「コカ・コーラパーク」がこの12月をもってサービスを終了する一方、売り上げ貢献が明確な日本ハム「BBQ GO!」などは好調だ。オウンドメディア再考が求められている。
「コカ・コーラパーク」は2016年12月21日(水)をもって一部の機能(後述)を除いて全てのサービスを終了させていただきます──。
2007年6月の開設から9年半にわたって日本コカ・コーラのデジタルマーケティング戦略の拠点となってきたコカ・コーラパークが、その幕を閉じることになった。IDは破棄しないものの、毎日配信してきた「朝刊メール」は終了。同社の情報は、コーポレートサイト「Coca-Cola Journey」や、自販機と連携するスマートフォン専用アプリ「Coke ON」、週刊メルマガ「Coca-Cola News」で発信していく。

2009年秋に日本アドバタイザーズ協会のWeb広告研究会が「トリプルメディア」を提唱し、コカ・コーラパークはその一角である「オウンドメディア」の成功例として位置付けられる存在だった。本誌もたびたびオウンドメディアの代表格として取り上げてきた手前、パーク終了の要因は何か、オウンドメディア運営はどこへ向かうのか、本特集を通じて解き明かしたい。
パソコンからの利用者が急減
コカ・コーラパークはここ数年、明らかに停滞していた。開設4年足らずで早々に1000万会員を達成し、2013年には1300万人に到達したが、終了をアナウンスした時の会員が変わらず1300万人であることから、この3年は会員の伸びが止まっていたことが分かる。会員数の増加がどこかのタイミングで踊り場を迎えるのはやむを得ないが、問題は月間利用者数や滞在時間など、コミュニティーの活性度合いである。

国内20万人規模のユーザーパネルを持つヴァリューズ(東京都港区)の調査によると、コカ・コーラパークのパソコンからの利用者は、2013年10月に236万人いたが、2年後の2015年9月には150万人弱に減少。直近2016年9月には100万人超に落ち込んでいた。
一方、スマートフォンからの利用者はここ1年、150万人前後の水準で横ばいで推移している。1人当たりページビュー数や滞在時間はパソコンからの利用者が総じて高かったため、パソコンからの利用者の減少はコカ・コーラパークの接触機会を質・量ともに下げることになった。
コカ・コーラパークは、ゲームを中心に多数のお楽しみコンテンツを投入してユーザーを引き寄せ、遊ぶほどたまる「パークG」を付与することでリピート来訪者を増やす仕組みだった。その目的は、缶コーヒー「ジョージア」をきっかけに来訪した人にスポーツ飲料「アクエリアス」を、緑茶飲料「綾鷹」や「爽健美茶」をきっかけに流入した人にミネラルウオーター「い・ろ・は・す」を、といった具合に同社の多岐にわたる飲料ブランドとの接触機会を創出することで、店頭の棚や複数台が並ぶ自販機の前で同社ブランドを想起させ、購入してもらう。そんなシナリオである。
事実、ネット調査会社のモニターを対象にパークの会員と非会員とでコカ・コーラ商品の購入動向を調査したところ、会員は年間で平均数千円、購入額が多いという結果が出ていたという。これがパークの成果であり存在意義である。
しかしながら利用者数および利用頻度の低下で、この費用対効果が悪化した。国内有力500サイトをネットユーザー3万人以上が評価する「Webブランド調査」(日経BPコンサルティング)を振り返ると、コカ・コーラパークは2011年10月調査の11位が最高位で、2014年4月調査の45位を最後に上位50ブランドから姿を消している。
2013年時点ではまだ活性化していたパークに何が起こっていたのか。一つ考えられるのが、リニューアルの失敗だ。コカ・コーラパークは2014年6月にリニューアルし、パークGを「ためる」と「つかう」で、スマホサイトは上下に二分、パソコンサイトは左右に二分する新レイアウトを導入した。傍目からは分かりやすくなったように映るが、リニューアルを機に1000万を超えるパークGは没収になったり、自分が楽しんでいたゲームが探しにくかったりといった、常連ユーザーからの不満の声がSNSや掲示板に残っている。結果論だがパークのリニューアルはマイナスに作用したと考えられる。
コカ・コーラパークにはブランド刷り込みを狙うメディア以外に、キャンペーン応募プラットフォームという役割もある。シールに記されたシリアルナンバーを入力すればよいデジタル応募の手軽さで、継続意欲を高める効果をもたらした。
しかしながら缶一本ごとにシールを貼って出荷する必要があるシールキャンペーンは、コストがかかることもあり、近年は実施機会がめっきり減っている。替わって増えているのが、SNSを利用して拡散を狙うキャンペーンだ。
例えばい・ろ・は・すシリーズに「もも」が新登場する2015年のキャンペーンでは、発売前に新製品のフレーバーを当てる四択クイズをTwitterの投票システムを使って実施し、1万人以上が投票に参加した。続いてクイズの回答(もも)投稿をリツイート(RT)することを条件に、発売前に抽選で1000人に試飲ボトルをプレゼントするキャンペーンを打ち、「新フレーバーにももが加わる」という投稿のRT数は10万件に上った。
さらに、思わず写真に収めたくなる桃をかたどったケースで試飲ボトルを配送し、指定のハッシュタグ付きで感想投稿を依頼したところ、1000人の当選者のうち過半数が写真付きで投稿した。こうして発売日までに新商品の関連ツイートが16万件に達したことで、初動の売り上げは他のフレーバーシリーズの倍近いスタートを切ることに成功している。このようにキャンペーンの舞台がSNSに移行し、応募プラットフォームとしての役割が減ったことも、パークに見切りをつける一因になったと考えられる。
売り上げ直結のアプリを重視
目下、日本コカ・コーラは「Coke ON」アプリにリソースをシフトしている。アプリを起動したユーザーが、対応自販機とBluetoothで接続して購入するとスタンプがたまり、15個で好きな飲料と交換できるドリンクチケットを発行するというスタンプ施策がウリのサービスである。

パークの再建よりも、売り上げと直結する自販機アプリをデジタル戦略の柱に据えた格好だ。スーパー、コンビニエンスストアなどさまざまな販路の中で自販機が最も利益率が高く、また国内で最も自販機設置台数が多いメーカーとして、自販機をターゲットに据えたのは理にかなっているようにみえる。
同社マーケティング本部IMC iマーケティング統括部長の豊浦洋祐氏は、「自販機で飲料を購入する行動を、アプリを通じておトクで便利で楽しいものにする。オウンドメディアからオウンドサービスに進化するとき」と決意を語る。国内に98万台あるコカ・コーラブランドの自販機の14%を年内に対応自販機に切り替え、アプリも年内200万ダウンロードを目指す。
アプリのダウンロード、そして購入時のアプリ起動にはそれぞれひと手間かかる。そこはおトクなユーザー体験で克服する考えだ。パーク終了に伴うキャンペーンとして、自販機で好きなドリンクを1本無料でもらえるドリンクチケットが当たるプレゼントを実施。Coke ONへの移行を促している。
11月11日には、音楽配信サービス「Spotify」と連動したサービス「Coke ON ミュージック」を追加した。それぞれの飲料にマッチした曲をセレクトしている。「片手に飲料、片手にスマホ」のスタイルで、休憩時間にアプリで曲を聴きながら同社の飲料を飲んでもらう。そうして顧客時間を占有したい考えだ。
オウンドメディア開設ブームから年月がたち、その貢献を問われる時期に来ている。コカ・コーラパークの終了は、オウンドメディアを持つ企業に見直しを迫ることになるだろう。