2017年11月2日に開催した「TREND EXPO TOKYO 2017」にAirbnb Japanの田邉泰之代表取締役が登壇。シェアリングエコノミーを牽引する同社のほほえましい創業エピソード、新事業「トリップ」拡大施策などを語った。

 米Airbnbのルーツは、創業者であるブライアン・チェスキー氏とジョー・ゲビア氏が、サンフランシスコのアパートに住んでいた頃に遡る。宿泊先に困っている人に、自分たちの部屋の空きスペースを提供し、家賃の足しにしようと考えた2人は、簡単なブログページを作って募集し、宿泊先に困っていた3人の予約を得た。部屋まるごとではなく、クローゼットの中にあったエアマットレスが提供できるスペースの全て。そのため、その3人のゲストに少しでも喜んでもらおうと、チェスキー氏とゲビア氏はゲストにサンフランシスコを案内したという。

Airbnb Japanの田邉泰之代表取締役
Airbnb Japanの田邉泰之代表取締役

 Airbnbという社名は、この時にエアマットレスを膨らませて提供したことと、Bed & Breakfastに由来する。

 2008年8月に始めた事業は、今では世界191カ国、6万5000都市、400万物件を扱うまでに成長。ゲスト数も累計で2億人を突破した。田邉氏は「宣伝はほとんどしていないにもかかわらず、口コミで拡大した」と話す。日本法人の設立は2014年。現在は全ての都道府県に5万8000以上の登録物件を有する。

 部屋を貸すと、周辺のコンビニや飲食店に経済的な波及効果がある。貸したい物件はあるが掃除ができないといった人には、「では掃除を代行しましょう」という人が現れるなど、Airbnbが提供するサービスを核に、新しいビジネスも生まれているようだ。

 Airbnbが2017年4月に発表した「日本における短期賃貸に関する活動レポート」の結果によれば、2016年のAirbnbによる経済効果は4061億円。周辺ビジネスへの影響を加味した経済効果は推計で9200億円に及ぶという。同社を利用した訪日旅行客は370万人を超え、2017年はさらに成長していると田邉氏は見ている。

 今年はテレビCMを出稿し話題を呼んだ。有名タレントは使わず、「また行きたいと思うような、人と人の継続的なつながりができることを訴求している」と田邉氏。

 観光ビジネスの拡大と地域経済の発展を重視するAirbnb。急速な事業拡大に貢献したプラットフォームは、空室(ホスト)と泊まりたい人(ゲスト)とをマッチングするものである。部屋を探している人が、宿泊したい場所と時期を入力すると、右側に地図、左側に空いている物件写真が表示される。

互いに選び合うコミュニティー

 その裏側で、同社はゲストとホストとの双方が感じる懸念を払拭する工夫を凝らしている。Airbnbのサービスで最初にストレスを感じる点は、知らない人の所に泊まることへの不安だろう。この不安の解消に最も効果的なのが、相互レビューだという。ゲストがホストにコメントするだけでなく、ホストもゲストにコメントを残せる。互いが互いを評価し、それを基準に選び、選ばれるコミュニティーができあがっている。

 田邉氏自身もAirbnbのコミュニティーの一員であり続けるために、物件を使ったら掃除を丁寧に行い、ホストのストレスにならないよう、リモコンは必ず元の場所に戻すように注意していると明かした。コミュニティーを繁栄させる前提として、互いを尊重することを重視しており、日本だけではなく全世界で良いエコシステムができているという。そのほか、ID認証、電話番号、メールアドレス、パスポートあるいは運転免許証など、多くの情報を提供しなければならないことも、悪用の抑止力になっていると田邉氏は説明した。

 次にストレスの原因になるのが、お金の問題だ。Airbnbはゲストとホストとの間に立ち、予約時にゲストから一時的に料金を預かる。そして、現地に到着したゲストが、物件を確認し、24時間以内に不満がなければ、料金がホストに支払われる。24時間ルールを適用しているのは、ゲストにとっては写真だけが判断材料になるためだ。現地に着いたゲストのために、Airbnbは24時間サポート体制で待機し、気軽に問い合わせができる準備もしている。

 会員ビジネスでは、多くの場合、会員数を増やすことを重視しているが、田邉氏は「Airbnbでは、コミュニティーの一員でありたいと思う人たちだけに参加してもらいたい」と語った。

 創立者の2人は、現在も最初のゲストたちとの交流を続けている。その交流から分かったのは、ホストもゲストもサンフランシスコでの体験のほうが強い印象を残したということだった。旅行の楽しみは、目的地への移動と滞在にあるのではなく、日常から離れた場所での体験に凝縮される。民泊サービスの提供で旅行を変革するにとどまらず、Airbnbは2016年11月から正式に提供を開始した「トリップ」で、体験提供を強化する方向に舵を切った。ここで言う「体験」とは、さまざまな技能を持つホストが、体験型の観光メニューを提供するもの。田邉氏は「コト消費」という言葉を使い、旅行で体験を求める消費者が増えていることを紹介した。旅先で、何らかの体験ができることを増やせば、現地にもっと大きな経済効果をもたらすことも可能になるだろう。

体験型の事業が急成長

 実際、トリップ事業は急拡大している。当初は12都市500件であった体験の登録件数は、2017年7月に30都市1800件を突破。体験の90%が最高評価の5つ星を獲得し、ゲストが一体験で支払う金額は平均66ドルだという。東京は、体験の登録でも予約でもトップ5に入る人気の都市。文化を感じる体験を楽しむ人が増え、体験を提供できる人も増えているわけだ。

 人気の体験は、「パリでのサイクリング」「バルセロナでのセーリング」「フィレンツェのワイナリーでのテイスティング」など、さまざま。日本の体験では有名な利き酒師が提供する「日本酒のテイスティング」や、フレンチレストランのシェフが教える「日本料理の教室」「書道」など。ゲビア氏が来日した際は、盆栽づくりのワークショップを体験したという。

 田邉氏は、「毎年新しいことをやりたいと考えるが、調べたり、本を読んだりするのはかなりの労力がかかる。それが1つのことに情熱を持つホストと数時間一緒にいるだけで、対象への興味をかき立てられ、新しい世界を知り、生活が豊かになる」と体験の楽しさを話した。

 単なる宿泊サービスでなく、体験も提供できるようになったAirbnb。田邉氏は、旅の検討や予約から、帰ってきてからの情報共有まで、すべてをサポートする包括的な旅のプラットフォームへ発展させたいと展望を述べた。

 既にさまざまなテクノロジーを使っているが、「IT(情報技術)を駆使して提供する付加価値をより高めるプラットフォームに進化させたい」という。

この記事をいいね!する