【1】利便性向上
LINEで飛行機に搭乗、将来は予約機能も搭載へ
最初の活用目的は、既存のサービスの利便性向上だ。本特集の冒頭で紹介した、AIRDOはまさしく既存の搭乗サービスをLINEで実現して利便性を向上させた一社である。
1998年に運航を開始して以来、AIRDOは大手エアラインに比べて割安な航空運賃と、主にマスメディアを使った販促活動によって、顧客を増やし、成長してきた。しかし、近年では北海道と首都圏を結ぶ航空路線にLCC(格安航空会社)の参入が相次ぎ、競争が激化した。
こうした市場の変化の中、AIRDOは価格以外の他社との差異化を迫られた。
目指したのがデジタルを活用した、利用体験の向上だ。まず、候補に挙がったのはスマートフォン向けアプリの開発だ。だが、この案はすぐに頓挫する。というのも、スマートフォン向けアプリは、開発する以上にダウンロード数の拡大と利用の継続率の維持が難しいからだ。
各種SNSや人気の高い飲食店情報アプリなどを相手に、スマートフォンの画面の一等地を勝ち取るのは至難の業。ましてや頻繁に利用する人がそう多くない航空会社のアプリともなれば、なおさらだ。「開発費用がかかるうえ、実際にどれくらいアプリが利用されるか不透明。何よりリーチが広がる見込みが薄かった」(AIRDO営業本部営業部営業企画グループの三松貴文シニアスタッフ)。

その代替手段として目をつけたのがLINEビジネスコネクトだった。国内約6000万人というLINEユーザーがそのまま潜在的な顧客になり得るうえ、AIRDOの顧客情報とひも付ければ既存サービスの利便性向上にもつなげられると考えた。こうして開発したのが、AIRDO ONLINE Serviceだ。当初はLINEで搭乗できる機能しか搭載していなかったが、順次機能を拡充していく。
まず手始めに、2016年12月中にも、旅の情報を発信する機能を強化する。顧客がLINE上で「食べる」「体験する」といった項目を選ぶと、該当する情報をトーク画面で返信する「旅ナビ」機能を追加する。AIRDOが主に機内誌用の取材で蓄積してきた同社ならではの北海道に関わる観光情報を整理し、顧客のリクエストに応じて発信していく。
また2017年1月末までをメドに、現在はメールで顧客が受け取っている航空券の予約・購入に関する通知をLINE上で受け取ることができる機能も導入する予定だ。その後は、「顧客のカスタマージャーニーに合わせて必要な情報を発信し、同時にLINEでコミュニケーションを図っていくことを目指す」(三松氏)。近い将来には、トーク上で航空券の予約・購入ができる機能の導入も検討している。こうして高機能化が進めば、アプリの果たす役割をLINEで再現できることになる。
AIRDO以外にも、LINEをまるでアプリのように利用する企業はある。例えば、ユニクロやカジュアルブランド「アメリカンイーグル」は、LINEのトーク画面上に会員カード機能を持たせている。メニューから会員カードを選択すれば、利用者ごとに異なるバーコードが表示される。これを店舗の会計時に提示することで、ポイントをためたり、クーポンをもらえたりできる。会員カードをアプリ化する企業は増えているが、LINE化する企業は珍しい。発想次第で活用の可能性は広がる。
ユニクロはBeaconとLINEを連携する取り組みを、一部の店舗でテスト的に始めている。店舗に近づくと、LINEの友だち登録を促すといった具合だ。こうしたリアルとの連携も今後、活用法が広がりそうだ。
新規獲得広告とアカウントを連携、キャラクター告知でシェア3倍
自動車や不動産など長い期間を経て購入に至る商材におけるマーケティングは、ニーズが顕在化したときに製品やブランドが純粋想起されるようマス広告などでブランドを刷り込み、購入に先駆けてメールマガジンなどで関係性を構築することが重要になる。しかし、クルマのメルマガならば新製品情報などで関心を引き、登録を促せたとしても保険はどうか。ニーズが顕在化していない状態で、保険のメルマガに進んで登録する人は少ないのではなかろうか。
アメリカンファミリー生命保険(アフラック)も、資料請求前の段階からメルマガに登録してもらうことはハードルが高いと考え、契約者向けの配信にとどまっていた。この常識を突き崩したのがLINEだ。同社のLINE公式アカウントには1800万人を超える友だちが登録している。おそらくその大半が未契約者と言えるだろう。メールアドレスの登録はハードルが高くても、LINEならボタン1つで個人情報などを入力することなく友だち登録できる。これにより、資料請求に至らない見込み客を集めて、直接情報を届けるというマーケティングが可能になった。

