また、そもそも国際線をよく利用するビジネスパーソンと、国内でFacebookを利用する層は重なっており、相性が良いとも推測される。

格安航空会社への対抗策に

 全日空はファンづくりを強く意識してFacebookページを運営しているが、これには航空業界を取り巻く環境の変化がある。全日空は「2011~2012年度 ANAグループの経営戦略」において、羽田空港の国際化や成田空港の発着枠拡大で2015年度に向けて、首都圏の空港容量の拡大と航空自由化が進展すると想定している。欧米のメガキャリアや格安航空会社(LCC)が本格進出し、さらに日本航空の経営再建が進めば、競争環境は激化する。

 とはいえ、全日空本体がLCCに航空運賃で正面から対抗するのは得策ではない。
 「ANAが好き」というファンを国内外に広げて、頻繁に出張に行くビジネスパーソンから、年1回の旅行だけ飛行機に乗るような家族連れまで、飛行機の利用時には全日空を選んでもらうことが理想だ。その期待がFacebookページに課せられている。

 高柳氏はこの現状を、「競争が激しい中ではお客様とのつながりが大切になる」と表現する。今後は、「投票コンテストなど双方向の企画も交えて、試行錯誤しながら結びつきを深めたい」(高柳氏)考えだ。約4000万人の全日空の年間旅客輸送実績と比べると、ファン数が1万人のFacebook活用はまだ緒に就いたばかり。真価が問われるのはこれからだ。

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