過保護行政が過ぎるのか、それとも事業者側の横暴なのか──。議論が割れた際、世間が受け止めるイメージや好感度は軽視できない。その点で、「ネット広告」は残念ながら嫌われてしまっている存在だ。だから行政から過度な規制が入ろうとしても、「やり過ぎだ」との声が上がりにくい。

写真プリントサービス「デジプリ」のリターゲティング広告
写真プリントサービス「デジプリ」のリターゲティング広告

 例えばリターゲティング広告。記者は年賀状の準備で10年来、写真プリントサービス「デジプリ」を利用していて、つい先日も2016年の写真入り年賀状を180枚、額にして1万7000円ほどの注文をした。ところが、その直後から連日、ニュースポータルやFacebook上で同社の「12月○日までの注文で25%オフ」というリターゲティング広告が表示された。

 比較検討した末、買わなかった店舗からリターゲティング広告がくるのは致し方ないとしても、1万円超の買い物をしたところから同じ商品の購入を促す広告がくるのは購入者の気分を害する。また、購入済みで購入可能性がゼロになった人に広告を配信することは“ムダ打ち”にほかならない。リターゲティング広告ではコンバージョン済みの人を配信対象から外す必要がある。

 『Facebookをビジネスに使う本』などの著作で知られるソーシャルメディア研究所(福島市)代表の熊坂仁美氏は、Instagramで極度に太った女性が写った広告が表示されたことを報告している。味の素のダイエット補助食品を扱ったものだった。仮にダイエット情報サイトなどでクリック率が高かったクリエイティブだったとしても、Instagramにはそぐわないものがある。

昨今の「広告」にまつわるトラブル
昨今の「広告」にまつわるトラブル

 こうしたケースは増えているようだ。Twitterで「インスタ 広告」と検索すると、Instagram広告に対する不満のツイートが散見される。自分のセンスに合わせて美しい、カワイイ写真が表示されるように構成したタイムライン上に、ダイレクトマーケティング系の商材広告が土足で踏み込んでいけば、「インスタ疲れ」を飛び越えて「インスタ離れ」が起きかねない。

 消費者契約法については、一部にはびこる悪質事業者のせいで多数の善良なEC事業者が迷惑している構図かもしれない。だが、ネット広告を嫌われ者にしたのは多くの普通の事業者の責任だ。

 今回の法改正で規制強化は免れたとしても、ECの成長とともにトラブルも増え続け、やがて何らかの規制が入ってくることは避けられそうにない。理不尽な法制が敷かれないように、関連業界はもっと連絡を取り合って声を上げた方がいい。

事業者はまとまって声を上げよう

 そして消費者団体vs事業者側という不毛な対立を超えて、消費者センターなどに寄せられる相談はEC事業者団体と共有し、改善できうるものはすぐ改善する。そうした方が、消費者保護になり、ひいては消費者からの支持につながって事業者の利益にもなる。

 国民生活センターも日本通信販売協会も、表のようにEC利用時のチェックポイントや怪しいECサイトの見分け方など、似たような啓蒙活動を行っている。ならば双方の団体が共同で開催してみてはどうか。

 今年9月、酒類業中央団体連絡協議会が、テレビCMで「ゴクゴク」「ぐびぐび」といった効果音の使用や、のど元のアップ映像を取りやめ、CM出演者も25歳に引き上げる方針を明らかにしたことが話題になった。テレビから聞こえる効果音がアルコー ル依存症患者には苦痛になる、といった声に配慮したものだ。このほかアルハラの啓蒙など、売り上げ増にならないにも関わらず自制する取り組みは、自助努力、自浄作用がある業界として世間の支持を集めやすい。

 ネット業界も一方的に規制の反対を訴えるのではなく、業界で自主基準を課し、自助努力に取り組んでいる姿を消費者にアピールすることが、事業者側の事情の理解と、ECの発展に寄与するはずだ。

ネットショップ利用時のチェックポイント(国民生活センター)
ネットショップ利用時のチェックポイント(国民生活センター)
怪しい通販サイトの見分け方(日本通信販売協会)
怪しい通販サイトの見分け方(日本通信販売協会)

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