忙しさにかまけて、ついつい料理をすることから縁遠くなり、いきおい外食やレトルト食品で済ませてしまう――。
独り暮らしならわりとよく聞く話だが、結婚しても共働きが増えたことで、以前ほど料理をしなくなっているといわれる。そんな深刻な状況に頭を悩ませる1社がミツカンだ。
ミツカンと言えば「酢」でよく知られる。ところがその酢を「使いこなせない人が増えている」(MD戦略本部MD企画部プロモーション開発課の中村秀樹課長)。共働き世帯の増加によって、そもそも“内食”の回数が減った。その上、独特の刺激臭や酸味の強さが、料理に使いづらいという人たちが増えているのだという。
パッケージにQRコード掲載でレシピ提案
中村氏は言う。「若い人にも手にとってもらうには、従来のようにおいしい商品を開発するだけではダメ」。魅力的な商品を作るのにとどまらず、その商品を使ったレシピを合わせて紹介するなど、提案型の販売方法が求められている。
ミツカンが着目したのがケータイサイトだ。商品のパッケージにQRコードを掲載して、その商品を使ったレシピ一覧に簡単にアクセスできるようにした。
試験的に1つの商品から始まったパッケージへのQRコードの掲載は、主力商品の酢を中心として既に18商品へと広がった。今春に発売する商品のおよそ半分にQRコードを掲載する計画だ。

同社はこれまでも、自社開発したメニューを載せた小冊子をスーパーの店頭に並べたり、若年層と相性のいいインターネットに白羽の矢を立て、レシピサイト「クックパッド」の利用者から募集したレシピを新聞広告などに掲載したりして提案の場を広げてきた。
しかし、スーパーなどの棚には様々なメーカーの商品が陳列されており、各社がおのおのPOPなどの販促物を並べたのでは、かえって商品そのものを見づらくなる。そんな懸念から、スーパーによっては小冊子を置かせてもらえないケースもあるという。
置けたとしても、無料配布の小冊子ではコストを考慮すると掲載できるレシピの数はせいぜい6~10品程度となる。自社のパソコンサイトでは数千ものレシピを紹介しているが、パソコンサイトを見ながら料理を作る姿は想像しづらい。
小冊子の配布が難しいスーパーの利用者に対して、より多くのレシピを目にしてもらい調味料の魅力を伝える。そうした狙いからたどり着いたのが、商品パッケージとケータイサイトを組み合わせるという方法だった。
ケータイサイトに力を入れるようになった背景には、「やさしいお酢」の成功体験がある。刺激臭や酸味を抑えることで、酢を使った料理が苦手な人でも食べやすいというコンセプトで開発した商品で、2009年2月に発売した。やさしいお酢の販促のため、ミツカンとして初めて特定商品を対象にしたケータイサイトを開設して、100種類以上のレシピを掲載した。

「やさしいお酢に関するレシピしかないのに、月間約3万人が訪れるサイトになった」と中村氏。やさしいお酢の発売に合わせて展開したテレビCMなどの広告も、サイトへの誘導を後押しした。
商品開発とマーケティングの部署を統合
商品ごとのケータイサイトの開設は、酢類から始まって昨年8月からは納豆、つゆなどの商品へと拡大させた。ポン酢はラベルの面積の都合上QRコードを印刷するスペースが取りにくいため、キャンペーン時期などに合わせてボトルの「首かけ」にQRコードを掲載することで対応している。
1商品当たりに用意しているレシピの数は約100種類。酢であれば、1本使いきっても、すべてのレシピは作りきれないだろう。「ほかにも作ってみたい料理がまだある」。そんな風に考えてもらえることができれば、リピート購入が期待できる。
「今後ケータイサイトの利用者数がパソコン向けサイトと逆転する可能性は高い」と中村氏はみる。今後は、ポン酢などの商品パッケージにもQRコードの掲載を検討していく。
商品が持つ良さと、消費者への伝達方法という両輪がうまくかみ合い始めたミツカン。その潤滑油となったのが、社内の組織変更だった。現在、中村氏が属するMD戦略本部は、商品開発などを担う「製品企画部」と「マーケティング戦略本部」を統合して昨年3月に生まれたセクションだ。消費者に調味料の使い方を提案しながら売る。そうした新しい手法を生み出すには、商品開発とマーケティング戦略の立案を同時に進めるべきという考えに基づいたものだ。同社は、MD戦略本部を中心に、より効果的な提案型の販売施策を見つけ出して、売り上げ増加を目指していく考えだ。