アフラックでは、このLINE公式アカウントとLINE NEWSの広告を組み合わせることで、新規の見込み客の獲得から資料請求までの育成をLINE内で行う取り組みを始めている。その1つの事例が、2016年7月19日に発売した新たな保険商品「給与サポート保険」のマーケティング施策だ。
同保険に加入すると、病気や怪我で働けなくなり、収入が減少したときに給付金を受け取れる。想定するターゲットは子供を持つファミリー層と若年の単身世帯で、LINEは媒体として相性がいいと考えられた。商品の発売に合わせて、テレビCMに出演するタレントの渡辺直美さんとお笑いコンビ、トレンディエンジェルの斎藤司さんをモチーフにしたスポンサードスタンプを提供。アフラックの公式アカウントと友だちになることで、ダウンロードできるようにした。
このスタンプをフックに、新規の友だちを獲得するため、LINE NEWSのアカウントから発信されるメッセージに広告を掲載。そこから記事広告に誘導して、給与サポート保険とスタンプを告知し、LINE公式アカウントへの登録を促した。また、LINE ポイント ビデオも併用してテレビCMに使用した動画を流し、最後まで閲覧した利用者にポイントを付与してテレビCMのリーチを補強した。動画からは同様にLINE公式アカウントに誘導した。
その結果、友だち数は1.6倍に増加。「新規の友だちの獲得率では最も高い数値となった」(広告宣伝部広告宣伝課の山本優子課長代理)。集めた友だちに向けて商品情報を届けることで、資料請求へとつなげることを狙う。
LINE発のキャラクターで対話
SNS発ならぬLINE発の自社キャラクターを通じたコミュニケーションで、成果を上げているのが化粧品通販のオルビス(東京都品川区)だ。同社もまた、LINEを新規顧客獲得の場と位置付けて活用している。コミュニケーションを円滑にするための鍵を握るのが、白い猫をモチーフにしたキャラクター「うるにゃん」だ。うるにゃんは2015年にスポンサードスタンプとして初めて登場した。
2016年は年間を通して、うるにゃんを軸としてLINEでコミュニケーションを図ってきた。「それまで好調だった新規顧客の獲得数に、2015年末ごろから陰りが見え始めた。同じ施策を続けていてはいずれ限界が訪れる」(通販事業部の南昇吾氏)。それがキャラクターの活用に踏み切った1つの理由だ。
例えば、アイコンをうるにゃんにしたり、うるにゃんのグッズをプレゼントするキャンペーンなどを展開。結果、オルビスの顧客からうるにゃんは大きな支持を得るようになった。

上図はいずれも、うるにゃんのスタンプを告知するLINEのタイムラインへの投稿だ。左の投稿は、オルビスとしてキャンペーンの拡散を呼びかけている。一方、右の投稿は、うるにゃん目線でシェア数2222を目指そうと呼びかけている。その差は歴然で、右の投稿はシェア数が3倍超も高い。継続して展開している「初回購入者にうるにゃんグッズをプレゼントする」キャンペーンも人気が高く、新規顧客獲得に寄与している。
積極的にLINEをマーケティングに活用するオルビスゆえに、LINEのサービスがすべて有効ではないことにも気付いている。例えば、現状は使いづらいと感じているのが、LINEポイントを使ったアフィリエイト広告だという。対象の商品を購入するとLINEポイントが付与される仕組みだが、購入が確定した時点でポイントが付与されるため、「名前や住所を偽ったいたずら注文が多く、配送部門の負担が増加する」(南氏)。また、オルビスでは初回購入後、90日以内に再び購入した人の割合を広告効果指標として設定しているが、「LINEポイントはポイント目当ての顧客が多く、継続購入につながりにくい面もある」と通販営業部新規メディア企画チームの西野英美課長は率直に述べる。
オルビスでは新規獲得数だけではなく、こうした継続率も鑑みながら、LINEのマーケティングサービスの持つ可能性を模索していく考えだ。