大手旅行会社のジェイティービー(JTB)が動画マーケティングで大きな成果を上げている。JTBが取り組んだのは、動画共有サービス「YouTube」上で人気を集める「YouTuber」を活用したもの。旅行に関連した動画を投稿していたYouTuberに依頼して、旅行商品を告知。動画が話題を呼び、動画を閲覧した人が検索サイト経由などで同商品を扱うJTBの旅行商品サイトを訪れた。その結果、商品サイトのPV(ページビュー)は最大で約7倍に跳ね上がり、購入率も2倍と大幅増となった。
JTBがYouTuberを活用して告知したのは、国内旅行商品の「サンキューチョイス」だ。同商品は、交通手段(往復の航空券か新幹線の乗車券)、宿泊施設の予約、現地で乗るレンタカーがセットになって、最安値で3万円前後からという“お得さ”が売り。北海道、東北、九州、沖縄と全4地域の商品を用意している。ここ数年では、観光スポットで使えるクーポンを付けたり、各地域の料理をカップに詰めたカップグルメを付けたりするなどして、さらにお得感を打ち出してきた。
ところが、「情報取得経路としてネットの存在感が増し、パンフレットが消費者の手に取られづらくなってきたのに、JTBという会社はいまだにパンフレット重視の文化が根強い」(JTB国内旅行企画商品企画部の横田典之販売促進課長)。その結果、いくら商品力を磨いても見込み客には情報が届きづらい。Webサイト経由の販売比率も10%以下にとどまっていた。
拡散能力と動画制作スキルを所持
「パンフレットに埋もれている旅行商品の魅力」(横田氏)をネットを活用して広めたい。そのため、JTBではこの4月からデジタルマーケティングを強化し始め、Webサイトを通じた情報発信に取り組んできた。しかし、強化を始めたばかりということもあり、従来のマス広告と同じ感覚で一気に情報を伝えることは難しい。そこで目をつけたのがYouTuberだった。YouTuberは自ら動画を作って発信し、ファンを集めて動画の再生回数を増やすことで広告収益を得ている。中には数十万~数百万に達するファンを持つ人もいる。
つまり、YouTuberを通じて動画を配信すれば、彼らの持つ数十万人のファンに一気に情報を伝えられる可能性がある。しかも、YouTuberは動画をきちんと見てもらうためのノウハウや動画制作スキルを既に持っている。情報の拡散能力と旅行商品の魅力を伝える動画の制作能力。この2つを併せ持つYouTuberは、JTBにとってうってつけの相手と考えられた。
そこで、企業とYouTuberのマッチング事業を展開するBizcast(東京都渋谷区)を通じ、旅行に関する動画を投稿していて、かつ20万~50万人のファンを持つYouTuberを探し出してもらった。白羽の矢を立てたのが、MEGWINさんだ。MEGWINさんがYouTubeに開設しているチャンネルには現在63万人が登録している。また、旅行やグルメに関する動画も投稿していることから、本企画に最適と考えられた。
こうして選定したMEGWINさんの協力の下、まずは東北旅行の告知動画の制作から取り掛かった。サンキューチョイスには宿泊施設、レンタカー、カップグルメがついてくる。そのため財布いらずの旅も可能。そこで、MEGWINさんの財布を旅行前に没収。規定の13カ所を旅行中にすべて回れば、次の北海道旅行が無料になり、回れなければすべて自腹というテレビ番組のような企画の動画を制作した。制作された動画は初回だけで12分と想定より長尺だったものの、「いざ見てみると引き込まれた」(横田氏)ことから、そのままMEGWINさんのチャンネルで全3回にわたって配信した。
東北編の動画は合計で約23万回再生され、その結果、動画配信後に、JTBのサンキューチョイスのサイトの訪問者数は2倍に増加した。これに手応えを感じて、すぐに北海道旅行編を制作。8月末時点で、前述の通り、商品サイトのPVは最大で施策前の約7倍に増加。購入率も2倍に高まった。こうした成果を受け、JTBは九州編、そして沖縄編の動画の制作にも取り掛かった。11月24日に九州編の最終回が投稿されている。今後、沖縄編も順次投稿していく予定だ。