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ヤフーと米グーグルの検索エンジン事業の提携実現で、SEO(検索エンジン最適化)競争は激化している。その中でアクセス数を確保するには、検索回数が多く人気の「ビッグワード」1語に頼るのはリスクが高い。検索回数が少なくとも上位表示しやすい「スモールワード」で多数の上位表示を実現することが得策だ。1本の矢ではもろいが、3本の矢が束になれば強くなる。「三本の矢」作戦がSEOの新常識だ。その理由を、検索順位の急落から復活した企業の事例から探る。
オーディオブランドの「ONKYO」で知られるオンキヨーの主力事業の1つがパソコンであることをご存じだろうか。「ファブレス」による低価格パソコンで一世を風靡したソーテックを4年前に子会社化し、ようやくその認知度が上がり始めていた矢先、ある“事件”がオンキヨーを襲った。
つい最近まで、Yahoo! JAPANにおいては、「ノートパソコン」「PC」のブランドといえばONKYOだった。これらのキーワードで検索すると、オンキヨーのEC(電子商取引)サイトが1位表示されていた。同サイトの前身であるソーテック時代の効果が維持されてきたようだ。ONKYOがパソコンのブランドであるという認知度向上に少なからぬ役割を果たしてきた(図1)。
1位から23位へ急落
ところが、その状況は昨年11月25日に一変する。「以前は『ノートパソコン』や『PC』といったキーワードでの検索結果はともに1位だったのに、検索エンジンの変更となり13位と23位に下がってしまった」
ECサイト「ONKYO DIRECT」を運営するオンキヨートレーディング(鳥取県倉吉市)直販営業部直販課WEBディレクターの大田原智康氏は明かす。この時期、Yahoo! JAPANの検索エンジンが、米グーグル製のシステムに徐々に切り替わり、12月1日にその移行作業が完了した。
「ノートパソコン」など、いわゆるビッグワードで検索して、そのままネットで買う人は珍しい。しかし大田原氏は、「ONKYOブランドのパソコンを知らない人はまだ多い。検索結果の上位に表示されれば、購入に直結しなくても、量販店などでの購入にもつながっていく」とみる。「検索エンジンの切り替えは、せめて年末商戦の時期をはずしてくれれば…」と嘆きながらも、サイトの内部構成の見直しなどの改善に着手している。
検索エンジン「1ページ目表示」枠はYahoo! JAPANとGoogleの合計20サイトから10サイトへと半減した。その環境下、企業のSEO対策はどうあるべきか。各社の対応を追った。
GABA
「英会話」大幅ダウンを約100ワードで回復
「これはやばい!」
昨年7月下旬、英会話スクールのGABAで、マーケティング部門オンライン課シニア・マネージャーの職にある山根豪太氏は、部下の報告を聞いて青ざめた。Googleで「英会話」と入力して検索したときにGABAのサイトが表示される検索順位が、今までの4位から20位へ急落したのだ。
GABAの英会話スクールの見込み客の大半はネット経由で獲得してきた。2007年に旧NOVAが経営破綻するまでは、最大手のNOVAが「駅前留学」のテレビCMで需要を喚起し、「英会話」と検索したユーザーを中堅以下が獲得するという業界構造が成立していた。NOVAが去った後も、費用対効果の高い検索エンジン対策が英会話スクールの生命線を握っている。
GABAの無料体験レッスンの申し込み、または資料請求をする人のうち、6割は検索エンジン経由でGABAのサイトを訪問している。その検索エンジン経由の訪問者の中で、3割は「英会話」と検索する。検索結果の2ページ目、それも下部に表示されることは、自社サイトへの訪問者、ひいては見込み客の獲得激減を意味する。
山根氏には、思い当たるところがあった。マイクロソフトのポータルサイト「MSN」の「MSN英会話」はGABAがコンテンツ提供しており、MSNからGABAのサイトへリンクが張られていた。それが終了し、リンクが切れた直後の急落だったのだ。
人気サイトからリンクが張られている先を、検索エンジンは同様に人気サイトであると評価する。そのリンクが無くなったことが、GABAに影響を与えた恐れがあった。
もちろん下落は避けられなくとも、そこまでの激変と、山根氏は予想していなかった。取引先のSEO業者も、「何かの間違いかもしれない」と考えた。しばらく様子を見ても検索順位は一向に上がる気配を見せない。
