バナー広告を含めネット広告を出稿した経験はほぼない。FacebookやTwitterといったSNSの公式アカウントも開設していない。これまでテレビCMなど「マス」中心のマーケティングを進めてきた出光興産が2016年、デジタルマーケティングに大きくシフトする方針を固めている。
決断のきっかけはブランディングを目的に制作した2本のYouTube動画広告だ。2015年9月3~30日まで4週間にわたりシンガポールやベトナムなどアジア4カ国を対象に、合計300万リーチの規模で出稿した。


出光にとってYouTube向け動画広告を制作するのも出稿するのも、これが初めて。しかし結果は良好だった。動画の視聴回数が目標値の3倍になり、視聴割合も2.5倍になったことに同社は意を強くしている。「2016年度予算ではデジタルの比率が一気に高まるだろう」。施策を主導した出光広報CSR室ブランド・広告課の野田三月女氏はそう言ってほほえむ。
今回、出光が動画広告を出稿した目的は2つある。1つは同社のブランド認知をアジア地域で高めること。もう1つは、ネット施策そのものの有効性を確かめることだった。
国内では9割超の認知を誇る出光ブランドもアジア地域ではぼ無名の存在という。「おそらく数%あるかないか」と野田氏は明かす。かつて海外にも存在した出光ブランドを掲げるSS(サービスステーション)も今はなく、「アポロマーク」と呼ばれる同社ロゴマークをつけた自動車用エンジンオイルなどの消費者向け販売を海外では実施していないことも大きい。
しかしここに来て同社は海外戦略を転換。エンジンオイルなどの消費者向け販売を海外で本格的にスタートさせている。今回のネット施策はブランドの認知を高め、エンジンオイルの販売拡大につなげる狙いがあった。そこで動画広告のノウハウを持つオプトと、デジタルマーケティング支援のエヌプラス(東京都渋谷区)に動画の制作・運用などを委託した。
2種類の動画でブランド訴求
1年ほどの準備期間を経て完成した出光の動画広告は、33秒の短尺と2分19秒の長尺の2種類。短尺は冒頭から商品(エンジンオイルのボトル)を登場させ、ダイレクトに商品認知を狙った。一方の長尺は、ストーリー仕立てで、出光ブランドと日本製エンジンオイルの品質や信頼感などをじわり、訴える構成とした。
その結果はどうか。動画の視聴割合は2本の平均で12%と見込んでいたが、最終的に31.2%と目標を上回った。最も結果が良かったベトナムでは38.3%と4割に迫っている。動画広告から本施策のために開設した2種類のLP(ランディングページ)へと誘導するアノテーション(リンクボタン)のCTR(クリック率)も想定以上。平均で0.045%という目標に対し、0.25%と5.3倍も高かった。
今回は実験的な施策という位置づけのため、ブランド認知が実際にどれほど高まったかといった調査は実施できていない。それは「次回のテーマ」と野田氏。当面は、今回の動画を現地での販売店開拓などに活用しつつ、新たなデジタル施策の検討を進めていく。