まだ夜も明けぬ午前4時の京セラドーム大阪。その場には似つかわしくない“ギャル”たちが暗がりの下、列を作り出した……。
彼女たちが待っているのは、女性だけのフリーマーケット「ギャルマ」の開始だ。ミツバチワークスが運営するケータイ向けのブログサービス「デコログ」の利用者らが集うギャルマには、2010年5月に開催した第1回は大阪だけで3000人が集まった。
10月には第2回が開催され、東京、大阪、福岡の3カ所の会場で合計1万2000人以上が来場した。この2回目の大阪会場ではオープンを待つ列が、京セラドーム1周半にまで及ぶ大盛況となった。
従来のフリーマーケットは性別、年齢、ライフスタイルも全く異なる人たちが集まるものだ。参加者が興味のある商品が出品されるかどうかも分からなければ、誰が提供した商品かも分からない。だから消費意欲もさほど高まらない。
ギャルマの参加者は同世代の女性ということだけでなく、デコログを通じて間接的な顔見知りでもある。好きな商品の嗜好が似ており、しかもある程度の信頼関係も既に構築されている。それらが、これまでフリーマーケットに参加したことのない若年層の女性の参加を後押しすることになっている。
ブログ、そしてFacebookなどソーシャルメディアの浸透は、共通の趣味・興味・関心を持つ消費者を自然と分類していく。同じカテゴリーに分類された消費者たちは、絆に似たような信頼で関係づけられる。その人たちが集まったフリーマーケットが活況を呈するのはむしろ自然だ。これが「Facebook時代の新たな消費スタイル」である。
約9割が女性のブログサイト
“共通インフラ”となったデコログの魅力とはいったい何なのか。具体的に、ギャルマの実態に迫っていこう。
2007年2月に運営が始まったデコログは、ケータイでブログの作成や更新ができるサービスだ。ブログ開設数は200万を超え、月間ページビュー(PV)は60億以上でユーザーの88%は女性、しかも16~21歳が82%を占める(図1)。

2007年に運営を開始した「デコログ」は、女性を中心にクチコミで利用が広がり、2010年10月には月間PVが60億に達した。ユーザーの約9割を女性が占める、女性のためのブログサイトになっている
女性ユーザーがデコログを継続的に使いたくなるためのキーワードは「安心」である。女性が安心して使えるサービス作りの徹底が同社の運営方針だ。
まず機能面。デコログが持つ、ケータイの「デコメール」で文面を作って送信するだけで、そっくりそのままブログとして更新できる機能は「かわいいブログが簡単に作れる」と利用者から好評だ。
また、デコログの運営開始から約1年後にキーワード検索機能を撤廃した。同社の光山一樹社長によれば、「検索キーワードを分析していると、あからさまに出会いを目的とした(男性による)キーワード検索が増えてきた」のが撤廃の理由だ。
掲載する広告にも気を使う。デコログはアダルト系や出会い系などの広告は一切掲載しない。こうしてできあがった女性だけの楽園は、ある現象を生み出した。
初出店で5万円の売り上げ
ユーザー間でブログを介した「服の売買」が始まったのだ。ここに目を付けた光山社長は、「そのやり取りはコミュニケーションとしては面白いが、実際にはユーザー間で服の発送などの作業が発生するため、彼女たちにとって面倒だと思った」。そこで、売買のやり取りを仲介する場として作ったのが、女性だけのフリーマーケットであるギャルマだ。
ギャルマの参加料金は入場料が300円で、2人なら500円。フリーマーケットへの出店料は1500円だ。ミツバチワークスは出店する旨を連絡してくれたユーザーのブログを、デコログのトップページで紹介するなどして企画を盛り上げた。
出店を決めたユーザーの中には、自分のブログでどんな商品を出すかを記事にする人も多かった。デコログのトップページに張られたブログへのリンクをたどって、その記事を訪れたほかのユーザーがコメントを残す。そのコメントに、ブログの主が返信する。そんなサイクルによって、ユーザー間の絆はより深まっていった。
普段からやり取りしていたあの子に会える。いつも読んでいるブログの筆者と話ができる。ギャルマの告知はデコログ内での広告掲載だけだったにもかかわらず、人と人とのつながりが呼び水となって入場チケットは完売。第1回から300の出店者が集まり、3000人が来場した(図2)。

