自社で調査したデータやランキングをリリースの形で公表する企業が増えている。その結果に不備はないか、どんな反響がありそうか。事前検証が重要だ。

 アンケート調査を実施し、その結果からニュースを仕立ててメディア掲載を狙う、いわゆる「調査リリース」がPR手法として一般化して久しい。だがデータやランキングは一歩間違えると数字だけが独り歩きし、思わぬ反感を買ったり、信頼を落としたりする恐れもある。本特集ではそのリスクについて、実例を挙げつつ指摘する。

 本誌Webサイトではすでに2つの事例を掲載している。

 一つは、「アパホテルが満足度ランキングで1位と最下位、評価真っ二つの怪」(2017年12月5日)。一般企業の調査リリースではなく、ビジネス誌2誌がほぼ同時期に実施した調査だが、満足度ランキングで正反対の結果が出た、興味深いケースだった。

 もう一つは、「いつまで三浦友和・山口百恵が理想の夫婦? 明治安田生命『いい夫婦の日』調査」(2017年11月29日)。いい夫婦の日(11月22日)にちなんだ調査で、ベテラン夫婦の意見を取り入れようと、50代までだったアンケート対象を70代までに拡大した結果、理想の有名人夫婦1位が12年連続で友和・百恵に固定化され、2017年は1位と2位との差が過去最高となった。「女性活躍」が標榜される時代に、やや扱いづらい調査になりつつある。

 ここからは初掲載の事例である。リリースといえば先日、「取り下げ」の憂き目にあったリリースがあった。

7400万視聴? 実視聴者207万人?
7400万視聴? 実視聴者207万人?

 2017年11月2日夜から3日間、無料インターネットテレビ局「AbemaTV」で元SMAPのメンバー3人が出演した「72時間ホンネテレビ」を巡って、2つの数字が取り沙汰された。1つはAbemaTV側が公開した、累計視聴数7400万。もう1つはビデオリサーチが発表した視聴者数207万人だ。

 ビデオリサーチは発表の2日後、このリリースを取り下げている。

 AbemaTV運営元のサイバーエージェント藤田晋社長が「削除してもらった」旨のSNS投稿をしていたことから、AbemaTV側からのクレームを受けて削除という流れだったようだ。

 だがビデオリサーチが何か根本的な調査ミスをしていたわけではなさそうだ。先に挙げた事例とはやや毛色が異なる。手がかりが少ないが、7400万と207万の差について考えたい。

7400万対207万、ホンネ対決

 まず累計視聴数7400万は、7400万人が見たのではなく、同番組が延べ7400万回見られた、という意味。同番組の視聴を始めたAさんが、一旦閉じて食事を済ませ再びアクセス、その後風呂に入るために閉じて就寝前に再度アクセス──。この場合、Aさんは1人だが視聴数は3回とカウントされる。初日はスマートフォン、2日目はパソコンで見た場合も、同一人物と把握できないため、各デバイスで番組を選択するたびに視聴数として積み上がっていく。

 一方、ビデオリサーチの調査は、登録モニターのテレビ・パソコン・スマートフォン・タブレットの接触状況を調査しているため、2つ以上のデバイスを利用したり、離脱と再アクセスを繰り返したりしても、視聴者数は1人扱いになる。調査モニターに占める3日間のAbemaTV起動者の出現率(約2.4%)を、15~69歳人口に当てはめて、約207万人という推計値を割り出した。

 モニター調査ではどんなバイアスが考えられるか? まずモニターはインターネット利用者で、複数デバイスの接触状況調査に協力的な人であることから、デジタルリテラシーは総じて高めだ。これはプラスに作用する。またAbemaTV起動率は一都六県のモニターを調査して日本の人口にかけ合わせているため、関東圏のネット動画視聴は全国平均と比べれば高めに出ると思われる。これもプラスに働きそうだ。

 ただし、アプリ起動率はiPhone利用者のデータ収集が技術上困難なため、Android利用者の起動率を用いている。MMD研究所が2015年2月に実施したスマートフォン音楽視聴調査で「ほぼ毎日」聞いている人はiPhoneが32.9%に対しAndroidは20.2%だった。ネット動画でも同様の傾向があるとすると、Android利用者の起動率から導いた推計値は低めに出るかもしれない。

 視聴者数207万人は少ないとの見方をする人は、理由として1人約35回タップしないと7400万回にならないことを挙げ、多すぎると指摘する。確かに離脱→再視聴を繰り返しても1人平均35回は多い印象だ。

 一方で、視聴数のカウントの仕方には不透明さが残る。長丁場の番組だっただけに、視聴中に友だちからLINEのメッセージがくれば、スタンプの一つでも返して番組に戻るだろう。メンバーのInstagramやブログを見に行ったり、自身のTwitterに感想を投稿したりと、番組と他アプリ間を行き来する際も番組に戻るたびにもしカウントされる設計になっているなら、1人平均35回も不可解な数字ではなくなってくる。

 AbemaTV側は、207万人に納得がいかないのであれば、実数を挙げて反論してほしいところ。視聴の定義や計測方法に認識のズレがあるなら、それを明らかにして揃えていく方が業界のため、ひいては広告効果の明確化で自社のためにもなる。テレビ視聴率の算出が個人視聴率に変わっていく折、広告主企業がテレビとネット動画を同じ土俵で比較して、出稿配分の意思決定がしやすくなるよう、歩み寄ってもらいたい。