コカ・コーラパークは終了するが、ゲームコンテンツなどを提供してポイントを付与し、ブランド接触頻度を増やすパーク型の取り組みが古くなったのかといえば、決してそういうわけではない。

 「サントリータウン」を運営してきたサントリーはこの9月末、サントリータウンIDをサントリーのWebサイト全体で利用できるサントリーIDに変更した。同社広報部デジタルコミュニケーション開発部長の坂井康文氏は、「タウン内に閉じていたユーザーの回遊をサイト全体に広げたい。例えば指定のCSRコンテンツや動画を閲覧するとポイントがたまるようにして、活性化を図る」とその狙いを語る。

 アサヒビールも2015年3月に開設した「アサヒパーク」が好調だ。先のWebブランド調査で、サントリータウン、アサヒパークともに10~20位台の好位置をキープしている。売り上げへの寄与が見えている両社は、コカ・コーラとは対照的に、オウンドメディアの強化へ踏み出している。

更新が終了、または停滞気味のオウンドメディア
更新が終了、または停滞気味のオウンドメディア

 一方、資生堂が「女性のキレイを応援するサイト」のキャッチフレーズで運営してきた「Beauty & Co.」は、9月30日で会員制のサービスを終了した。2012年4月にオープンし、パナソニックの美容家電部門やJTB、ABCクッキングマートなど20社以上が参画したBeauty & Co.は、同サイトを経由して参加企業のEC(電子商取引)サイトで購入した金額に応じてポイントを付与する仕組みで、集客したユーザーを、自社ECおびWebカウンセリングが受けられる「watashi+(ワタシプラス)」に誘導する狙いだった。だが2015年3月にモール機能を終了し、美と健康の情報発信に専念していた。今回の会員サービス終了で、当初の青写真からは大きく後退した感がある。

 オウンドメディアの存続が危うくなるのは、売り上げへの寄与、あるいはブランディング目的であればその貢献度合いが曖昧な場合だ。企業のオウンドメディア運営を支援しているエヌプラス(東京都港区)代表取締役の中村祐介氏は、「オウンドメディアは広告と違って開設してすぐに成果は得にくい。企業の広告宣伝部門が主導して、広告代理店が関与するタイプのオウンドメディアは、予算をかけて華々しくスタートする分、その後の成果次第で行き詰まるケースも出てくる。予算規模が小さいコーポレート部門の管轄で、外部委託するにしても自社の関与度が高いオウンドメディアの方が、じっくり取り組んでじわじわ成果を上げている例が目立つ」と指摘する。

 地道に成果を上げている例として、日本ハムのバーベキュー情報サイト「BBQ GO!」がある。同社コーポレートコミュニケーション推進室が、自社商品が継続的に選ばれる仕組み作りとして、職業・社会体験型施設「キッザニア」へのパビリオン出店やゴルフトーナメントの冠スポンサーなどと並んで取り組んでいるオウンドメディア運営で、テーマに選んだのは「バーベキュー」だった。

好調な日本ハム「BBQ GO!」

 実は1兆2000億円を超える日本ハムの連結売上高のうち、牛・豚・鶏肉の取り扱いが50%を超える。バーベキュー人気を高めることは、この売り上げ規模が一番大きい領域を伸ばすことになる。

 テーマ選定は実に戦略的だった。ハム・ソーセージのようにあまり検索されないテーマについて情報発信を強化しても効果が薄い。反対に、ニーズはあるが「グルメ」「レシピ」のような既に定番サービスが強い領域も避けた方がいい。ニーズがある、すなわち検索数が多くて、それでいて競合が少ない。そんなブルーオーシャンを求めてたどり着いたのがバーベキューだったのだ。

日本ハムは戦略的に「バーベキュー」をテーマに選んだ
日本ハムは戦略的に「バーベキュー」をテーマに選んだ

 コーポレートコミュニケーション推進室の藤本芳人氏は、BBQ GO!の開設に当たって慎重に検討を重ねた。「バーベキュー場の数は全国1000カ所超のレベル」「検索の多くはバーベキューと地域名の2語検索」「バーベキュー場情報を網羅することで、下調べのために検索する愛好者にとってポータルになりうる」「準備や食材、道具、レシピ、おすすめスポット情報などコンテンツには事欠かない」など、運営の目途が立ったことから開設に踏み切った。

 開設から1年半が経ち、自社商品のサンプリングに協力してくれたバーベキュー場を地域検索の上位に特別枠で表示して送客するなど、バーべキュー場とのコラボレーション企画が持ち上がっている。またBBQレシピコンテンツを小冊子にして食品スーパー店頭に置く流通事業者とのコラボで肉製品の販売が伸びるなど、売り上げに貢献する媒体になっている。BBQ愛好家が情報を得ようと検索するその通り道に、バーベキュー情報とお役立ち記事を用意して待ち構えたことが成功の秘訣だ。

 サイボウズの「サイボウズ式」もまた売り上げへ貢献を果たしているオウンドメディアだ。サイボウズ式は、チームワーク×新しいワークスタイルを標榜する、販促とは明らかに異なるブランディング目的のメディア。最大6年の育休制度やフレキシブルな勤務体系で離職率が28%から4%に下がった自社の経験を踏まえ、働き方の多様性と生産性の両立を主眼に置いている。そうした提唱は、IT業界や大手企業にとどまっていた同社の認知度を、中小企業やPTAなど多種多様な組織・団体にも広げた。

 サイボウズ式の記事は自社サイトにとどまらず「BLOGOS」などにも転載されているため、目にする人は多い。グループウエアのクラウド版「cybozu.com」の導入アンケートでは、製品を知ったきっかけとして、5%ほどではあるが、直接宣伝をしていないサイボウズ式が挙がるようになったという。

 両社とも、課題を解決する手法としてコーポレート広報部門がサイトを立ち上げ、また肉製品やグループウエアといった「モノ」を売ろうとせず、バーベキューというレジャー、多様なワークスタイルとチームワークの向上という「コト」目線に立ってコンテンツを展開し、売り上げ貢献を果たしている点で共通している。

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