デコログのユーザー向けフリーマーケットを開催。5月に実施した第1回には3000人、東京、大阪、福岡の3カ所で実施した第2回には1万2000人以上が訪れた。出店者がここで商品を販売して得た収益は、新しい洋服の購入資金になる
「出店の売り上げは5万円ぐらいになりました。大阪の友達では10万円以上売り上げた子もいますよ」。フリーマーケット初参加となった池田沙代さんは、その戦果に声を弾ませていた。
企業マーケティングの場に
ギャルマは、企業にとってのマーケティングの場にもなっている。第2回ギャルマには、渋谷で化粧品などを販売するショップ「SBY」を運営するオゾンネットワークや、アパレルのネット通販事業の夢展望、美容品メーカーの響が製造・販売するボディローション「ラプッチ」など10社が販売ブースを設けた。
「店舗や自社のEC(電子商取引)サイトなどでは、ブランド力の低下を恐れ踏み切れない安売りも、フリーマーケットならと、袋詰めを1000円で販売した企業もありました」とは光山社長。メールマガジンの会員に登録してくれれば、さらに割引するといった手法で会員獲得につなげていったという。
光山社長は、既に第3回を計画している。次回は、東京、名古屋、大阪、福岡の4カ所で2万人の動員を見込む。若い女性をターゲットにしたイベントでは、「東京ガールズコレクション」(TGC)が有名だ。2010年のTGCの来場者数は3万200人。「ギャルマは、いずれ来場者数でTGCを超える」と光山社長は意気込みを見せた。
ギャルマは、知り合い方などはネットを通じてだが、商品の売買はリアルのイベントで行われる。すべての売買をネットで完結するフリーマーケットは、なかなか普及しなかった歴史がある。
閉鎖となった「シェアモ」
例えば、ネットビジネスを企画・開発するエニグモは、消費者間で様々な製品を分け合うサービス「シェアモ」を提供してきたし、ヤフーは物々交換サイト「Yahoo!なんでも交換」を展開してきた。しかし、Yahoo!なんでも交換は昨年7月に閉鎖。シェアモは今年1月31日にサービスを終了する。
シェアモはサービス開始当初にテレビなどメディアで大きく取り上げられ一躍注目を浴びた。エニグモの広報・宣伝室の桐山雄一氏は「当社のサービスの中でもシェアモは最も認知度の高いサービスだったのに…」と悔やむ。
シェアモの問題は、サービス利用時に自身のプロフィールを入力する必要があったこと。さらには、基本的に取引成立後でしか商品を譲る相手が分からず、使い始めは心理的ハードルも高いことなどもあって、会員数はサービス開始から2年で5万人と伸び悩んだ。
ところが、Facebookをはじめとするソーシャルグラフが利用者間の信頼の担保になりつつある今、状況はガラリ変わった。
昨年末、1つのサービスが始まった。フリーマーケットのWebサイト「Livlis(リブリス)」だ(図3)。ある商品を手放したい人と欲しがる人を仲介する。開始から約1カ月だが既に1万件以上の商品が会員から寄せられるなど盛況だ。Twitter上のフォロー関係が互いの信頼のベースとなる。

Twitterアカウントを流用するため、利用者は会員登録時にわざわざプロフィールを入力する必要がない。出品者、落札者は共に、相手のTwitterページを訪れれば、これまでのツイートを見ることができ“生の人柄”が分かる。
例えば、不要になった子供服を誰かにあげたいと思った時。オークションサイトに出品したら、誰が落札するか分からない。リブリスなら、欲しいと手を挙げた人が複数人いたとして、ある人のツイート内容から家事育児に忙しい様子がうかがえれば、その人に使ってもらいたいと思うのが人情だ。Twitterのフォロワー限定で出品することもできる。
「モノの『利用』が進めば消費につながる」
リブリスを運営するkamadoの川崎裕一社長はそう指摘する。世の中には、ある人にとっては単なる「所有」にとどまっているモノがたくさんある。それを「利用」したい人に渡すことで、新たな消費が生まれるというのだ。今まで見向きもしなかったものでも、一度使い慣れてしまえば、それが壊れた時には、今度は自分で買いたくなるからだ。ソーシャルメディアの台頭が、その動きを加速させている。