森永製菓は、コミュニティサイトで得たデータをマーケティングや営業に生かし始めている。一方、ソーシャルメディアのファンの中から、より精緻に自社のターゲット層を抽出し、有料セミナーを案内することで、ブランド毀損を防ぎながら実際の購買にもつなげているのが、ワイングラスブランド「リーデル」を展開するRSN Japan(東京都港区)だ。

 RSN JapanもFacebookページを運営してきた。しかし、「Facebookは交流の場。あまり宣伝色を出してしまうとファンが嫌悪感を抱きかねない」(デジタルマーケティングの饒辺香菜氏)ため、ワインに関するハウツーなど購買を直接促すような投稿は控えていた。この結果、「13万人いるファンのうち、ネットショップでの購買につながっているのは数%程度にとどまっていた」(饒辺氏)。

 Facebook上のコミュニティをネットでの購買につなげられないかと考えたものの、あくまで交流の場というプラットフォームの特性や、リーデルが高級ワイングラスブランドであることから、Facebook上では割り引きキャンペーンなどを大々的に打ちづらかった。

 そこで、よりワインに関心の高い人に絞り込んだマーケティング施策を実施するために立ち上げたのが、コミュニティサイト「リーデル・ファンサイト」だ。RSN Japanはコミュニティサイト開設後、プレゼントキャンペーンをFacebookやTwitterで告知して、ソーシャルメディアからコミュニティサイトへとファンを誘導した。

データからソーシャルメディア上の優良顧客予備軍を抽出
データからソーシャルメディア上の優良顧客予備軍を抽出

 登録時には、飲む頻度やグラスの所有の有無、有料ワインセミナーの参加経験の有無など、ワイン一般や自社の商品、サービスについて詳細なアンケートを実施している。このデータを用いて、ワインを飲む頻度が多く顧客化が期待できる会員に絞って、有料ワインセミナーを1000円引きで参加できるキャンペーンを告知している。成果は高く、「20人程度の枠に対して、毎回30~40人の応募が寄せられる」(西村敏雄マーケティングリーダー)など、顧客獲得に大きく貢献している。現状、セミナーは2カ月に1回程度の開催だが、順調に顧客を獲得できていることから、今後回数を増やすことも検討している。

 ただ、これは第1ステップに過ぎないと西村氏は言う。「現状はまだ、コミュニティの土台作りに取り組み始めた段階。かなり細かくデータを取れているので、コミュニティを核として、ともにワインセミナーを実施していけるようなファンを全国に作りたい」(西村氏)。RSN Japan開催のセミナーは、ほとんどが東京や大阪での開催。一部の地域では販売店と協力してセミナーを実施しているものの、まだ数は少ない。これを広げるためにコミュニティサイトを活用したい考えだ。

 リーデル・ファンサイトでは、会員登録時にソーシャルメディアのアカウントでの登録を促している。Facebookのアカウントで登録すれば、友達の数やリーデルのFacebookページのファンになっているかどうかなどを分析できる。「ワイン好きは横のつながりが強い。エリアごとにキーパーソンがいるはずなので、データを基に、そういった人にアプローチしていきたい」(西村氏)。その後は、ネットのコミュニティをリアルにまで広げてワイン市場の拡大を目指す。

共創したバッグは即完売

 消費者とともに商品を開発する共創を、コミュニティサイト運営の目的として掲げる企業も少なくない。三越伊勢丹ホールディングスも、コミュニティサイト「TSUDOIBA」を通じて、自社の顧客とともにバッグを開発した。開発した商品は今年3月に販売。携わった会員を中心に人気を集め、即座に完売する成果につながった。

 三越伊勢丹が初めてコミュニティサイトを構築したのは2012年2月のこと。これまで持っていなかった、Webで顧客と接点を持つプラットフォームとして、EC(電子商取引)サイトの構築に合わせて開設した。「単に販売する場を設けるだけでなく、顧客の声を吸い上げる機能も必要ではないかという考えから開設した」(三越伊勢丹ホールディングス営業本部マーケティング戦略部顧客政策担当の嘉納亜紀子部長)。

コミュニティサイト会員と商品開発をする三越伊勢丹
コミュニティサイト会員と商品開発をする三越伊勢丹

 初めての試みのため、いきなり自社開発するのでなく、まずは外部の企業が提供するコミュニティの構築サービスを使って、開設した。同社は闇雲に会員を集めるのでなく、あくまで顧客から会員を募ることにこだわる。具体的にはTSUDOIBAに会員登録するには、三越伊勢丹のカード会員であることが条件となる。「しっかりとコミュニケーションをするために、三越伊勢丹に愛着を持っている人に登録してもらうことを心がけている」(嘉納氏)。

 その効果はすぐに表れた。開設当初は、ワインと相性の良い食べ物について、ソムリエが薦める3つの商品について投票してもらうといった簡単なコミュニケーションから始めた。この時に1位に選ばれた商品は通常、ワイン売り場には置いていなかったが、アンケート結果を参考にワイン売り場で販売してみたところ、「かなりの数が売れた」と嘉納氏は振り返る。こうした取り組みを繰り返す中で、徐々に手応えを感じていった。

 そして、より本格的にコミュニティサイトを展開するため、子会社の開発会社を通じて内製化。2013年12月にリニューアルオープンした。刷新後は「大人の女性のトークサロン」「美食の広場」「宣伝のお話」「おはなしの場」という4つのカテゴリーを設けて、それぞれのカテゴリー内で月に1~2つのテーマを設けて意見を集めている。そのコミュニケーションの一環で、商品開発にも取り組んだ。

コミュニティの相反する意見を採り入れる

 三越伊勢丹では、「ONLY MI」という三越伊勢丹限定商品を指すブランドを展開している。このONLY MIで開発する商品について、TSUDOIBAを通じて意見を募った。バッグの開発時は、販売してほしい色について投票を受け付けたほか、「長財布が入るサイズがいい」といった具体的な意見も寄せられた。

 中には相反する意見も見られた。例えば、バッグがきちんと閉じられるようにジッパーを付けてほしいという意見に対して、ジッパーをデザイン上、嫌がる意見も見られた。こうした場合には、バッグの中にジッパー付きでかつ、長財布が入るサイズのポケットを設けるなど、なるべく両者に納得してもらえるようにした。開発したバッグは「目標の販売数をすぐに売り切ってしまった」(営業本部マーケティング戦略部顧客政策担当の近藤敏江マネージャー)という。

 しかも、三越伊勢丹では先述した通り、TSUDOIBAの会員IDとカード番号をひも付けて管理している。そのため、商品開発に携わったTSUDOIBAの会員が購入に結び付いているかも分析可能だ。実際、「TSUDOIBAの会員の間でもかなり売れた」(近藤氏)。商品開発だけでなく、出来上がった商品を会員が購入しているのかまで分析可能にすることで、コミュニティサイトが事業に貢献していることを示す。今後、会員の増加とともに、TSUDOIBA上の投稿と購買に関係性があるかといった、傾向の分析にも取り組みたい考えだ。