ネットとリアル、そしてマスという3つの領域のデータを統合し分析することで、新たな顧客の姿が見えてくる。Webの世界に閉じ込もっていては見えない・気がつかない、新たな発見にあふれた1日の模様をここにお届けする。
日経デジタルマーケティングは12月3日に都内で読者セミナー「オムニチャネル×リアル行動ターゲティング」を開催した。ネットとリアルを融合して新たな付加価値を生む2つの取り組みを、事例講演などから解き明かす企画だ。普段はマスマーケティングを担当している人を含めて、200人ほどが詰めかけ、満席となった会場は熱気に包まれた。

最初に登壇したのはリアル行動ターゲティングの提唱者であるデジタルインテリジェンス代表取締役の横山隆治氏。「これまでのネット広告は興味関心が顕在化した人のリターゲティングに終始している傾向にある。広告は本来、潜在層を顕在化させたり、興味関心を醸成することも役割の1つであり、このまま市場に種も水もまかないで刈り取りに特化している状況では、いずれ草も生えなくなってしまう」と警告。リアル行動ターゲティングというコンセプトが生まれた背景を説明した。
これまで実現が困難だったワン・トゥ・ワンマーケティングもテレビのデジタル化や共通ポイント施策などで実現可能になった。これを契機にマーケティングを再定義しようと訴えているという。「データから見えるリアル行動の意味や価値を読み取ることで、新しいターゲットを創造することができる世界になってきた」と語りかけた。続いて、同社シニアディレクターの楳田良輝氏が登壇。リアル行動ターゲティングでは、ユーザーがメディアとどのように接触しているのを注意深くみていくことが重要と指摘した。

いまやスマートフォンの所有率は6割を超え、20代では95%を超える。通勤時に新聞を読む人、中吊り広告を注視する人は激減。交通広告や折り込みチラシなどはさらに投資対効果がみえづらくなっている。こうした中、スマートフォンの位置情報データなども活用して生活者の生活導線などに合わせてマーケティング施策を組み立てるリアル行動ターゲティングに取り組むことが、既存のネット施策の補完になると強調した。
「例えばマンションの広告を打つ場合、人がどのような範囲を移動しているか、どのエリアで生活しているのかを見る必要がある。これまで点と点で考えていたものを線や面で捉えることで、人々のプロフィールがより見えてくる」(楳田氏)。マス・デジタル・リアルの3つの領域を、デジタルデータを使って統合することで、消費者の導線を最適化することが重要だという。その上で楳田氏は「マス広告とネット広告を担当している人は予算も評価指標も違うので、相容れない部分もあるだろうが、リアル行動ターゲティングが両者の架け橋になればいい」と話し、講演を締めくくった。
検討段階の可視化が重要
続いてオイシックスCOCO(最高オムニチャネル責任者)である奥谷孝司氏が講演した。奥谷氏が2010年に前職・良品計画でWEB事業の担当になった当時、「無印良品」のEC(電子商取引)サイトの売り上げは全体の1割ほどだったという。
「リアル店舗の売り上げが9割を占める会社がネットを始めるのだから、売り上げだけでなく、ブランドの理解を高めたり、店舗に足を運んでもらう導線として活用することが大切だと考えた。そしてコアなファン層、つまりエバンジェリストを育成する場にして、ネットとリアルの融合を進めようと試みた」とECサイトを開設した当初を振り返った。
こうした発想で開発したのがCRM(顧客関係管理)アプリ「MUJI passport」だ。欲しい商品の検索はもちろん近隣店舗の在庫状況などもリアルタイムで照会でき、店舗でチェックインすると「MUJIマイル」が貯まる。顧客はこのマイルを割引などに使える。「えてしてリアル店舗が強い企業は、購入の段階のフェーズに注目しがちだが、大切なのはプロセスだ。検討の段階を可視化することが重要で、それを今の言葉に置き換えれば、オムニチャネルとなる」。

それまではリアル店舗で誰が買っているのかが見えなかったが「MUJI passport」によって、誰がいつ購入しているのかが可視化できるようになった。「得られたデータを基に、いかにして顧客が商品を検討し消費しているのかを類推することに注力してきた。アプリ経由でアンケートをすれば3万人からフィードバックが取れるシステムが構築できた」と奥谷氏。そして「これからのECは、エンゲージメント・コマースであるべき」だと強調した。
「大切なのは顧客がそのブランドとつながりたいかどうか。消費者と逃げないで対話していく。今や良いものを作れば売れる時代ではない。良い意味での悪だくみをしていく必要がある。憧れの対象ではなく、対等の立場に評価される、本質的な意味でのブランドの時代がくると思う。だからこそデジタルデバイスを利用して、関係性を構築することが重要で、売り上げはその先にある」と語ると会場から拍手が起きた。
紙媒体も活用し会員を育てる
最後に登壇したジェーシービー(JCB)販売促進企画部長の杉原志信氏は、講演の冒頭、「紙とネットの両方が大切であり、今はどちらも切り離しては考えられない」と、ネットとリアルの融合に取り組む重要性を訴えた。杉原氏によれば、クレジットカード利用者の成長過程は3つのステージに大別されるという。最初は新規・入会のステージ、2つ目が公共料金振替などの利用の幅、顧客接点の幅を広げていくステージ。そして3つ目はカード利用金額を高め、継続利用してもらうステージである。

JCBではゴールドカードなどの上級カードを用意し、プレミアムサービスの強化を進めている。「我々はリアル店舗がなく、お客様との接点が限られている。そうした中で2000年にスタートしたWebサイト上の「MY JCB」が一番大事な顧客接点だ。これ以外にもEメール、コールセンター、そして紙媒体としては利用明細もチャネルとして活用している。例えばゴールド会員以上には会員誌をお届けするなどリアルなチャネルも重視している」と話した。
現状ではネットがサービスの中心になり、重要性も増しているが、年齢の高い会員などにも満足してもらうには、紙も電話もなくすことはできない。同社は今後も、デジタルとリアルをつなぐサービスを展開し、さらにカード会員の満足度を高めていく方針だ。