そこへ追い打ちをかけるような発表があった。昨年7月27日、ヤフーがYahoo! JAPANの検索エンジンに米グーグルのシステムを採用することを決めたのだ。つまり、Googleにおける検索順位の下落は、Yahoo! JAPANにもほぼそのまま影響するわけだ。この提携によって、実際に切り替えが進めば、訪問者数はさらに減ってしまう。
検索順位を上げる対策が急務となった。ただし、GoogleとYahoo! JAPANの検索結果がほぼ同一になれば、「英会話」のような検索回数が多く、SEO面でも人気の「ビッグワード」においては、検索順位の上位を巡る競争は一層激しくなることが予想された。そこで山根氏は、検索回数は少ないものの、競争度合いが低い「スモールワード」で勝負することを決めた。それが後に、アクセス数の減少を防ぐ決め手となった(図2)。

※「検索順位」とは、Yahoo! JAPANで「英会話」と検索したときにGABAのサイトが表示される順位。「流入数」とは、Yahoo! JAPANの検索結果からGABAのサイトを訪れた数の合計の前年比。「英会話」以外の検索も含み、検索連動型広告と自然検索経由の合計となる
「地名+英会話」の対応強化
具体的には、ラーニングスタジオ(教室)がある地名と「英会話」を組み合わせたキーワードの対策を強化することにした。まずは、教室紹介ページのタイトルや概要文を変えた。ページタイトルの冒頭には教室のある駅名を配置した。東京・表参道の教室の場合、「表参道の英会話スクールならGabaマンツーマン英会話」といった具合だ(図3)。

タイトルにはさらにもう一工夫を加えた。表参道周辺で英会話教室を探す人のために、周辺の駅名も入れたのだ。表参道であれば「青山一丁目・原宿エリアからも便利な英会話教室」といった具合だ。地名が多すぎてもSEOの効果が下がるため、一教室当たり2駅の表示にとどめた。
SEO対策を担当したGABAマーケティング部門オンライン課シニア・Webプロデューサーの奥康隆氏は、併記した駅名について、「乗降客数、検索回数、地元の人が使う言葉などを考慮して決めた」と明かす。英会話学校の大手では例えばイーオンが約250校を持つが、GABAの教室は32店舗にとどまる。周辺駅の併記はそうした弱みの補完にもつながる。
外部サイトからのリンクも強化した。Googleにおけるページの重要度を判断する目安の1つである「PageRank」(最高で10)が5以上のサイトなどに張ってもらった。
外部サイトからのリンクで検索順位を上げる手法は、スパム的な手口が広がり、検索エンジンの評価が年々厳しくなっている。スパムと認定されれば、検索順位の低下や、検索エンジンのデータベースからの抹消というペナルティを受けかねない。
4位から19位でも流入数は増加
そこでGABAは英語学習の情報サイト「Gaba Style」を立ち上げるなど、コンテンツの拡充によって自然にリンクを増やす取り組みも始めている。しかし、SEO競争が激しい業界は全ライバルが外部リンク対策に取り組んでおり、1社だけやめるわけにはいかないのが現状だ。
GABAのこうした施策は功を奏した。Yahoo! JAPANの検索システムが米グーグルのものに完全に切り替わった12月1日以降、Yahoo! JAPANにおける「英会話」のGABAのサイトの検索順位はGoogle同様に最高4位から、最低19位まで落ちた。しかしこれを、地域名を中心に約100のキーワードからの訪問で補完し、検索連動型広告にも力を入れた結果、Yahoo! JAPAN経由の流入数は、11月が前年比18%増、12月が同14%増と大きく伸びている。
リカバリーに成功したとはいえ、実のところ今回は緊急対応的な手直しにとどまっている。奥氏は「今後、サイト内部の構成の全面的な見直しに取り組んでいく予定」と語る。英会話スクール市場は、ファーストリテイリングやユニクロや楽天が公用語を英語にするなど、法人需要が伸びている。市場環境の変化を反映させつつ、見込み客獲得のツールとしてのサイトを進化させていく。
タビオ
リアル店舗の常識捨てた“陳列”で売り上げ2倍
GABAは一部の刷新により成果を上げたが、サイトの全面刷新に合わせてSEOを実施するとより高い効果を得られる。サイトの設計時点からSEOの視点を取り入れれば、多くのページが検索結果の上位に表示されやすくなる。これから、そんな全面刷新に取り組んだ2社の事例を紹介していく。まずは、リアル店舗の常識を捨てたサイト設計で、アクセス数、売り上げを2倍に向上させたタビオだ。
