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茨城県は、Twitterアカウント「うまいもんどころ茨城」の運営を2010年5月に始めた。ポータルサイトやブログ、メルマガと連動させながら野菜や果物など県産品の魅力を伝えるのが狙い。フォロワー数は大手有力企業にも匹敵する7万9000人に達した。

 かぼちゃ、ピーマン、メロン……。これらに共通するのは、都道府県別生産量で茨城県がトップ3に入る農産物だ。ところが、そうした“実力”は広く知られておらず、「○○の産地と言えば茨城県」と誰もが思うようなブランド構築ができていない。

 そこで同県の農林水産部園芸流通課うまいもんどころ推進室は2010年、ミニブログ「Twitter」やブログを活用した情報発信、コミュニケーションに取り組み始めた。同室のTwitterアカウント「うまいもんどころ茨城」のフォロワー数は7万9000人に達し、茨城県の“うまいもん”ファンの育成、拡大に成果が生まれ始めている。

サイト更新だけでは不十分

 茨城県の農産物をネットを通じてアピールする取り組みは2002年に始まっている。「うまいもんどころ いばらき食と農のポータルサイト」を開設し、県外も含めた各地で開催する農産物紹介イベントなどと併せて、茨城県の農産物の魅力を伝える啓もう活動に努めてきた。ただ、十分な訴求ができているとはいえなかった。

 うまいもんどころ推進室主任の中島君江氏は、「単にポータルサイトのコンテンツを更新するだけでは、アクセス増にはつながらなかった」と振り返る。そこで2010年5月、サイトへの集客のためにメルマガの配信と同時に、Twitterアカウントを開設した。

 Twitterのフォロワー数は開設当初から順調に増えていった。7月7日時点では2万9265人に達し、自治体や企業が参加する団体「JOIN(移住・交流推進機構)」が実施した「自治体のTwitterアカウントの開設状況に関する調査」で、最もフォロワー数が多いアカウントと認定された。

 Twitterアカウントの運営企業にとって、フォロワー数は気になる指標の1つだ。数を増やすことが本来の目的ではないとはいえ、自社サイトへの誘導やユーザーとの対話などでTwitterを活用するには、フォロワーの数は多い方が望ましいのは間違いない。

 うまいもんどころ茨城のフォロワー数の7万9000人を一般企業と比べるとその価値が明確になる。モスバーガー(18万人)やユニクロ(15万3000人)といったトップクラスには及ばないが、ソーシャルメディアの活用に積極的と評価の高いローソン(@akiko_lawson、7万4000人)とほぼ同程度の規模となる。地方自治体内で比較すると後続グループは鳥取県米子市(7600人)や北海道陸別町(5300人)となり、文字通り「けた違い」のフォロワー数を誇っている。

 うまいもんどころ茨城のTwitterはなぜ、これほど多くのフォロワー数を獲得できたのだろうか。Twitterを担当するのは中島氏ほぼ1人。特別に変わったことをしているわけではないが、ユーザーときめ細かに対話を繰り返していることが特徴といえるだろう。

 サイトの最新情報など一方的な告知もあるが、投稿の過半は投稿内に相手のユーザー名が入った対話的なやり取りとなっている。

 中島氏が所属する園芸流通課のカバー範囲である野菜や果物などの農産物に関する質問に答えるだけでなく、専門外である「常陸牛」や「奥久慈しゃも」といった県産の肉類のほか、霞ヶ浦や太平洋岸で取れる魚介類などの質問があった場合でも、他部署へ問い合わせて返事をしている。さらに、茨城県の農産物に関する投稿をTwitter上で見つけたときには、RT(リツイート)機能を使ってフォロワーに広く紹介するほどだ。

公式サイトをブログで補完

 ポータルサイトも昨年8月にリニューアルした。刷新後のサイトでは、その時々に応じて旬な食材を紹介する特集コーナーを設けて、タイムリーな情報更新を可能にした。また、県の農産物が当たるプレゼントキャンペーンを定期的に実施して、サイトの集客増や県の農産物への理解を深めることを狙った()。

図 ポータルサイトを中核に様々な接点を作り、情報発信力を強化した
ポータルサイトの他、ブログ、メルマガと連動させながら野菜や果物など県産品の魅力を伝える

 また、ポータルサイトで紹介した県の農産物を購入できる直売所や、県の食材を使った料理を食べられる飲食店の情報を検索できるようにも改め、サイトの使い勝手を向上させた。

 週単位、月単位での情報発信はポータルサイトでも可能だが、よりタイムリーな情報発信にはブログの方が向いている。そこでポータルサイトの刷新と合わせて、サイバーエージェントのブログサービス「Ameba」上でブログ「うまいもん漫遊記」をスタートした。県産の食材を使う飲食店などに取材して写真と共に紹介するレポート記事などが中心だ。

 ブログは簡単に記事作成や更新ができるだけでなく、絵文字も交えて公式サイトより“くだけた”文体で記事を書けるので、県産品への親近感を訴求することにもつながっている。ブログでもTwitter同様に、読者から寄せられたコメントには返信するようにしている。

 情報発信や交流の手法を多様化したこともあって、ポータルサイトのPV(ページビュー)は増加する傾向にある。2010年12月のPVは7万9000にまで増えた。ブログやメルマガの利用者数も増えている。紹介した直売所や飲食店などでは、「ブログを見て来た」と言う利用者も訪れるようになったという。プレゼントでは毎回1000人以上の応募があり、ネットユーザーの関心を高めるのにも貢献している。

 茨城県の取り組みは、ネット上で複数のメディアやツールを活用して導線をつくり、ユーザーとの対話を深めている点で注目に値する。Twitterに限らず、メルマガやブログといった定石ともいえる手法を積み重ねることで成果につなげるやり方は、企業のマーケティングにも応用が利きそうだ。

◆茨城県の農水産物の“知られざる魅力”をネットで伝えたかった
茨城県の農水産物の“知られざる魅力”をネットで伝えたかった

■都道府県名:茨城県 ■県庁所在地:水戸市 ■知事:橋本昌氏 ■職員数:3万4767人(2010年4月) ■事業内容:園芸流通課は野菜や果樹などの生産振興や安全対策などを担当する。うまいもんどころ推進室は、農産物販売イベントへの出展支援なども行う ■URL:http://www.pref.ibaraki.jp/

中島 君江 氏

中島 君江 氏
農林水産部園芸流通課
うまいもんどころ推進室 主任

「一般消費者の視点で情報発信をするよう心掛けている」という。