将来的なデータ解析を見据えて、9月にコミュニティサイト「Udon WAVE」を開設したのがテーブルマークだ。「以前のようなテレビCMを大量に投下して認知を取るようなマーケティング手法は、むしろ消費者から嫌われる傾向にある。未来の顧客を作るためには、長い目で見て双方向で対話をしながら、徐々にテーブルマーク商品に関心を持ってもらえるような手法に取り組むべきと考えた」とマーケティング&セールス戦略部マーケティング担当の根岸新一部長は開設の意図を語る。

テーブルマークでは、コミュニティサイトの開設に先駆け、消費者調査を基にした商品パッケージの改善を実施したことがある。うどん商品は大きく分けて乾麺、チルド麺、そして冷凍麺の3つがある。これらの商品の利用実態について調査した結果、併用している人が多いことが分かった。テーブルマークが主力とする冷凍麺は通常、レンジ調理をうたっているが、実は茹でてもよく、乾麺などよりも茹で時間は短い。利用シーンによっては、冷凍麺にスイッチしてもらえる可能性がある。そこで、2015年春にパッケージを刷新。鍋だと1分で茹で上がることをパッケージでうたった結果、売り上げが増えた。「供給者側としては気づかないことが世の中にはたくさんある。そうした気づきを得るきっかけになった」と根岸氏は言う。
こうした経験を踏まえ、テーブルマークはコミュニティサイトで消費者の声を吸い上げ、蓄積したデータを解析し、商品の改善やサービスの開発などに生かすことを目指す。「まずは、大量のデータを蓄積できる規模の会員基盤を構築するのが先決」と根岸氏。そこで、年内に1万人の会員獲得を目指して、会員獲得施策に注力している段階だ。
楽天からコミュニティ会員を獲得
その1つは、楽天のポータルサイト「インフォシーク」上で展開しているクイズ企画「テーブルマークなるほどクイズ」だ。毎日キャンペーンサイト上で出題されるテーブルマークに関するクイズに回答すると、最終的に正解した人たちで、楽天のポイントサービス「楽天スーパーポイント」60万ポイントを山分けできるという企画である。
「クイズに答えるにはテーブルマークのサイトで商品情報をなどを見る必要がある。そのため、昨年の同様の企画ではキャンペーン期間中のテーブルマークのサイトのページビュー(PV)が7倍に膨れ上がった」(根岸氏)。クイズに答えるために、サイトを訪問した消費者をコミュニティサイトに誘導することで、会員増加を図ろうという狙いもある。
こうした施策を展開して会員を集める一方で、コミュニティサイトに設置している掲示板で盛り上がった話題を分析しながら、新たな話題を提供してコミュニティの活性化につなげていく方針だ。
コミュニティサイトは消費者とどう関係を築くのかに加え、コミュニケーションを通じて得たデータをうまく活用できるかが成功のカギを握る。とはいえ、これまでコミュニティサイトを運営したことがない場合、テーマを決めて投稿していくことに不慣れな企業も多いだろう。そこで、コミュニティサイト構築サービスを提供するアライドアーキテクツ取締役の津下本耕太郎氏は、キャンペーンの活用を勧める。「これまで展開していたプレゼントキャンペーンなどを、コミュニティサイト上に移すことから始める企業は多い。キャンペーンもコミュニケーションの1つと考えるべき」。キャンペーンを展開する中で、例えば写真投稿型の企画を実施するなど、徐々にコミュニケーションの要素も取り入れながら、活性化を目指していく。それが第一ステップとなる。
しかし、多くの企業で「コミュニティサイトは社内評価が難しく、投じたコストの意味を問われるケースは多い」とコミュニティサイト運営支援のイーライフ(東京都渋谷区)の徳重翔子シニアコンサルタントは言う。そこで効果指標の1つとして活用できるのが、顧客のロイヤルティを測る指標「NPS(ネットプロモータースコア)」だ。
NPSは、コミュニティサイトの会員に、企業の商品やサービスを友人や同僚に勧める可能性を11段階で回答してもらい、会員を「推奨者」「中立者」「批判者」の3種類に定義するもの。これを用いて、推奨者を増加させることで、優良顧客が増えていることを示せる。こうした指標を見ながらPDCA(計画、実行、検証、改善)サイクルを回すことがコミュニティ運営の基本となる。その結果、さまざまな活用先が見えてくる。
それを端的に示したのが下の図だ。コミュニティサイトの運営を支援するエイベック研究所(東京都港区)が提唱する「Avec User Innovation Model」を基に、データを活用したコミュニティ活性化のサイクルが、どのような事業貢献につながるのかを模式化している。
会員に3つのテーマを投げかける
まずは、コミュニティの活性化を目指す。そのために企業から会員に対して、テーマを投げかけて興味関心のあるテーマを探る。エイベック研究所がそのために推奨するテーマは大きく3つある。まず「活性を得るテーマ」。商品をどう使っているかなど、比較的軽いテーマだ。次に「ロイヤルティ醸成を目的としたラーニングのテーマ」。これは、商品やサービスに関する開発背景など、理解を深めることを目的としたコンテンツだ。そして、最後の「ユーザーからインスピレーションを得るテーマ」。仮定の状況下で商品やサービスをどう使うかなど、隠れたニーズを探るのが目的となる。例えば、テーブルマークは朝食にうどんを食べる場合の調理法を、写真で募集した。
こうした3つのテーマをバランスよく投稿する。これにより、コミュニティが活性化されると、データが蓄積される。併せて、NPSを測定し、コミュニティでの発言などと組み合わせて分析して、どのテーマがNPSの増減に寄与したかを明らかにする。その解析結果に基づき、ファン化につながったテーマをさらにブラッシュアップするなどして、次の施策に落としこむ。こうしたサイクルができることで、蓄積されるデータの量も大きくなっていく。
「最初の1年は会員獲得とコミュニティ活性化によるデータの蓄積に努める。1年分のデータが貯まれば、何がファン化に効くのか、かなり精緻に分かる」とエイベック研究所マーケティング本部ソリューション営業部二課の高橋茉那プランナーは説明する。そうして蓄積したデータは、商品開発や広告宣伝など幅広い分野に活用できる。具体的な事業貢献にもつながるはずだ。
