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販売管理や給与計算のソフトウエアを開発・販売する弥生は、上位製品「ネットワークシリーズ」の売上高の増加を目指し、一定時間滞在したサイト訪問者にチャットでの問い合わせを促した。その結果、問い合わせ件数を月間約200件増加させた。
会計ソフトの弥生は、看板商品の「弥生会計」などで売上を伸ばしてきたが、量販店での市場シェアは2009年まで減少傾向にあった。こうした状況を打開すべく、製品の機能強化や拡販に力を注ぐ一方で、その上位製品である「弥生ネットワークシリーズ」の効率的な販売にも注力してきた。
ネットワークシリーズは、顧客企業のサーバーにソフトをインストールして、社内にある複数台のパソコンで利用するタイプの商品。その価格はパッケージ製品の約4倍に当たる25万2000円からと高額なため、弥生の業績に対するインパクトも大きいが、高価なためそう簡単には買ってもらえない。
見込み客から資料請求をしてもらい、営業担当者の訪問といった過程を経る際に効率的なのが、自社サイトを舞台とするネットを使ったマーケティングだ。その担当者、マーケティング本部営業推進部営業企画課課長の青木宏之氏はかねて悩みを抱えていた。
「ウチのWebサイトに来てくれても、そのままサイトから離脱してしまう人が多い。月間約8000件という訪問件数から考えても、もう少し問い合わせはあってもいいはず。なのにそうなっていない」
課題は見込み客の取りこぼし
電話での問い合わせに心理的なハードルを持つ人も、Web を通じた質問ならハードルは低いはず。ところがこれまで弥生のWebサイトで製品の問い合わせをするには、メールアドレスや企業名などの個人情報を入力して会員登録を事前にしなければならないようになっていた。せっかくサイトに来てくれても、問い合わせにつながらず離脱してしまう人が多かったのだ。
会計ソフトという製品の性質上、ネット上をあれこれ徘徊している最中に、たまたま弥生のサイトを訪れるようなケースは少なかろう。「サイトの訪問者」というだけで、会計ソフトの購入を検討している見込み客である可能性が高いと考えられる。この見込み客が検討に入った早い段階で、他社製品との違いをきちんと打ち出せれば、他社製品より優位に立てる。
「1人でも多くの問い合わせにつなげたい」
青木氏が目を付けたのがチャットだった。弥生が導入したチャットツール、アメニティコーポレーションの「Live 800」は初期費用がかからず、月額利用料が1万5000円からと安いことや、訪問者ごとに訪問回数やチャットの履歴などを記録できる。青木氏が所属するマーケティング本部と営業部門の連携にも役立つと導入を決めた。
チャットの情報を営業と共有化
弥生ネットワークシリーズのWebサイトを訪れてから30秒が経過すると、チャットでの問い合わせを促す画像が表示される仕組みだ(図)。サイトへの訪問者に対し、チャットへの誘導画像をすぐ表示したり、表示までの時間を比較的長くしたりするなどのテストをした結果、30秒が最も問い合わせにつながりやすいとの結論に達した。
訪問者がチャット誘導画像をクリックすると、そこからチャットが始まる。もちろん、訪問者は個人情報を入力しなくても疑問点などを質問できる。
より製品への関心が強いと推測される訪問者に対しては、弥生サイドで手動によってアプローチする手法にも取り組んでいる。例えば過去にサイトへの訪問回数が10回を超えるのに問い合わせをしたことのない人がサイトに訪れた場合には、30秒より短いタイミングでチャットへの誘導画像を表示する。
チャットに対応するのは、同シリーズの保守などを担当する専門家の面々だ。交代で“チャット専従”として任に当たることで、ネットワークシリーズの動作環境や、現在利用しているシステムとの親和性など、専門的な質問にきちんと答えることができる体制を整えた。
チャットの平均時間は約10分。同じ時間の電話での問い合わせと比べても同等以上という中身の濃い対応ができているという。
問い合わせ内容に応じて営業の派遣を勧めたり、パッケージ商品で事足りる場合には弥生のEC(電子商取引)サイトにある商品ページに誘導したりする。
チャット経由の問い合わせ件数は月間で約200件で、ネットワークシリーズへの全問い合わせの1割と多くはないが、「問い合わせ方法が、電話やメールだけでは取りこぼしていた訪問者からの問い合わせにつながっている」ことを青木氏は実感している。
チャットによる問い合わせから営業担当者の訪問へとつながる確率は、メールでの問い合わせに比べて約2倍の2割と高い結果をもたらしている。さらにチャットの履歴があるため、見込み顧客の社内のシステム環境や、ネットワークシリーズのどこに関心を持っているのか、といった情報を営業担当者が事前に熟知できるため、「具体的な商談につながる確率が高く、売り上げにも貢献している」(青木氏)。
年末年始は、税金の年末調整や確定申告など繁忙期に当たり、電話での問い合わせが急増するためチャットの対応は一時停止中だが、これから社内体制を整備した上でパッケージ商品へのチャット導入も検討していく。

■社名:弥生 ■本社:東京都千代田区 ■社長:岡本浩一郎氏 ■社員数:438人 ■事業内容:販売管理、給与計算、顧客管理などのパソコン向けソフトの開発・販売、自社の顧客サポートなど ■URL:http://www.yayoi-kk.co.jp/

青木 宏之 氏
マーケティング本部 営業推進部
営業企画課 課長
今後は、「チャットを受ける体制を整備しながらほかの製品にも広げたい」と語る。