向こう2年、年率約7%の連結売上高の伸びを目標とする東芝。2012年度末には8兆円企業となる計画を打ち出している。その伸びを牽引する柱が、原子力発電やNAND型フラッシュメモリーなどの、いわゆるBtoB(企業向け)ビジネスだ。

 「グローバルトップの複合電機メーカー」(佐々木則夫社長)を標榜する東芝は今、「ネット動画」を使って企業向けビジネスを活性化させることを目論んでいる。

東芝がBtoB事業のブランディング目的で開設した「VISION for INNOVATION

 昨年12月に立ち上げたのが、プロモーション映像サイト「VISION for INNOVATION」だ。そこでは原子力発電プラントの様子などを撮影した映像を配信している。このサイトにアクセスしてみると、軽快なBGMとともに工場の迫力ある写真、動画、CGが次々と切り替わるオープニング映像が流れてくる。

 そして素人でも分かりやすい表現で、原子力事業の技術や取り組みを解説していく。動画は1本当たり5分前後の仕上がりとなっている。

 このサイトを設けた具体的な狙いは、まず、東芝が力を注ぐ事業を広く理解してもらうためのブランディングの構築。そして、BtoB事業におけるWebサイトの整備、活用の促進のきっかけとすることだ。

独シーメンスにWebで伍す

 一般消費者の間では、東芝といえば6年連続で国内販売数量シェア首位を続ける洗濯機や、愛好家の間でも評価が高い薄型テレビなど家電・AV機器を扱うメーカーという印象が強い。しかし実態は、原子力などの「社会インフラ事業」やメモリーなどの「電子デバイス事業」といったBtoB事業の売上高が全体の過半を占めており、その比率は今後さらに高まっていく見通しだ。

 「こうした姿は(新聞紙面での企業広告といった)マスメディアの広告では伝えきれない」

 そう語るのは、同社広告部国内広告担当部長代理の荒井孝文氏だ。動画投稿共有サイト「YouTube」、SNS「GREE」やデジタルサイネージなどの新しいデジタルメディアを、他社に先駆け積極的に活用してプロモーションを仕掛けてきた人物だ。

 自由度の高い自社サイトで分かりやすいネット動画を流して、業界関係者のみならずエネルギー・環境問題に関心を持つ層、就職活動中の学生、工場見学や社会科見学に興味を持つ層など幅広いステークホルダーに、東芝の実像への理解を促しブランドを確立していく。

 そして実利の部分。Webサイトの活用と言えば一般消費者向けのキャンペーンなどがイメージされるが、BtoB事業でもWebサイトが発注の検討材料になることは、例えばエネルギーに強い独シーメンスの動きなどを見れば明らかだ。同社は、「200本以上の動画を作成し流している」(荒井氏)と言う。

東芝の中期経営計画


 8兆円企業を目指す東芝は、2012年度の海外売上高比率を09年度と比べて8ポイント高い63%にする計画だ。海外の競合に伍していくためWebサイトに力を注ぐのは、当然の帰結ともいえる戦略だ。

 グローバルを意識してVISION for INNOVATIONは英語版も用意したが、そもそも映像なら言葉の壁も越えやすい。同サイトへは経営幹部も企画の段階から関心を寄せ、とりわけ海外の競合企業の事情をよく知る佐々木社長らはすぐ必要性を理解してゴーサインを出したという。

ソーシャルメディア連携で広げる

 Webサイトを作成していくに当たっては、情報があまたあるネットの世界で注目を集めることに力点を置いた。広告表現として見るものを飽きさせず、インパクトある映像にこだわった。制作はDVD「超SF的 社会科見学 工場編」などを手掛けたNHKエンタープライズに委託し、「スタイリッシュ、クール、とにかくかっこよく、映像として力がある作品に仕上げることに力を注いだ」と荒井氏。

 もっとも、たとえ動画のクオリティが優れていても、そう簡単にネットの中で広がるものでもない。そこでソーシャルメディアと連携させて、クチコミで広がるシカケを盛り込んだ。

 視聴者が映像の感想を「Twitter」「Facebook」「mixi」といったミニブログやSNSへすぐ投稿できるように専用ボタンを設置。YouTubeの東芝の公式チャンネルで動画のオープニング部分を流して自社サイトへ誘導する。同時に、TwitterやFacebookなどで寄せられた投稿を一覧できるようにした。その結果、「開設3週間で訪問者は10万人」(荒井氏)と、比較対象が無いため評価は難しいが出足としては順調といえる。

 今後、上下水道システム、環境事業、火力発電、ストレージなどに動画のジャンルを広げて、まずは20本をめどに拡充していく。スマートフォンやタブレット端末でも視聴できるようにしていく計画である。

 ネットでは届かない層への訴求を狙って、テレビ番組の制作も進めている。荒井氏は内容の詳細を明らかにしないが、3月にも放映開始になる予定だという。その番組で流すテレビCMをネットでも流したり、新聞のラジオ・テレビ欄に関連広告を載せたりするなど、メディアを複合的に使ってVISION for INNOVATIONの世界観を広げていく。

 今後の東芝の屋台骨を背負うBtoB事業のブランディング。成功すれば東芝のデジタルメディア活用が一歩前進すると同時に、他のBtoB企業のブランディング、企業広告の在り方にも一石を投じることになるだろう。

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