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賃貸物件情報誌「週刊CHINTAI」や物件検索サイト「CHINTAIネット」を手がけるCHINTAIは昨年末、ユーザーの希望条件と似た街・部屋を提案する新機能を導入した。大規模な街のイメージ調査を実施し、同じようなライフスタイルが可能、かつ家賃相場の安い街を提示。問い合わせ件数は導入後に20%以上増え、出足は好調だ。

 東京・渋谷駅から東急田園都市線でわずか4分の三軒茶屋は、「住みたい街ランキング」で必ず上位に顔を出す人気の街。それだけに賃貸物件の家賃相場は総じて高めだ。物件検索サイトで「家賃12万円以内、専有面積60平米以上」などという条件を入力しようものなら、「指定した条件の物件は見つかりませんでした」とツレない答えが返ってくる。

 該当物件がゼロ、あるいは駅から遠いなど悪条件の物件が1~2件表示されたユーザーは、そこで離脱しがちだ。「CHINTAIネット」を運営するCHINTAIは昨年12月、この離脱を防ぐ切り札として新機能「ヘヤ×マチコネクター」などを導入し、早々に物件問い合わせ件数を増やす成果を挙げている。

家賃が割安な似た街を提案

 ユーザーの検索条件に該当する物件がない、もしくは数件の場合、今までも各検索サイトは離脱を防ぐ手立てを施してきた。例えば、「家賃の上限を13万円に上げると、8件のお部屋から探せます」という具合に、条件を緩めれば候補が増えることを告知し、ワンクリックで条件変更できる機能は、今では多くの物件検索サイトが採用している。それでも希望の条件と実際の家賃相場に乖離(かいり)がある場合は、最終的なマッチングは難しく、離脱は避けられない。

 この壁を乗り越えるためにCHINTAIが導入したのがヘヤ×マチコネクターだ。検索結果である物件一覧ページの下の方に、「似たマチから探し直す」というメニューを設置。そこに検索条件に似た街の駅名を表示した。

 ちなみに三軒茶屋の場合、柏(千葉県)、船橋(千葉県)、武蔵溝ノ口(神奈川県)などの駅名が並ぶ。意外な感覚があるが、同社メディア事業部メディアプロデュース部門リーダーの齋藤敦氏は、「約5000人を対象に街のイメージ調査を実施し、集まった数万件のデータからイメージの重なりが大きい街をピックアップしたので精度は高い」と自信を見せる。膨大なデータを分析して似た街を抽出する作業は、レコメンドエンジン事業者のALBERT(東京都渋谷区)に委託した。

 アンケートの結果、三軒茶屋は「商店街がある」「外食チェーンが多い」「おいしい店が多い」といった項目で高い得点が付いた。この得点分布に限りなく近い街が、柏や船橋をはじめとする似た街候補群というわけだ。似た街の候補には、元の検索条件の街の家賃相場とほぼ同等か安いエリアだけを載せ、似ているが家賃相場が高い街は排除して表示している。

 メディアプロデュース部門インターネットグループの松村俊朗氏は、「部屋を探す人は全ての街の環境を把握してから検索しているわけではない。同じようなライフスタイルをもっと家賃が安いほかのエリアでも実現できることが分かれば、成約の可能性が高まる」と新機能の意義を語る。

 ただ、柏が三軒茶屋に似ているとしてもエリアが違いすぎるため、この提案をすんなり受け入れ難い人も多い。その点について齋藤氏は、「元の検索条件に近い駅は優先度を高めるなど、改善していく」と言う。

次世代型マッチングで生き残り

 ヘヤ×マチコネクター以外にも、今回2点をリニューアルした。

 1つは再来訪対策。引っ越し検討中のユーザーは、1回の検索で部屋を決めることはまれで、何度も検索サイトに訪れて様々な条件を入力し、候補物件を比較検討する。そのため2回目以降の再来訪者にはトップページ左上にパーソナライズドエリアを設け、前回の検索・閲覧内容に合った物件5件を「あなたへのオススメ物件」として表示()。「前回の条件で探す」ボタンも配置し、すぐに“前回の続き”に取りかかれる環境を整えた。

図 居住希望条件に似た街・部屋を提案して問い合わせ件数を増やしたCHINTAI

 オススメ5件の下には「これに似た物件を探す」ボタンが付いており、これを押すと、オススメ物件とエリアも家賃も近い他の物件を表示するほか、似た街の似た部屋まで同じ画面内で提示する。

 もう1つは、土地勘がないユーザー向けのサービス「住むマチカウンセリング」の機能強化。例えば関西圏から初めて東京で暮らすことになった場合、「会社から1時間以内で通えればOK」といった大雑把な考えだと物件を絞り込めない。そこで家族構成、通勤先、趣味などの条件からその人にピッタリ合った街を提案する。

 今回は提案された街を選んだ後、「家賃の安さ」「部屋の広さ」「駅からの近さ」「建物の新しさ」をどのくらい重視するか、スライドバーで設定してもらい、より条件に近い物件を提示する機能を追加した。

 これら新機能を昨年末に盛り込んだ結果、物件の問い合わせ数は刷新前と比べて20~30%増えたという。

 賃貸住宅を取り巻く市況は、引っ越しサイクルの短い若年層の減少や、所得の伸び悩みによる住み替えの先送りなど、先行きには不透明感が漂う。さらに、リクルートの「SUUMO」をはじめ、「HOME'S」「at home」「アパマン」「ピタットハウス」、検索エンジンの不動産ポータルなど物件検索サイトが乱立する中で生き残っていくためには、ユーザーと物件のマッチング精度を磨いて成約率を高め、地場の不動産事業者からの広告出稿を獲得し続ける必要がある。

 ユーザーの希望を事細かに尋ねてそれに見合う物件に絞り込むほど、該当物件はどんどん狭まり、物件探しは袋小路に入る。ユーザーがこれまで考えてもみなかった街や部屋に巡り合うチャンスをつくるCHINTAIの取り組みは、物件検索の新しいスタイルになりそうだ。

◆希望に合う物件がなく離脱するユーザーをつなぎ止めたかった
希望に合う物件がなく離脱するユーザーをつなぎ止めたかった

■社名:CHINTAI ■本社:東京都港区 ■社長:手塚清二氏 ■従業員数:108人(2010年10月時点) ■事業内容:賃貸住宅情報誌「CHINTAI」、Webサイト「CHINTAIネット」、ケータイサイト「CHINTAIモバイル」による賃貸物件の空室情報提供サービス ■URL:http://www.chintai.net/ 企業サイト http://www.chintai.jp/

齋藤 敦 氏

齋藤 敦 氏
メディア事業部
メディアプロデュース部門リーダー

「将来的には閲覧履歴などから嗜好に合う物件の一発表示も可能になる」と語る。


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