国産の靴下にこだわり、「靴下屋」を中心に全国に約270店舗を展開するタビオは、「靴下」と検索すれば必ず1位に表示される強いブランド力を持つ。しかし、そうした現状に甘んじることなく、その基盤をより強固なものにしようとしている。
同社のリアルとネットの両方の店舗を合わせた2011年2月期の売り上げ予想は143億円。にもかかわらず、「年商100億円売れるグローバルサイトを目指す」(システムソリューション部・メディア部部長の真砂輝男執行役員)という高い目標を掲げて、2010年9月にEC(電子商取引サイト)を全面リニューアルした。
新しいサイトにアクセスするとまず気付くのがビジュアル面で工夫を凝らしたデザインだ。靴下の動画カタログをサイト上で配信するといった先進的な取り組みもしている。
しかし、こうした華やかな外見は、タビオの新サイトの一面にすぎない。ビジュアルにかけるのと同等以上の労力を同社はSEOにも注いだ。
カンヌ国際広告祭などを受賞した経験を持つ田中耕一郎氏などの著名クリエーターに加えて、大規模サイトのSEOを得意とするアユダンテ(東京都港区)、そしてタビオ社員などのメンバーで「チームタビオ」を2010年1月に結成し、同年9月のサイト刷新にこぎ着けた。彼らが戦略を練った結果生まれたのは、リアル店舗の常識を捨てたECサイトならではの“陳列”だった。
「メンズ」では検索しない
靴下屋に限らず、一般的なアパレル店舗では、「メンズ」「レディース」「キッズ」といった顧客属性別にコーナーを作り、そこに商品を陳列していく。タビオの従来のECサイトもそうしたリアル店舗の発想に基づいた構造だった。トップページから、「レディース→レディース靴下→レディース5本指靴下」と階層をたどりながら、商品を探していく流れだ。
しかし、リニューアル後は、「靴下→5本指靴下→レディース5本指靴下」と逆転させた。リアル店舗であれば最初に区分するメンズやレディースといった区分けは最後に行うようにした(図4)。なぜだろうか。

SEOを請け負ったアユダンテSEOコンサルタントの江沢真紀氏は、「Googleはテーマ性があり階層化されている構造を好むため」と指摘する。実際、ユーザーが靴下などを検索する場合、「メンズ」や「レディース」といった自分自身の属性を示すキーワードで検索することは少ない。「靴下」や「5本指靴下」などのアイテム名で検索する方が一般的だ。それならば、タビオは靴下のサイトであるというテーマを強調するためには、アイテム名を最上位に置いた階層構造にした方がいいわけだ。
しかし、この常識は店舗の陳列とは異なる。チームタビオの一員として参加したタビオ新規事業支援室の木村美絵シニアマネージャーは、「江沢さんとは、やり取りが平行線の時期もしばらくあった」と明かす。ただ、「自社サイトの検索動向や外部の検索ランキングを見ると、アイテムから入る方がユーザーの視点に近いと思った」(木村氏)と考えを切り替えてからは、ネットならではの顧客視点を追求することに決めた。
トップページの下には、「ソックス・靴下」「ストッキング」「スポーツソックス」「レギンス・スパッツ」「タイツ」といったアイテムの一覧ページを設けた。その下には、ソックス・靴下であれば「5本指靴下」「パーツソックス」「パンプス用ソックス」といった細かい分類が並ぶ。こうしたページの上部には販売するアイテムを紹介するテキストを入れて、検索エンジンに内容が理解されやすいようにした。
商品名無しでは検索されず
SEO視点のサイト刷新は、同社のリアル店舗のもう1つの“常識”を覆した。同社の店舗では、品番や値段の書かれたタグは付けていても、個別に「ロングファー風レッグウォーマー」などといった名称は商品1つひとつに付けてはいない。靴下を履いた足型を陳列しておけば一目瞭然で、顧客の関心を引き付けることができるためだ。
ところがネットではこうした手法には限界がある。確かにリニューアル後のサイトは、ビジュアル面に工夫を凝らしたが、サイトにアクセスするユーザーを増やすためには、商品名など文字情報で検索できるようにしないと、探しようがない。そこで、リニューアルを機に、SEO視点を意識しながら全商品に1つひとつ商品名を付けるようにした(図5)。

SEO以外にも、サイトへ集客したユーザーが確実に購入に結びつくようなユーザビリティ面などの改善も施した。例えば、商品写真は全てモデルが履いたものにして実際の着用をイメージをしやすくした。また、トップページに特集企画などの告知スペースを数多く設けて、サイト内の誘導を強化。さらには、商品への自信を基に、購入商品が満足いかない場合は返品無料のキャンペーンも実施した。
