オウンドメディアの成功例はあるものの、オウンドメディアへの集客は以前にも増して難しくなっている。若い層では今やテレビやパソコンよりもスマホが最も接触時間が長く、ニールセンの調査によると、全体平均で2時間を超えるスマホ利用時間のうち80%が、アプリの利用となっている。

スマホ利用時間はアプリが8割
スマホ利用時間はアプリが8割
起動ユーザーが多いアプリランキング
起動ユーザーが多いアプリランキング
Facebookのタイムライン上でよく再生された「人生ゲーム」のプロモーション動画
Facebookのタイムライン上でよく再生された「人生ゲーム」のプロモーション動画

 ではユーザーはどのアプリを立ち上げているのか。ヴァリューズの調査では、起動ユーザーの多いアプリトップ3は順にLINE、Facebook、Twitterだ。ユーザーの多くは、基本的に自分のタイムライン上で登録・フォローしているアカウントからの情報を流し読みし、面白そうな情報があれば見に行くといった行動パターンを取っているとみられる。そしてアプリ利用が8割という時間配分からして、積極的に多くのサイトを見て回っている風ではない。

 オプト執行役員でソーシャルメディアやコンテンツマーケティング支援を管轄する中野宜幸氏は、「スマホユーザーはSNSのタイムライン上で、1回のスクロールで表示される2~3件の投稿を、読むべき内容かどうか瞬時に判断している」と指摘する。そこで手を止めて続きを見たくなるようなコンテンツを流さなければ、飛ばされてしまう。

 タカラトミーは今年の年明け、「人生ゲーム」のプロモーション動画を配信し、1000万回を超える再生回数を記録した。空港の荷物引取りターンテーブルをゲーム盤に見立てて“リアル人生ゲーム”をする面白い動画と思いきや、成人を迎える娘が結婚式を挙げていなかった両親のためにサプライズ“プチ”挙式を用意する感動もののストーリーが反響を呼んだ。

 動画の内容がよかったのはもちろんだが、この動画はFacebook上で、紹介文や表示されるサムネイル画像を世代別により興味を持ちやすいように変えて配信し、再生数を増やすきめ細かい取り組みをしていた。YouTubeでの再生回数は30万回超。再生回数の大半はSNSのタイムライン上で視聴されたものだ。

 これまでSNSの運用は、自社アカウントの投稿にしても広告出稿にしても、いかにオウンドメディアに誘導するか、その流入数を主要なKPI(重要業績評価指標)としてきた。ところが、今はタイムライン上に“引きこもりがち”なユーザーが増えている。ならば、ユーザーを遷移させずにタイムライン上で完結するコンテンツの見せ方も必要になってきたのではないか。

 その動向をいち早く先取りしたのが、「分散型」メディアと呼ばれる専門特化型の動画メディアだ。オウンドメディアを持たず、SNSを拠点にお役立ち動画を配信することで近年、その台頭が目立つ。エブリー(東京都渋谷区)が展開する料理動画メディア「DELISH KITCHEN」や、ヘアアレンジ・メイク・ネイルなどの提案型動画メディア「KALOS」がその代表例だ。

広告主も注目する分散型動画メディア

 料理のレシピは日本ハムも手を出さなかったほどの激戦区だが、DELISH KITCHENは昨年9月の開設から1年で、Facebookのファン数136万人、Instagramのフォロワー数51万人を超える、国内有数の人気アカウントになっている。

エブリーが展開する分散型の料理動画メディア「DELISH KITCHEN」
エブリーが展開する分散型の料理動画メディア「DELISH KITCHEN」

 同社プロデューサーで料理研究家の菅原千遥氏は、「レシピサイトは基本的に自分の頭にあるメニューのイメージや食材から探すが、DELISH KITCHENは提案型」と説明する。自分のレパートリーやアイデアの範囲では料理がマンネリ化しがちなところへ、DELISH KITCHENから新しいレシピの提案が流れてきて、作ってみようという意欲をかき立てられる。「こんなひと工夫を加えたらもっとおいしそう」といった視聴者からの投稿も寄せられ、コミュニティーとしても活性化している。

 DELISH KITCHENの視聴デバイスはスマホが9割超、女性が94%で、うち35歳未満が3分の2を占める。テーマとターゲットが明確なだけに、新たな出稿先として期待する企業も増えている。今春から企業の特定商品を露出して使い方を提案するタイアップ動画の配信を始めた。

 サッポロビールは、自社ECとAmazon.co.jp限定で販売する女性向けのネット通販専用ビール「空模様」シリーズのタイアップ動画をDELISH KITCHENで配信した。 「遅く起きた休日のブランチにエッグベネディクトと合わせて」といったシーンとメニュー提案の中に空模様を溶け込ませて訴求する内容だ。同社マーケティング開発部デジタルコミュニケーショングループの清水英孝氏は、「ターゲット層が合うことに加え、空模様は味や製法ではなく気分で選ぶコンセプトの商品のため、こんなシーンでマッチするというイメージが伝わりやすい」と動画メディアの利点を語る。

 オフィス用品通販のアスクルが個人向けに展開する「LOHACO」では、人気商品のカルビー「フルグラ」や独自に精米する「ろはこ米」のタイアップ動画をDELISH KITCHENで、またロハコモールに出店する無印良品のコスメを使ったメイク術のタイアップ動画をKALOSで、それぞれ配信している。同社LOHACO編成本部で広告販促を担当する冨岡祐子氏は、「動画専門メディアは再生数が大きく伸びる。撮り方、見せ方 も参考になる」と語る。

 もっとも、分散型動画メディアから自社ECに誘導して直接コンバージョンに至るかといえば、まだ過大な期待はできない。分散型動画メディアは、認知度が低い商品の訴求や、商品の認知はされていても知られていない意外な活用法の提案などに向くメディアという色合いが濃い。

 SNSに閉じこもりがちなスマホユーザーにいかにアプローチしていくか。現状の手応えを踏まえて、今こそオウンドメディアの役割やペイドメディア、アーンドメディアとの関係を点検し、必要に応じてオウンドメディアを再構築する時期だ。

この記事をいいね!する