飛行機の搭乗手続きや会員カードの代替など、新たなLINE活用法が登場している。メールにとどまらないLINE活用の今を、先進事例から読み解く。

 スマートフォン向けアプリの開発は止め、その代替手段としてスマートフォン向け無料通話・メールアプリ「LINE」でアプリと同等のサービスを提供する。

 こんな大胆な戦略を進めているのが、北海道を中心に運航する航空会社(エアライン)のAIRDO(エア・ドゥ、札幌市)だ。AIRDOは2016年10月18日から、「LINEビジネスコネクト」を利用した飛行機の搭乗サービス「AIRDO ONLINE Service」を始めた。AIRDOのLINEアカウントのトーク画面からQRコード取得のメニューを選び、予約番号などを入力すると、搭乗手続きに必要なQRコードがLINEに送られてくる。これを搭乗口で機械に読み込ませるだけで、チェックインが完了する。こんな仕組みだ。LINEは活用次第でアプリに代わる存在にもなり得る。

LINEは、マーケティングファネルの各領域で活用できるサービスをラインアップとして備え始めている
LINEは、マーケティングファネルの各領域で活用できるサービスをラインアップとして備え始めている

 マーケティングファネルにおいて段階ごとに活用できるLINEのマーケティングサービスを上図にまとめた。マーケティングファネルの初期の段階「認知・ブランディング」に効果的なのが、2000万人超が利用する「LINE NEWS」を通じて配信する動画広告や、動画の閲覧完了と引き換えに「LINE ポイント」を提供する「LINE ポイント ビデオ」だ。

 「LINEポイントを活用した動画広告は、多いものは1週間で300万~350万の視聴につながる」(LINEコーポレートビジネスグループ広告ビジネス開発部第二アカウントプランニングチームの川代宣雄マネージャー)。新商品の発売のタイミングで認知を取る、あるいはテレビCMと併せてテレビCMが届きにくい層を補完するといった目的で利用されるケースが多いという。

 2016年6 月にLINEが提供を始めた運用型広告「LINE Ads Platform」は、購買や資料請求といった直接的に顧客の獲得に活用できる。配信面がLINEの関連サービスであれば、LINEの利用データから推測した性・年代、興味関心カテゴリーでターゲットを絞って配信できる。現在、配信面はLINE NEWS、LINE上のタイムラインと「その他」のメニュー内と限られるが、12月末にはキュレーションサービス「NAVER まとめ」のアプリにも配信面を広げる予定だ。

 さらにターゲティングメニューの充実も図る。コーポレートビジネスグループLINE Ads Platformビジネス推進室の池端由基セールスマネージャーは、「2017年には、LINE公式アカウントで既に『友だち』になっている人を対象として、あるいは除外して、広告を配信できるようにする」と明かす。既存の友だちを除き、新規の利用者にだけアプローチするといった活用法も可能になる。

 このように、LINEにはマーケティングファネルの各領域で活用できるサービスラインアップが備わっている。「もはや、スマートフォンこそが消費者にとってのファーストスクリーンになっている。そのスマートフォンで最も利用されるLINEで、フルファネルのマーケティングを実施する必然性は増している」とLINE上級執行役員の田端信太郎氏は言う。

 ただ正直、現時点ではサービス間の連携が弱い。例えば、LINE ポイント ビデオで動画を見た人に対して、LINE Ads Platformでリターゲティング広告を当てるといった、直接的な連携はできない。LINEもここに課題を感じている。「プライバシーを優先して、積極的に開発してこなかった面もある。技術的にはスタンプを使っている人に対して、リターゲティング広告を配信するといったこともできる。サービスを横断的に活用できるように2017年は開発を強化する」(田端氏)。

 連携が強化されれば、LINE上で認知獲得から顧客獲得、CRM(顧客関係管理)まで一貫したマーケティングの実施も可能になる。国内においてはGoogleやFacebookと比肩する、統合的なマーケティングプラットフォームと捉えるべきだろう。メールマーケティングの代替手段という考えからの脱却が必要だ。

LINE版「Amazon Dash Button」

 LINEのマーケティング活用を支援する事業者に寄せられる問い合わせの“質”も変化している。LINEビジネスコネクトを活用したマーケティング支援事業「TONARIWA」を展開する電通アイソバーの清水常平ソーシャルメディアマーケティング部長はその変化をこう説明する。

 「従来、LINE活用に関する問い合わせの大半は広告宣伝部門やマーケティング部門から寄せられていた。それが2016年に入ると、経営企画室などから、LINEを使って自社のサービスの利用体験を高められないかという問い合わせが大きく増えた」

 実はAIRDOも同社が支援する企業の一社だ。活用の幅が広がり、電通アイソバーのLINE活用の支援事業の売り上げも増加。「LINEのマーケティング活用支援で得た収益が、Facebookの活用支援で得た収益を超えた」(清水氏)。同社はこうした需要に合わせてサービスを強化。直近では対話型AI(人工知能)を活用した、いわゆるbotの開発に力を入れている。コミュニケーションツールというLINEの特性を生かした、OnetoOneのコミュニケーションの実現を手助けしていく。

トランスコスモスが提供を始めた「メッセンジャーアプリECサービス」
トランスコスモスが提供を始めた「メッセンジャーアプリECサービス」

 家に設置したボタンを押すだけで日用品が届く──。米アマゾンの機器「Amazon Dash Button」はそんな購買体験を実現する。このLINE版とも言えるサービスを提供するのがトランスコスモスだ。同社が2016年12月に提供を始めた「メッセンジャーアプリ ECサービス」は、LINE公式アカウントのトーク上で商品の購入を完了できるサービス。EC(電子商取引)サイトなどの会員IDとLINEのIDを連携することで、自社サイトに既に登録されているクレジットカード情報を使ってLINEのトーク上で商品を注文できる。

 顧客の購買履歴から、よく注文する商品をトーク画面のメニューとして表示し、その画像をタップするだけでも注文が完了する。まさしく、LINE版Amazon Dash Buttonである。

 「もはやLINEは生活のインフラになっている。何かを調べる、物を買う、いずれはあらゆる購買行動をLINEのトークだけで完結できるようにしたい」。トランスコスモスのデジタルマーケティング・EC・コンタクトセンター統括 デジタルコミュニケーション統括部の所年雄統括部長代理はこんな将来像を描く。

 明日からは、「利便性向上」「新規獲得」「CRM」という目的に合わせて、LINEを巧みに活用する各社の事例を通じて、活用の最前線に迫る。

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