広告やEC(電子商取引)に強い規制がかかる可能性が高まっている。同時に、消費者がネット事業者に持つ不満も露わになった。事業者が今何をすべきかを模索した。

 内閣府の消費者委員会が開催する、「消費者契約法」の改正を検討する専門調査会の議論が紛糾している。消費者保護がより必要だとする消費者団体側と、規制強化が営業活動の足かせとなることを懸念する事業者側との間で、多くの論点が平行線をたどったままだ。

規制の矛先はネット広告、EC

 施行から10年以上が経過した消費者契約法は、内閣総理大臣から消費者委に見直しが諮問され、2014年11月から月2回のペースで専門調査会を開催してきた。

2015年8月に出された消費者委員会 消費者契約法専門調査会の「中間取りまとめ」。A4で52ページに及ぶ
2015年8月に出された消費者委員会 消費者契約法専門調査会の「中間取りまとめ」。A4で52ページに及ぶ

 2015年8月に「中間取りまとめ」が示されたが、これに対し翌9月に公募した意見の総提出数は2450件に上った。中でもとりわけ件数が多かったのが、同法上の「勧誘」の概念を見直し、その中に「広告」を含める案を示した「勧誘要件のあり方」(682件)で、多くの業界から不満が噴出した。

 そもそも同法を見直すのは、「インターネットを使った消費者取引の拡大」と「高齢化の進行」に伴う、消費者トラブルの増加に対応するため。実情に沿って法の見直しを議論しているため、規制の矛先はずばりネット広告やEC(電子商取引)、すなわちデジタルマーケティングそのものに向かっている。

 消費者契約法がカバーするBtoC(消費者向け)ビジネスで、ネット広告、ECに無縁な企業は今やほとんどない。しかしながら、そこに規制が及びかねない議論が進行している割に、事業者側の関心はさほど高くなさそうだ。法律の文言は難解だが、何が問題視され、どのような議論になっているかを把握することは、本業の改善、見直しに役立つ面もある。法改正で議論になっている主だった論点を解説していこう。

 消費者契約法は、労働契約を除くすべてのBtoC契約、消費者契約に適用される基本法で、民法の特別法という位置づけだ。第一条で次のようにうたっている。

 事業者の「一定の行為」により消費者が誤認・困惑した場合、①その契約の申し込み、承諾の意思表示を取り消すことができる。②事業者が定める責任を免除する条項が消費者の利益を不当に害する場合は、それを無効とする。

 事業者と消費者の間には情報量や交渉力に格差があり、対等ではないという前提に立って、企業に規律を課してそのバランスを調整しようという考え方だ。

 一定の行為とは契約締結に向けた勧誘のことで、次の3つが不当勧誘に当たる。
①重要事項について事実と異なることを告げる(嘘をついて買わせる)
②将来の価額変動が不確実な事項に断定的判断を提供する(「絶対に将来値上がりしますよ」)
③消費者の不利益となる事実を故意に告げない(マンションの目の前に高いビルが建つことを知っていながら伝えない)
 他にも不退去や退去妨害があるが、訪問販売に関わる内容なのでここでは省く。

専門調査会でヤフーの古閑由佳委員が提示した勧誘と広告の説明図
専門調査会でヤフーの古閑由佳委員が提示した勧誘と広告の説明図

 では勧誘とは何を指すのか。同法では、例えば金融事業者が対面で金融商品の購入を勧めているような、特定の者に向けた勧誘を想定している。対面は絶対条件ではないが「消費者の契約締結の意思の形成に影響を与える程度の勧め方」をいう。従って、チラシやネット上の広告は含まれないという解釈だった。

 今回、ここが見直しのポイントとして上がっている。中間取りまとめでは、ネット技術の進化で不特定多数向けの広告も消費者の意思形成に直接影響を与えうるとして、勧誘に含める方向性を示している。

勧誘が広告等にも適用される余地

 なぜこのような案が持ち上がったのか。ECトラブルの相談窓口を運営する一般社団法人ECネットワーク(東京都千代田区)理事の沢田登志子氏は、「消費者団体側が念頭に置いているのは、例えばFX必勝法のような情報商材の類いのもの」と説明する。

消費者団体側が問題として念頭に置いている情報商材のイメージ
消費者団体側が問題として念頭に置いている情報商材のイメージ

 いかにも簡単に儲かるように思わせる縦長のランディングページを読んでいるうちに“その気”になって購入する人も出てくる。中には、客観的事実と異なる説明をする「不実告知」に該当しそうな表現も散見される。このため、これを対面で売り込めば、消費者側は不当勧誘に持ち込める可能性が高い。しかし、現行法ではそれがネット上にあるがゆえに不特定多数向けとされ、不当勧誘には当たらず契約の取り消しができない。これは問題で見直す必要がある、というロジックである。

 そこだけ聞けば確かに理解できなくはない。だが「不特定多数向けでも勧誘」となれば、ありとあらゆる広告が対象となってしまう。広告に「不利益事実」をすべて書かないと契約取り消しになるのか。少しでも間違ったことが書かれていたら「不実告知」で取り消しになるのか。その基準が見えず、事業者側から猛反発が起きているのが現状だ。

 2015年11月27日開催の専門調査会では、解釈で広げる方向が示されている。逐条解説の中で、勧誘は不特定多数向けのものも含まれると記して、広告等にも適用される余地を残す可能性が高い。法改正には至らない見込みだが、どこまで広げて解釈されるかがはっきりせず、気持ち悪さが残る。不当勧誘の規制が及ぶかどうかは、消費者が明らかに他のものではなくその広告を見て誤認したかどうかで判断されることになりそうだ。

 直接的なターゲットは怪しげな情報商材だったとしても、情報商材もECの一ジャンルであることから、ECには厳しい目が向けられていると思った方がいいだろう。ECの広告が勧誘レベルと判断されて、その記載に問題のある内容が含まれていれば、契約取り消しを申し立てられることは早晩起こりうる。

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