年賀状シーズンに売り上げのピークを迎えるインクジェットプリンター市場で、2015年末に異変があった。キヤノンと市場を二分するセイコーエプソン「カラリオ」シリーズがCMキャラクターを立てなかったのだ。
エプソンはカラリオブランド誕生以来、20年にわたって旬のタレント、女優をCMキャラクターに起用し、大々的にマス広告を展開してきた。キャラクターは複数年務めるケースが多いことから、前年新規に就いたAKB48の渡辺麻友さんが続投するものと思われたが、9月1日に開催した新機種発表会の場で登壇したのは、鉄道写真家としてNHK-BSでも番組を持つ中井精也氏だった。
一方のキヤノン「PIXUS」は、今年から石原さとみさんを起用している。かつてはデジタルカメラ製品群とCMキャラクターを兼任することもあった同社だが、近年はPIXUS単体で立てるようになった。家電量販店に筆者が立ち寄った限りでは、パンフレットやPOP(店頭広告)など店頭の華やかさはキヤノンがリードしている感がある。
カラリオはなぜ方針転換を図ったのか。高画質がウリの写真愛好家向けの機種をフラッグシップモデルとして主力製品に据えたことが影響している。
インクジェットプリンター市場は個人向けパソコン市場の縮小とセットで減少傾向にある。プリンターを購入する主目的である年賀状そのものが長期低落傾向にあるため、2015年も前年比プラスに転じるメドは立っていない。
写真好きにターゲットをシフト
そこでエプソンは主顧客ターゲットを画質にこだわる写真好きの人にシフトさせた。エプソンではカラリオより上位の「プロセレクション」シリーズがあり、2015年の主力機種「EP-10VA」は、カラリオシリーズではあるものの、カラリオとプロセレクションの間に位置するハイエンドモデルである。
この機種の魅力を伝えるには、従来のタレント路線はそぐわない。カラリオのWebサイトでは、中井氏がプロの言葉でカラリオの利点を説明するYouTube動画を設置している。一方のキヤノンは「スマフォトプリント」をキーワードにスマホからのプリント需要の開拓に努めている。マーケティング手法の変化から戦略が読み取れる好例と言えそうだ。