新たなマーケティングプラットフォームとして注目が高まる世界最大のSNS「Facebook」。名前はよく耳にするものの、どう活用すべきか、これまでのソーシャルメディアと何が違うのか。そう頭を悩ませるマーケティング担当者も多いのではなかろうか。
この新たなマーケティングプラットフォームを積極的に活用している1社が、「無印良品」を展開する良品計画だ。Facebookの国内の登録者数が200万人程度といわれる中で、無印良品の日本向け「Facebookページ」には既に2万2430人のファンが登録している。
この数は、日本企業の中でもトップクラスに位置する。強さの秘密は、Facebookを「オウンドメディア」と「アーンドメディア」と呼ばれる両方の側面を持つメディアと位置付けてマーケティング展開してきたことが挙げられよう。
オウンドメディアとは自社の持つメディアのこと。例えば自社のWebサイトや会員組織化されたメールマガジンなどを指す。一方、アーンドメディアは「消費者から信頼や評判を得るメディア」と言い換えられる。「価格.com」などのクチコミサイトや「mixi」を始めとするSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)がアーンドメディアに当たる。
この考えに基づけば、SNSであるFacebookはアーンドメディアに区分されるはず。ところが同社は、そうした既成概念に拘泥しないことで、多くのファンを獲得してきた。
良品計画の事例を基に、Facebookの真の活用法をシリーズとしてお届けしていく。「オウンドメディア」としてのFacebook、「アーンドメディア」としてのFacebook、Twitterでの経験をFacebookに生かす、といったラインナップだ。第1回の本稿では、良品計画のオウンドメディアとしての活用法について紹介していく。
48時間で1656人のファン獲得
良品計画はFacebookページにEC(電子商取引)サイトのような商品陳列棚を作って、今年1月6日にそのFacebookページで午前11時から午後3時まで4時間のタイムセールを実施した。無印良品のFacebookページのファンが昨年12月下旬に1万人を突破したことを記念したセールで、無印良品のFacebookページにファン登録したユーザーだけが商品を買うことができた。

この企画では、Facebookページのメニューに「タイムセール」のタブをセール期間中だけ設置した。そのタブをクリックすると、Facebookページ上に「生活雑貨」「婦人ウェア」といったカテゴリーごとに商品が陳列される。各商品には「購入」ボタンが備え付けられている。それは、まるで自社で運営するEC(電子商取引)サイトのようだ。
「売り上げは30万円程度だったものの、タイムセールの告知から終了までの48時間で1656人のファンが増えた」
同社の奥谷孝司WEB事業部長はそう成果を語る。こうした話題作りが奏功して、タイムセールの開始以前は70人程度だった1日当たりのファン増加数は、今では1日300人ずつ増えるようなった。
従来、SNSなどに公式ページを開設する場合、サービス運営側が提供している機能を使ってユーザーとコミュニケーションすることしかできなかった。例えば、日記機能を使って、キャンペーン情報などを掲載する。あるテーマに沿ったトピックを作って、ファンに感想などを書きこんでもらうといった感じだ。
ところがFacebookでは、第三者がFacebookページ向けに多彩なツールを提供しており、そのツールを使うことで動画投稿共有サイト「YouTube」に掲載した動画の一覧を設置したり、キャンペーンページを制作したりできる。つまり、自社サイトに近い感覚で使うことができるというわけだ。こうした「オウンドメディア」的機能を活用したのが、良品計画のFacebookタイムセールだと言える。同社はまた、世界に向けたアンケートにもFacebookを使っている。
グローバルに問いかけ1077件の回答
多くの企業がリサーチ会社を利用したり、あるいは自社サイトで実施する顧客へのアンケート。良品計画はFacebookページで、世界に向けたアンケートを実施した。昨年11月に日本語と英語のアンケートページを制作して、日本向けのFacebookページと、グローバル向けのFacebookページで、それぞれのファンに回答を求めた。

アンケートの内容は「クリスマスプレゼントを何人にあげるか」「いくらぐらいのものをあげるか」といったものだ。アンケート期間の昨年11月19日から12月27日までの39日間で1077件の回答が寄せられた。
その内訳は、日本語での回答が803件、英語での回答は274件となった。「自社のメール会員に向けたのと同じぐらいの回答数を得ることができた」と奥谷氏は満足げだ。
コストも安い。リサーチ会社に依頼すれば、わずか1回で10万円前後と言われるが、これを大幅に安く抑えた。同社が使った米サーベイ・モンキーのアンケートツール「SurveyMonkey」は回答結果をグラフにしたり、ローデータをダウンロードできる上、年間2万4900円で何度でもアンケートを実施できる(スタンダードプラン)。
取得したアンケートデータから、日本人は恋人や親など少人数に高額な商品をプレゼントする傾向があるが、米国などでは友人なども含む大勢に少額にものをプレゼントする傾向に明らかになったという。今年のクリスマスシーズンはこうした国ごとの文化を踏まえて、日本と海外でそれぞれニーズに合った商品展開をしていく計画だ。
良品計画は「着実な海外事業の展開」を中期経営方針に掲げている。今後、 海外の売上高を増やすためのマーケティング戦略を考える上で、海外のニーズを日本にいながらにして探ることができるFacebookページの重要性は高まっていくことが想定される。
Facebookページは単なる交流の場や告知ツールではなく、そこで自社商品を販売したり、ファンに対してアンケートを実施したりできるなど、使い方次第で自社サイトに近い運用ができる。とはいえ、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する際の“王道”とも言える「アーンドメディア」的な施策を、同社がないがしろにしているわけではない。次回は、良品計画がアーンドメディアとしてFacebookを活用している事例を紹介する。