キリンビールは2017年以降、テレビCMとデジタルマーケティングを連携した流通企業への集客施策を強化する。取引先である流通企業への集客効果が高い施策の実施を売りに、営業活動で他社との差異化につなげたい考えだ。

 「これまで広告活動と営業活動は分断されていた」。マーケティング部広告SP担当メディアグループの小松誠也氏はこう振り返る。もちろんテレビCMの出稿量が間接的に営業活動の支援につながってはいるものの、「より直接的に営業活動を後押しできる、広告活動の形を模索していた」(小松氏)。そこで考えついたのが、参加型テレビCMだ。CM放送中に手元にあるスマートフォンでCMと連動したキャンペーンにその場で参加してもらう。そして、クーポンなどを配布して取引先の小売店に集客する。そんな施策だ。

 参加型の番組は以前にも存在していたが、参加型のテレビCMは類を見ない。テレビを活用した新しいマーケティング施策を支援するHAROiD(東京都港区)の力を借りることで、この新しい施策に挑戦することを目指した。

 とはいえ、当初は課題が山積していた。テレビCMの制作費以外の開発費も含めるとコストが膨らむ。これまで取り組んだことのない施策ゆえに参加者数や集客力の予測も示しづらい。既に定着している、「ブランド名で検索」とテレビCM中に呼びかける手法の効果も、「サイトのPV(ページビュー)が上昇しても数千程度」(デジタルマーケティング部デジタルマーケティング担当の高柳裕行氏)とたかが知れている。そのため、「普通にテレビCMを放送したほうがコスト効率は良いのではないか」と指摘もあった。さらに、クーポンを配布するとなれば流通企業との調整も必要になり、ハードルが上がる。

まずはネットで完結する施策

 そこで、まずはネット経由のプレゼント応募を参加型テレビCMの成果指標とするキャンペーンを展開。テレビCMとネットという2つのチャネルだけで完結する施策を実施して、その感触を確かめることにした。対象ブランドは缶チューハイ「氷結」だ。ブランド認知が高く、かつ若年層をターゲットとしているため、企画に合致すると考えられた。7月12日の午後7時56分から午後10時54分の間に放送されている番組中に60秒間の氷結のテレビCMを放送。そのテレビCMの放送中に、視聴者がキャンペーンサイトでスマートフォンからゲームに参加すると、氷結1年分が当たるキャンペーンに応募できるものだった。

 本施策は、放送当日にFacebookやTwitterアカウントで告知した程度にもかかわらず約2万6000人から応募が寄せられた。キャンペーンサイトのPVも13万に達し、「唐突にテレビCMで参加を呼びかけても、相当数の応募が集まった。これによって、スマートフォンを手に持ってテレビを視聴する人が多いことが証明された」(小松氏)。

「氷結」の参加型テレビCMのキャンペーンサイト
「氷結」の参加型テレビCMのキャンペーンサイト

 こうした成果から社内の理解も深まった。そこで9月には、当初から標榜していた、テレビCMから最終的に店舗への誘導を実現する施策へと段階を進めた。基本的な設計は初回と同様だ。9月20日と27日の2回に分けて放送した氷結のテレビCMの放送中に、視聴者はスマートフォンからキャンペーンサイトを訪れて、ゲームに参加する。参加すると、対象のコンビニエンスストアで氷結と引き換えられるクーポンを先着でもらえる点が初回と異なった。

 その結果、20日と27日の2回の放送で用意した15万枚のクーポンはすべて配布。引き換え率は約8割に達するなど、取引先であるコンビニエンスストアへの集客につながった。しかも、20日の放送では、番組の平均世帯視聴率14.8%に対して、氷結のテレビCM中は16.7%となり、番組の放送時間中、テレビCMが最も高い視聴率を叩き出す副次的な効果につながった。放送5分前に、1500万人を超えるキリンのLINE公式アカウントでの告知を実施したことなども奏功した。

 こうした成果から、「営業部門からは来年以降、具体的にどのブランドで、何月ごろに同様の施策を実施したいといった提案が寄せられている」と小松氏は言う。取引先に直接集客する施策が、他社の営業との差異化につながるという手応えを感じたからだろう。キリンは今後、肝いりの商品の発売や流通企業への集客に力を入れたいタイミングなど、時期を見ながらこれらの施策を組み込んでいく方針だ。

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