アスクルのECサイト「LOHACO」はパートナー企業にとってデータ活用における“宝の山”。共同で展開する商品開発やプロモーションの事例から、その活用法を探った。
3回目となる「暮らしになじむLOHACO展」が2017年10月6日から11日まで東京「代官山T-SITE GARDEN GALLERY」で開催され、延べ1万7000人を集めた。

LOHACO展とは、アスクルがヤフーの協力を得て運営する個人向けEC(電子商取引)サイト「LOHACO(ロハコ)」専用にメーカーが開発した商品を一堂に展示し、アピールする場。2015年は21社、2016年は36社、そして今回は48社が参加し、61の商品を展示した。
参加メーカーが増えているのは、LOHACO専用品からヒット商品が次々と生まれているからだ。2016年2月に発売したキリンビバレッジの健康麦茶「moogy(ムーギー)」や、2017年10月4日の発売後、3週間にわたってLOHACOのビール類売り上げの首位になったサッポロビール「サッポロホワイトベルグ コロコロストッカー」などが代表例である。

では、ヒット商品が次々に生まれる背景は何か──。LOHACOは自らを、「メーカーとともにユーザーの欲する商品を開発し、そのプロモーションにも注力するマーケティングプラットフォーム」(アスクルBtoCカンパニー ECマーケティング本部の成松岳志デジタルマーケティング統括部長兼ECマーケティングラボ所長)と位置付けている。これを象徴するのが、2014年2月から始めた「LOHACO EC マーケティングラボ」である。
LOHACOは、個人情報を除いた顧客属性データや購買データ、サイトに投稿されたレビューデータといったビッグデータを、ラボに参加するパートナー企業にすべて開放。LOHACOとメーカーの担当者が、これらのデータを自由に活用して新しいマーケティング手法の研究や実践に取り組んでいる。

LOHACOと組むと、データの裏付けを得ながら新商品の開発やマーケティングを進められる。仮説をデータによって検証することもできる。このため、ラボ参加メーカーは、スタート時の12社から、2017年には123社まで増加。データ活用も活発化している。
では、その成功例を紹介しつつマーケティングプラットフォームとしてのLOHACOの可能性を検証してみよう。最初に取り上げるのは、これまでになかった新商品を生み出したハウス食品のレトルトカレーのケースである。
「ハウス食品の新製品『ペパー香る!バターチキンカレー』の発売日(2017年11月2日)から5日間の初速がすごい。2016年に売り出したLOHACO専用レトルトカレー第1弾の2商品の初速と比べ、金額ベースで約3.7倍に当たる」
興奮気味に語るのは、LOHACOで食品・飲料部門のマーチャンダイジングを担当するアスクルBtoCカンパニーライフクリエイション本部フード/リカー事業部 フード/リカーの立花智子氏だ。
辛いバターチキンカレーを開発
LOHACOで販売するレトルトカレーカテゴリー内のシェアを見ても、その好調ぶりが分かる。今回売り出したバターチキンカレーと、2016年発売の「じっくり煮込んだほぐし牛肉カレー」「スパイス香る!キーマカレー」を合わせた3商品の11月2~6日のシェアは32%。2016年の2商品のシェアは直近で8%程度だったが、新商品の発売を契機に4倍になった。
「LOHACOで売るレトルトのバターチキンカレーの中で1位を目指す」(ハウス食品事業戦略本部の豊田陽介チームマネージャー)という目標も達成できそうだ。
「ペパー香る!バターチキンカレー」はLOHACOのデータを活用し、「バターチキンカレー=マイルドな味」という常識を覆し、バターのコクがありながら辛口という新しい味を実現したことでヒットした。

ハウス食品は2016年、LOHACOと一緒にレトルトカレーの開発を始めたが、LOHACOのデータを十分に活用したとは言いがたかった。そこで2017年は、一般のレトルトカレーに比べ、バターチキンカレーの売り上げの伸びが4倍強といったデータと、LOHACOのレトルトカレーカテゴリーで最もよく売れているのが他社のバターチキンカレーだという2点から、バターチキンカレーを開発の第一候補とした。
まずLOHACOでバターチキンカレーの購入経験があるユーザーから寄せられた約2500件のコメントを、ラボスタッフの協力を得てテキストマイニング。既存のバターチキンカレーへの不満をあぶり出した。すると、「辛くない」「(辛さやチキンの量が)物足りない」に集約されることが分かった。
実際、トマトの酸味を使って辛さを出す商品はあったが、バターのコクを辛さに生かした商品はなかった。そこで、「辛味とバターのコクを合わせた味と、チキンの増量」を新商品のコンセプトに据え、LOHACOの購買データを使って、このコンセプトを検証した。
1年間にLOHACOでレトルトカレーの辛口、中辛口を購入した2800人を抽出し、そのレビューデータと購買データを検証したところ、バターチキンカレーへの不満の多くは、先のテキストマイニングで得られた結果とほぼ同じだった。加えて購買データの分析から、辛口カレーを好むユーザーは、一般的なユーザーと比べてレトルトカレーを買う頻度が多く、1回当たりに購入する量も多いと分かった。「商品化しても売れるというデータの裏付けが得られたので、開発に踏み切った」と豊田氏は語る。
さらにハウス食品は新たなデータの収集にも取り組んだ。中辛、辛口、大辛が好みなどの条件でLOHACOのユーザーから希望者を募り、選抜した60人を対象に、新商品の試食会を催してアンケート調査を実施したのだ。すると味覚の評価、商品の評価とも事前の予想とほぼ一致する結果を得られ、試食に出した商品の色合いやチキンの量を改善して売り出すと決定した。
ハウス食品では通常、レトルトカレーの開発に1年半から2年をかける。今回はわずか9カ月で開発から発売にこぎ着け、予想を上回るスタートダッシュを実現できた。開発を指揮した豊田氏は、「LOHACOのデータと、LOHACOが用意してくれるラボのスタッフの協力があってこそ、初めて開発できた商品」と振り返る。