人口減少に伴い中長期的には縮小が避けられない国内市場。その中で企業が成長を続けるにはシェア拡大の一手が必須だ。住宅メーカー大手の大和ハウス工業は、シェア拡大を狙う新コンセプトの戦略商品のプロモーションに、「Twitter連動ネット生ドラマ」という“奇手”を打ってきた。その裏には、従来型のプロモーションを続けることへの危機意識がある。
2010年の住宅市場は2年ぶりの回復ムードに沸いた。ローン金利優遇や住宅エコポイント効果で、着工数は前年比3.1%増の81万3126戸となった。しかし、100万戸を超えた2008年には遠く及ばず、長期的にはさらなる縮小も想定される。
「たとえ50万戸になったとして、現在3%に満たない当社のシェアを引き上げていけば問題ない」。そう語るのは、大和ハウスの住宅事業推進部事業戦略グループの金田健也次長だ。
アラフォー狙い、建て替え市場でシェア拡大
シェア拡大戦略の1つが、建て替え市場の獲得だ。大和ハウスは「全戸数に占める(建て替えの)比率は20数%で、大手メーカーの中では下位」(金田氏)に甘んじる。この比率を高めることがシェア拡大への近道だ。

そこで同社が昨年12月に発売した戦略商品が、フルタイムの共働き家族向けの「xevo CLEVA(ジーヴォクレバ)」だ。世帯収入が高いアラフォー(40歳前後)世代の建て替え需要を狙った商品だ。
クレバのコンセプトは「女性が美しく暮らせる家は、家族が豊かに暮らせる家」。それを実現するために、P&Gの高級スキンケアブランド「SK-II」とのコラボレーションによる新住空間「コクームスペース」を備えている。
コクームスペースは、男性には「書斎」、子どもには「子ども部屋」があるように、女性のためのスペースもあるべきとの考えから生まれた。まゆ(cocoon)と部屋(room)を組み合わせた造語がコクームで、照明や天井高の工夫で「おこもり感を出すことで心地良さを演出した」(同社)という。また、照明や収納にこだわったメークカウンターを設けて、アラフォーでバリバリと働く女性たちを支援する。
この戦略商品のプロモーションに活用したのが、Twitter連動のネット生ドラマだったのだ。
「家族にも秘密なこと、1つや2つあるよね」――
大和ハウスは1月10日午後10時から、唯川恵さんの小説「繭(まゆ)に抱(いだ)かれて」を原作とした生ドラマをネット配信した。唯川恵さんは女性に人気の恋愛小説家。小説は夫と子どもを持つアラフォー女性「直子」を主人公にその心模様を描いた。
生ドラマでは小説のシーンを録画映像で流し、その合間にコクームスペースでくつろぐ直子(モデルの前田ゆかさん)がTwitterで女性を中心とした視聴者から意見を募り、それを読み上げてコミュニケーションした。ドラマ映像の横には視聴者からのTwitter投稿も表示する新しい形のプロモーション施策となった。
大和ハウスの国内住宅事業の課題である建て替え需要の取り込みを狙うクレバ、同商品を象徴するコクームスペース。そのプロモーションがTwitter連動生ドラマだったのはなぜだろうか。
頭の中のショッピングリストに入るには
住宅商品のプロモーションは一般的に新聞広告やカタログが中心だ。大和ハウスの総合宣伝部デジタルメディア室の大島茂室長は、「住宅を欲しいと思っているモチベーションの高い人には従来型プロモーションだけでいいが、(コクームスペースの)新コンセプトに気付いてもらい需要を喚起するには新たな仕掛けが必要だった」と明かす。
生ドラマに期待したのは、住宅商品の新発売を“ニュース”にすることだ。住宅商品の発売だけではマスメディアの記事になりにくいし、家の購入を検討していない消費者の間で話題にはならない。コクームスペースのマーケティングプランの段階から関与してきたマーケティングコンサルタントの高広伯彦氏は、「住宅は生命保険などと同じくライフステージ型の商品で、メーカーからぜひ(買ってほしい)と言ってもタイミングが合わなければ絶対購入しない。買いたいと思ったときに、頭のショッピングリストの中に入っているかが重要」と語り、企画が生まれた背景を「時代のキーワードとしてある『Ustream』などを含んだネタにしてキャンペーンをニュース、ソーシャルメディアで広げること」と説明する。
生ドラマ制作を担当したティー・ワイ・オーのアイ・ディ事業部ウルトラユニットの松本博房クリエイティブ・ディレクターも「(生ドラマを視聴する)Twitterをやるユーザーだけがターゲットでなく、(コクームスペースが)新しい、時代性を持つ商品だということが広く伝わることが大事」と語る。クレバ、コクームスペースの新コンセプトを強く印象づけ、理解を深め、広めるための仕掛けの1つが生ドラマだったのだ。
今回のプロモーションに利用したTwitter、Ustreamなどのツールは利用料は無料だ。従来、広告枠の確保にかけていたお金をコンテンツ中心に投資して、ソーシャルメディアと連携を深めることで消費者に効果的に情報を届けた。「今回の取り組みは新聞広告より随分安い」と大島氏は語る。

1月10日の生ドラマは941人が視聴した(ユニークユーザー数)。大島氏は、「視聴数は多かったわけではないが、Twitterへの投稿を見ていると1時間半ずっと見てくれた人が多かったようだ」と、視聴者の心を引きつけたことを評価する。配信時間帯のTwitterへの関連投稿数は約750件に上った。2月1日に開始したドラマ映像のオンデマンド配信で、視聴者の数を増やしていきたい考えだ。
クレバの販売はモデルハウスの見学会をする今年5月から本格化させる。見学会を前提にしたモニター販売を始めたところ、事業所によっては複数戸販売するなど月100棟の販売目標の達成に向けて好感触を得ている。
今では当たり前となった子供部屋の原点は、1954年、大和ハウスが「3時間で建つ勉強部屋」として売り出したプレハブ住宅の「ミゼットハウス」だといわれる。コクームスペースも生ドラマを契機に消費者の意識を変えて、女性の「おこもり空間」として定着するか。5月にはユーザーの声も活用した新たなプロモーションを計画するなど継続的に訴求をしていくという。