2016年12月初旬、ケンタッキーフライドチキン(KFC)がテレビCMで使用している米ケンタッキー州州歌「ケンタッキーの我が家(My Old Kentucky Home)」がテレビから流れてきて、「今年ももうすぐクリスマスだな」と、ふと画面に目を向けると、なんとドミノ・ピザのCMだった。
CMは、サンタクロースがドミノ・ピザ店頭に現れ、お持ち帰り限定で1枚買うともう1枚無料になる「BUY 1 GET 1 FREE!」(BOGO)に喜びながら、ピザを持ち帰る様子を描いたもの。ところが、クリスマスパーティーでBOGOを利用してもらおうと、クリスマスイブ当日にもこのCMを放映したところ、BOGOを利用する客が急増。一部の店舗で、「想定を大幅に上回るご注文をいただき、多くのお客様に配達遅延や店頭受け渡し遅延でご迷惑をお掛けいたしました」(同社SNSのお詫び文より)という事態を招いた。

CMに登場するサンタは、見ようによっては、KFCの創業者でキャラクターにもなっているカーネルサンダースがサンタに扮した「カーネルサンタ」のようにも見える。唐突にKFCのCM定番曲を使うあたり、クリスマスにチキン特需で盛り上がるKFCへの対抗心がうかがえる。そしてKFCグループの宅配ピザチェーン「ピザハット」への“果たし状”の意味もあっただろう。ちなみにピザハットにもBOGOと類似のお持ち帰り客向け割引サービスがあるが、実施しているのは一部店舗に限られる。
ドミノ・ピザでは2011年の暮れからBOGOを期間限定で導入し、好感触を得たことから、お持ち帰り限定の常設サービスとして全店舗で実施している。あらかじめネットで予約し、指定時間に取りに来るテイクアウト客の割合が増えれば、配送にかかる負荷が減り、注文を受けてからの慌ただしさも緩和される。1枚無料にしてでもテイクアウト率を高める方が、オペレーションの効率化につながるとの考えから、BOGOの認知拡大のためにCMを打ってきたわけだ。
過去にも類似の混乱は生じていた
だが「無料」の告知は、ときに効き過ぎを招く。例えば、ソフトバンクは利用者向けキャンペーンとして、2016年10月は吉野家の牛丼並盛、11月はサーティワンアイスクリームのレギュラーシングルコーン、12月はミスタードーナツのドーナツ2個がタダでもらえる「SUPER FRIDAY」キャンペーンを実施した。ところが、実施日の金曜日は店舗前に長い行列ができ、それを見て引き返す客が多数現れる事態になった。
2012年9月にはミスタードーナツが半額セールを実施し、早々に品切れを起こして閉店時間を繰り上げたり一時的に閉店したりする店舗が続出した。古くは2009年6月、銀座に店舗を構えるフランスの宝飾ブランド「モーブッサン」が、来店客に0.1カラットのダイヤモンド(5000円相当)を無料配布するキャンペーンを実施。行列が数千人に達し、混乱をきたした。
テレビ離れが喧伝され、CM効果にも厳しい目が向けられる昨今だが、CMで知ったおトク情報は記事化されて、テレビを見ない人にも伝わっている。今回のドミノ・ピザの件も、BOGOのサービスを集英社の女性誌「MORE」の公式ブロガーが同誌サイトの情報コーナー「モアハピ部」で紹介し、それがオリコンのトレンド情報サイト「ORICON STYLE」やLINEの女性向けニュースサイト「Peachy」に転載されたことで、拡散していったと思われる。2015年にも、サントリーの「レモンジーナ」「ヨーグリーナ&南アルプスの天然水」や、ハーゲンダッツの期間限定商品「華もち『きなこ黒みつ』『みたらし胡桃』」などが、ネットでの評判が拡散して瞬く間に品薄になったことがあった。
ドミノ・ピザは、こうした過去の“教訓”を生かせなかったようだ。同社は今後、注文過多になりそうな場合に注文の受け付けを制御する機能など、システムの改善を検討する必要に迫られるだろう。ともあれ今回の件は、情報流通の経路とスピードが大きく変わっていることから、需要予測が相当に難しいことを改めて思い知らされる“事件”だったと言える。