機能特化した店舗を展開する米メンズ・アパレル・ブランド「BONOBOS(ボノボス)」
機能特化した店舗を展開する米メンズ・アパレル・ブランド「BONOBOS(ボノボス)」

 チャネルシフトのもう1つの潮流は、機能特化した店舗の登場である。2007年にシリコンバレーで創業した、EC(電子商取引)専業の米メンズ・アパレル・ブランド「BONOBOS(ボノボス)」は、その先駆的な存在だ。

 BONOBOSはオンライン店舗に軸足を置く業態だが、全米でオフライン店舗の展開を進めており、2020年までに100店舗まで拡大する予定だという。この店舗はガイドショップと呼ばれ、顧客がオンラインで選択した商品をフィッティングし、購入を完了するという役割を担う。しかも購入した商品はその場で持ち帰ることはできず、数日後に自宅や滞在先にBONOBOSの倉庫から直接届く仕組みになっている。

店舗機能を制限する理由

 筆者らは実際にシカゴのBONOBOSで買い物を体験してみたが、店自体は一般的なブランドショップとなんら変わらない。事前にオンラインで欲しい商品を選んでおき、店舗で商品をフィッティングする。サイズ感などを確かめて、店舗で支払いを済ませたら、手ぶらで店を出るだけだ。このようにオンラインで商品ラインアップを見せて選択を促し、購入はオフライン店舗に誘導しているわけだ。

 この戦い方には、店舗の機能をあえて限定することによって、店舗運用を効率化する効果がある。

 1つは、「店舗スタッフの効率化」だ。顧客が欲しい商品を事前に選んでいるので、顧客対応にかかる時間は短くなり回転が早くなる。さらに顧客のオンラインの閲覧履歴や購入履歴を店員が見て対応すれば、店舗での購入率は上がるだろう。顧客にとっても、来店のたびに好みでない商品をゼロから薦められるストレスがなくなり、購買体験はより深いものになる。また商品は後で配送するので、その場で商品を梱包する作業もない。店舗スタッフは、顧客によりよいブランド体験を提供することに全力を注げる。

BONOBOSはチャネルシフト②のタイプ
BONOBOSはチャネルシフト②のタイプ

 もう1つは、「店舗スペースの効率化」である。従来のアパレル店舗では、ある程度の余剰を見込み、店頭には相当量の在庫を持っている。結果的に好立地の店舗ほど、在庫のための保管スペースにかかるコスト負担が大きくなる。しかしBONOBOSは店頭在庫が少なくてすむため、店舗の全てのスペースを、顧客の体験のための空間として使い切ることができるのだ。さらに決済は店員の端末で実施するため、現金のやりとりがない。レジスペースもレジ締め業務もない店舗、というわけだ。

 日本ではオーダースーツブランド「DIFFERENCE」が、アプリによって事前に来店時間と顧客の要望を把握するスタイルの店舗を展開し、この象限に参入している。来店時の対応品質を高めると同時に、初回購入時に取ったサイズデータを基に、次のオンライン店舗でのオーダーが容易になる。オン・オフ双方を使って、高い品質の顧客対応と、効率的な店舗運用を両立させている。

 なおBONOBOSは、米Walmartによって2017年に買収されている。Walmartが手に入れたいのは、BONOBOSが実践するチャネルシフトによる購買体験の作り方と、他社とは異なる店舗運用の効率化というノウハウだろう。オフラインの代表企業であるWalmartがBONOBOSを買収したという事実は、チャネルシフトが他業界にも応用されていくことを示唆しているように思えるのだ。

 アパレル業界は、着てみたり触ってみたりしないと納得できないという商品の特性上、オフラインの市場がまだまだ大きい。多くの代表企業がオンラインでの展開を本格化しないのは、合理的な判断と言えるかもしれない。永年培ってきた店舗運営のノウハウを考えれば、仮にオンラインのブランドが突然オフラインに侵出してきたとしても、負ける気などしないだろう。

 しかしLE TOTEとBONOBOSの例から考えられるのは、オンラインに軸足を置く企業は、ただ単に従来と同じようなオフライン店舗を出すような戦い方は、恐らくしないだろうということだ。オフラインでの店舗運営の難しさを知っているからこそ、オンラインで培ってきた顧客とのつながりを武器にした、新しい購買体験と戦い方で挑んでくるだろう。同様に、ZOZOTOWNはZOZOSUITを通して得たサイズデータによって、チャネルシフト先進企業として、アパレル業界の戦い方を変える存在になるかもしれない。

 オフラインでの体験が重要だと考えられている業界は、アパレル以外にも数多く存在する。むしろそういった業界でこそ斬新なチャネルシフトが生まれ得ることを、アパレル業界での事例は示している。