こうした施策の結果、リニューアルした9月13日から12月のアクセス数は、Googleの自然検索(検索連動型広告を除く)経由が前年比2.3倍、Yahoo! JAPANは約80%増と大幅に伸びた。
売れる商品の幅が広がる
これは売り上げにも大きく影響を及ぼしている。システムメンテナンスのためサイトを停止した11月中旬~12月初旬以外は、「前年比2倍以上の増加ペースで伸びている」(真砂執行役員)と言う。
特にSEOの成果で売れ筋が広がっている。従来は一度買えばリピート購入しやすいタイツと、置いていない店舗が多いスポーツ用品ばかり売れていたが、各アイテムのトップページが検索エンジンからユーザーを呼び込むランディングページとして機能するようになり、幅広い商品が売れるようになった。
真砂氏は、「SEOが本格的に効いてくるのは今春ごろ」と期待する。さらにこのSEOのノウハウは海外展開に強い武器となる。タビオが既に進出しているイギリス、今後展開するフランスではGoogleのシェアが8割前後を占める。Google対策は海外進出を検討する日本企業に広く求められるスキルとなるだろう。
佐野屋「地酒.com」
“来店”動機の分析が商品ページ改善のヒントに
「酒通の間で人気の日本酒を専門に扱っています」──。
Webサイト上でこう明言する「地酒.com」は、日本全国の地酒を扱うECサイトだ。その中にはほかでは入手しにくい珍しい地酒もあるだけに、顧客には日本酒の愛飲家が多く、リピート購入も多い。
しかし、「今後の成長を考えると、日本酒に詳しくない人や、法人でのギフト需要なども開拓していくことが必要。そのためには、SEOは重要だ」とサイトを運営する佐野屋(大阪府枚方市)店主の佐野吾郎氏は言う。
そこで、2010年10月にサイトをリニューアルした際には、ECサイトの検索エンジン対策を得意とするゴンウェブコンサルティング(東京都北区)に依頼して、SEO視点でのサイト構築に取り組んだ。
リニューアルに当たってまずは、サイトの来訪者がどのような検索キーワードでサイトにアクセスしているのかを分析した。すると、地酒の銘柄名で検索されることが多かったものの、「玉川 木下酒造」などと銘柄名と蔵元の名前の組み合わせで検索されることが多かった。また、「獺祭(だっさい)」のように読み方が難しい銘柄の場合は、ひらがなで検索されることも多かった。
こうした調査を踏まえた上で、新サイトではページの種類別にどのようなキーワードで検索されることを目指すのかを決めて、タイトルタグには該当するキーワードを埋め込んだ。例えば、個別の商品ページでは、その銘柄名は当然として、その読みがなや蔵元名を入れるようにした。
1ページ1商品を基本に
さらに、商品ページでは「1ページに1商品」という構成を基本とするようにした。以前のサイトの商品ページでは、商品によってはその商品と同じ銘柄のほかの商品リストも多数表示していた(図6)。さらに、蔵元の情報も商品ページ内で紹介しているものもあり、検索エンジンがページの特徴や内容を的確に判断しにくくなっていた。ユーザーの視点で見ても、多くの情報を詰め込みすぎて分かりにくいページになっていた。

旧サイトの商品ページでは、該当する商品のほか、同じ蔵元のほかの地酒など、関連商品を何種類もリスト表示していた(左)。リニューアルに伴い、1商品1ページの構成を基本にすることで、雑多な情報を減らした。ページの内容を明確にしたことは、SEOにも好影響を及ぼした(右)
そこで、まず関連商品のリストについては数を減らすように改めた。また、蔵元に関しては蔵元を紹介するページを商品ページとは別に作るようにした。こうして情報の整理が進み、ページごとにコンテンツのメリハリが明確になった。
こうして構築した新しいサイトでは自然検索による来訪者や購入者を増加させることができた。2010年12月の数値を前年同月と比べると、Google経由のセッション数は34.2%増加し、Yahoo! JAPAN経由では45.0%増えた。この増加は購入にも結びつき、購入件数ではGoogle経由で18.5%増、Yahoo!経由は30.6%増と大きく伸ばすことができた。
SEO対策と同時に、佐野氏のライフワークにもなっているのが、蔵元紹介ブログだ。約1200あるという国内の全蔵元を紹介することを目標に置く。 2010年4月に始めて現在は109件まできた。紹介数を増やせば、ブログが検索結果に表示される機会が増えると同時に、愛飲家に楽しんでもらえる。「コンテンツの充実で“強い”サイトを作りたい」と佐野氏は語る。