三菱地所グループは2017年に、VR(仮想現実)を活用した営業ツールの導入を加速する。2017年春までに中古住宅をリノベーションして販売する営業拠点で、ヘッドマウンテッドディスプレー(HMD)により物件内部を上下左右360度にわたって見られる“VR内覧”を可能にする計画を進めている。さらに1LDK、1000万~3000万円程度の投資用分譲マンションに広げる検討もしている。

 既に高級分譲マンション、オフィス、注文住宅については営業拠点にHMDを少しずつ導入し、VR内覧を可能にしている。まず2015年10月、東京・有楽町にあるグループ全体の営業拠点「三菱地所のレジデンスラウンジ」に、米オキュラスのアプリをインストールしたスマートフォンをセットするだけで使えるサムスン電子製HMD「ギアVR」を用意し、関西圏の分譲マンション1棟と注文住宅2棟についてVR内覧を実施した。マンションは三菱地所レジデンス(東京都千代田区)、注文住宅は三菱地所ホーム(東京都港区)の物件だ。

三菱地所レジデンスが販売する高級分譲マンション「ザ・パークハウス 京都鴨川御所東」のバスルームを見せるVR画像
三菱地所レジデンスが販売する高級分譲マンション「ザ・パークハウス 京都鴨川御所東」のバスルームを見せるVR画像

 次いで2016年1月から、住宅展示場にある三菱地所ホームの営業拠点18カ所にもHMDを設置。1つの住宅展示場を訪問すると、他地域の物件もVR内覧できるようにした。

 販売コストが下がるなど、定量的な効果はまだ把握できていないが、「来場者が増えて、VR内覧の評判も良かった」と三菱地所住宅業務企画部兼新事業創造部副主事の橘嘉宏氏は語る。そこでリノベーション販売や投資用の分譲マンションにも、VR内覧を拡大することにした。

新築分譲マンション市況の低迷もVR導入を後押し

 背景には新築分譲マンション市場の変化がある。2011年ごろから2014年までは、物件の価格は高騰していたが、低金利という追い風もあり成約件数は伸び続けた。2015年から成約の伸びが鈍化する一方、建築予定の物件数は増えており、完成したが成約していない“在庫”物件が積み上がっている。この傾向は2017年も続く見込みだ。

 在庫物件は、実際の部屋を360度カメラで撮影してVRコンテンツを制作できるため、完成前の物件内部をCGで制作するよりもコストを低く抑えられるという。在庫物件が積み上がっているのは競合他社も同様なため、現在はタブレット端末を使った2次元のパノラマ映像などを使っている会社も、今後はHMDの活用に積極的になる可能性がある。そこで三菱地所は、新築マンションだけでなく、注文住宅やリノベーション物件にもVR内覧できる対象を拡大して、さらに先行。「VR内覧なら三菱地所というイメージを定着させ、販売拠点への集客を増やし、販売コスト削減にもつなげる」(橘氏)ことを狙っている。

 今後は、より低コストでVRコンテンツを制作する手法の確立や、効果の把握・検証なども進めていく方針だ。

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