顧客と共に商品開発――。これこそ良品計画が持つ強さ。そのはずだった。

 「そこを忘れてきた」と、同社の奥谷孝司WEB事業部長はこぼす。良品計画にとってソーシャルメディアは、販促をしたりブランディングをしたりするアイテムではなく、会社の原点回帰に欠かせざるものになりつつある。「Twitter」でソーシャルを知り、それが今、Facebookという新たなメディアで顧客との新しい関係を築き始めている。

“まいんちゃんと事件”の真相

 「まいんちゃんと」

 昨年8月24日のことだった。無印良品のTwitterアカウントに、こんな一文が投稿された。すると、ネットユーザーの間で瞬く間に話題になった。

 すぐさま投稿した「『毎日ちゃんと』と入力するのを間違えてしまい」という良品計画の“言い訳”に、Twitterユーザーはさらに沸いた。一連のできごとはTwitterにとどまらず、掲示板サイト「2ちゃんねる」などに飛び火。「広報www 」「これは異動だな 」と、ミスをした“中の人”を嘲笑する書き込みが急増した。

“打ち間違えた”投稿がTwitterで大きな話題に

 実はこの投稿は計算のうち。NHK教育テレビの番組「クッキンアイドル アイ!マイ!まいん!」で、タレントの福原遥さん扮する「柊まいん」がネット上で人気を博していたことに目をつけて、良品計画があえて投稿したのだ。しかも、投稿時間は番組が始まる午後5時40分の直前と、話題にするための工夫も施した。「ポジティブな炎上」(奥谷氏)によって、フォロワー数は急増した。

 こうして、フォロワー以外の人たちにも情報を拡散させるためのエンターテインメント性を提供した。そしてその前提となる、フォロワーとの対話による信頼性の確保で、会社が原点に戻るきっかけを作っていった。

 Twitterで得た知見をそのままFacebookで生かすと同時に、奥谷氏は両者の決定的な違いも把握している。

 奥谷氏によれば、Twitterが「即興演奏のようなメディア」なのに対し、Facebookは「オーケストラのようなメディア」だと語る。Twitterでは、フォロワーから問いかけられた内容に、140字という限られた文字数で的確な返事をする「ツイートセンス」(奥谷氏)が求められるという。つまり、リアルタイムの即興性が必要になる。

 一方、Facebookページは自社でいかようにも組み立てることができる。自社サイトにあるコンテンツを転載する、またはそこでアンケートを実施する、あるいはEC(電子商取引)サイトの機能を持たせる――といった具合だ。だから「利用する狙いに合わせて、掲載する情報を腰を据えてじっくり考えられるオーケストラのようなものだ」と奥谷氏はFacebookを捉えている。

3つのメディアの側面を持つFacebook

 Facebookは、「トリプルメディア」と呼ばれる3要素をすべて兼ね備えることで、オーケストラになり得る。オウンドメディア、アーンドメディア、ペイドメディアの3つである。

Facebookはトリプルメディアすべての側面を持つ

 オウンドメディアは、自社で“所有”するメディアのことだ。自社で運営するコーポレートサイト、ECサイト、会員組織化されたメールマガジンなどが当てはまる。自社で運営するので掲載する情報や、掲載する時期、修正・公開の停止など、すべてをコントロールできる。

 アーンドメディアは評判や信用を“得る”メディアを指す。クチコミサイトやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などのソーシャルメディアがこれに分類される。ソーシャルメディアの利用者の拡大が、ユーザーからユーザーへと評判が伝播するスピードを加速させている。ひとたびソーシャルメディア上で話題になれば、ブランド認知の向上や売上増加まで、様々な成果が期待できる。反面、情報のコントロールはできない。

 ペイドメディアは“買う”メディア、すなわち企業が対価を払って広告を掲載するようなメディアをいう。「Yahoo!JAPAN」や新聞社や出版社が運営するニュースサイト、「Google」などで検索した時にキーワードに連動した広告を検索結果ページに表示する検索連動型広告などが、これに該当する。

 Facebookは、これら3つのメディアすべてに対応する機能を持つ。Facebookページでは第三者が提供しているツールを使うことで、自社サイトのように好きなコンテンツを置くことができる。良品計画では、iPad向けに提供しているアプリの紹介コーナーを設置したり、タイムセールの実施時にECサイトのような商品陳列棚を作ったりしている。この点が「オウンドメディア」的であるといえる。

 こうして掲載した情報は、ファンを介してその友人にまで広がる可能性がある。Facebookページに投稿した情報には「いいね!」ボタンや、「シェア」ボタンがついており、ユーザーはそれらのボタンをクリックすることで、Facebook上の友人にその情報を教えられる。ファンを起点に、一気に情報が波及する「アーンドメディア」としての役割も担う。

 さらに、Facebookページや掲載した情報の告知、自社サイトなどへの誘導を狙った広告配信もできるため、「ペイドメディア」として利用できる。広告は代理店を通して配信するだけではなく、管理画面からセルフサービスで出稿することもできる。ちなみに良品計画はまだ、ペイドメディアとしてのFacebook活用はしていない。

 オウンドメディアとアーンドメディアの両側面を持つ、あるいは両者の中間的な要素を持つことに早くに気づき、それらに即した展開をしてきたのが良品計画だ。ソーシャルメディアの活用で同社は、会社の強さの原点に戻ろうとしている。